女性向けライトノベルに異変!?少女たちがハマる奥深き世界の最先端

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更新日:2014/2/17

 現在、中高生男子を中心に大人気のライトノベル。実は女性向けもあるのをご存知だろうか? ファンタジー世界を舞台に、女の子のリアルな心情が描かれたものが多く、気軽に分かりやすく楽しめるのが特徴だ。

 ひと昔前は“少女小説”と呼ばれていたこのジャンル、明治時代に誕生して以降、長らく乙女たちに愛好され、80年代~90年代には、氷室冴子や新井素子といった人気作家が活躍、大ブームを巻き起こした。また、昨年シリーズの再開が発表され大きな話題となった小野不由美『十二国記』シリーズや、男性層からも絶大な支持を得た今野緒雪『マリア様がみてる』シリーズなど、現在のライトノベルにも多大な影響を与えた作品が数多く生まれている。その後は一時下火になったものの、近年、再燃の兆しを見せているという。

  • なんて素敵にジャパネスク
  • あたしの中の……
  • 東の海神 西の滄海 十二国記
  • マリア様がみてる

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時代を彩ってきた少女小説の人気作品は、その優れた物語性も高く評価されている

 

男性向けライトノベル人気の影響も? ファンタジー復権

 売上が低迷する出版業界で、いまだ伸び続けるライトノベル。アニメ化、映画化などメディアタイアップすることでその人気を拡大しているが、その多くは男性向けで、女性向けはそこまで注目されているわけではない。ただ、男性向けが盛り上がることで、徐々に好影響が出始めているという。

 紀伊国屋書店新宿本店の担当・山際菜穂子さんによれば、「アニメなどの影響からか女性の間でファンタジーへの理解がずい分と進んだ印象がある。結果、女性向けレーベルも、ここ10年でかなり増えてきた」そうだ。また、ここ数年、女性向けライトノベルから深化した“BL(ボーイズ・ラブ)”や“TL(ティーンズ・ラブ)”というジャンルや、人気ボーカロイド曲を小説化した“ボカロ小説”というジャンルも急激に伸びており、読者の嗜好が多様化しているとのこと。

 一方、マニアの集う秋葉原に店を構える書泉ブックタワーの担当・田村恵子さんは、「すそ野は広がったとはいえ、売上規模は男性向けに比べればまだまだ小さい」と指摘。「ジャンルを代表するようなヒット作品がもっと欲しい。そのためには、やはりアニメ化などメディアタイアップが重要」とのことで、次々と“絶対にアニメ化すべき作品”を挙げてくれた(これはまた別の機会に紹介予定)。

 女性向けライトノベルは、派手なバトルシーンこそないが、ヒロイン(主人公)のキャラクターが非常に濃く、人間関係もしっかり描かれているため、実は男性の嫁探しにもぴったりという。なので「女性向けと言いながら、実は男性もかなり買っていく」そうだ。ヒロイン目線で描かれる、貧乳やツンデレ、一途キャラなどの細やかな心情は、新たな“萌え”を開拓したい男性をも捉えるのかもしれない。

書泉ブックタワー

女性向けライトノベルの売り場は色とりどりで華やか(写真:書泉ブックタワー)

 

そもそも女性向けライトノベルってどういうもの?

 では、制作側はどんなことを意識しているのか? 女性向けライトノベルレーベル「ビーズログ文庫」編集部に聞いたところ、“オトメ心”が最重要だという。では“オトメ心”とは何かと伺ったところ、「いくつになっても女性の胸の中にある“燃え”と“萌え”」だというのだ。

 近年、女性の好きなものは多様化している。漫画、アニメ、イラスト、声優などなど……その中で、編集部はいかに女性の胸を熱くするかに重点を置いた作品作りを心掛けているという。そのため「絶対オトメ宣言!」というスローガンを打ち出し、少女小説の最重要テーマである“恋愛要素”はもちろん、ライトノベルとしての魅力的な“キャラクター性”、多様な“世界観”、枠に捉われない“チャレンジ精神”などを盛り込んだ“乙女ライトノベル”を提唱している。

(仮)花嫁のやんごとなき事情

書泉ブックタワー田村さんが考える“絶対にアニメ化すべき少女小説”のひとつ『(仮)花嫁のやんごとなき事情』(著:夕鷺かのう)

 “少女小説”と言えば、大人しいものを連想する人が多いのではないだろうか? しかし実際に読んでみるとそんなイメージはまったくなく、幅広いストーリーやキャラクターが多々存在することに驚かされる。笑えて、泣けて、きゅんとする。その作品たちはまさに百花繚乱。女性主人公ものと男性主人公ものによってもタイプは分かれるという。

 女性主人公ものはファンタジーや恋愛がメイン。だが主人公も多様化しており、恋愛だけではなく自身が戦ったり、手に職業を持っていたり、ただ守られるだけではない女の子たちの姿が多く見受けられる。年々強く、逞しくなる女性たちの姿がここにも反映されているのかもしれない。

 一方でトレンドとなっているヒーローは“俺様キャラ”で、多少強引でもぐいぐい引っ張ってくれる男性に魅かれる女性が多い。その他、“実は王子様だった”という設定も根強く人気とのこと。身分の高い人との恋愛や禁断の恋は、女性の永遠の憧れなのだろう。

 また男性主人公ものだとファンタジーもあるが、多くは現代物だという。たくさんの魅力的なキャラクターに囲まれた主人公が様々な出会いの中で友情を育み、苦難を乗り越えて成長する姿を応援したくなるところが女性の胸をくすぐるのだそうだ。男性同士の恋愛を描いたBLとは違い、少年漫画に通じる“燃え”がより強いのかもしれない。

 ファンタジー世界を舞台に、恋愛だけでなく、周辺で巻き起こる人間関係のもつれや戦いを通して主人公(=読者)が成長していく、という構成が王道ではあるものの、その芯の部分がしっかりしているからこそ、枝葉の部分でいろいろな遊びやチャレンジができるのだろう。とにかく幅広いのだ。これだけいろんな種類の作品があれば、まだこのジャンルを読んだことがない方でも、必ず何か一冊は「これだ!」という本と巡り合えるのではないだろうか。

女性向けライトノベル作家募集中! “えんため大賞“とは?

 今回、取材にご協力いただいた「ビーズログ文庫」編集部では、女性向けライトノベルの作家を発掘するために、“えんため大賞”という新人賞を設けている。以前はネットや同人誌から探すことも多かったようだが、最近ではほぼこのえんため大賞への応募作から文庫化しているそうだ。なお、最近は応募者も研究熱心で、ビーズログ文庫で人気のある作品と似たようなジャンルの作品応募が増えているという。編集部曰く「研究してもらえるのは有難いが、新人賞ならではの作品も欲しい!」といのこと。応募してみたい!という方は、思い切って新しいジャンルにチャレンジしてみるのもいいかもしれない。
 

<第15回えんため大賞 ガールズノベル部門受賞3作品の特徴や魅力>

 今回の受賞作は、一風変わったものが揃ったのだとか。この受賞3作品の特徴や魅力について、それぞれ編集部にコメントをもらった。また今回はより“乙女ライトノベル”を意識し、今までも作品の宣伝動画を公開していたが、さらに人気男性声優によるナレーションを入れた動画を作成した。「オトメ心を最大限盛り込めるよう、素敵な声優のみなさんの声で作品の魅力を伝えてもらいました」というこの動画、今すぐ見てほしい!

斯くして歌姫はかたる

特別賞:『斯くして歌姫はかたる』

歌で自然を操り魔物から人々を護る“楽師(カンタンテ)”。中でもエルネスティーヌは誉れ高き<歌姫>として君臨していた。しかしある日、魔物に歌声を奪われた上に反逆の疑いをかけられてしまった彼女は、事件解決まで聖フィデール楽院に身を隠すことに! なのに、超堅物優等生のオリヴィエに「音痴は今すぐ退楽しろ」と脅されて――!?

 
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編集部コメント:他の作品が個性的で票が割れたというのもありますが、最も意見が一致した作品です。キャラクターの掛け合いが非常に魅力的で、作家自身も楽しんでおり、また読者に楽しんでもらおうと思って書かれているのが評価ポイントです。女性向けは運命的に何か背負っているものが多く、この作品もそうなのですが、この歌姫は自分の力でどうにかしようとする姿勢に共感しました。

 

狩兎町ハロウィンナイト

特別賞:『狩兎町ハロウィンナイト』

狩兎町(かるとちょう)の高校生・陽太は、ある晩吸血鬼に襲われる!! 絶体絶命の大ピンチ!! そこに颯爽と登場したのは、(自称)ダークヒーローのイケメン吸血鬼ブラッド。「さあ、お兄さんについておいで。お菓子あげるから」……って誘拐犯か!! 平和だと思っていたこの町、実は奇怪で愉快な化け物だらけ!?

 
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編集部コメント:男性主人公で、現代が舞台。えんため大賞受賞作では今まであまりなかったタイプの作品です。キャラクターの個性の出し方は作家の重要なセンスなんですが、それがすごくうまかったですね。シリアスとコメディのバランスが絶妙です。ラノベはキャラが命なので、ぜひとも今後も活躍してほしいです。

 

お嬢様にしかできない職業

奨励賞:『お嬢様にしかできない職業』

眉目秀麗、聡明で剣の腕も立つ若きユーグスト・パウエル公爵は、宮廷で超がつく人気者(しかも独身)。そんなユーグが、偶然ぶつかった少女に心を奪われた! ユーグを見るなり少女は一目散に駆け去ってしまうが、あとには怪しげなメモが。思わず中を見ると――ユーグの報告書(主に偏見的な女性趣味)が連ねられていて……!?

 
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編集部コメント:この作品の著者は何度か応募してくれている方なのですが、今回は、男性目線のラブストーリーをコミカルに描いてくれました。そこがとにかく好感触だったため、女性も楽しめる恋愛物語となったと思います。さらにミステリー要素が加わることで話の深みが増し、王道ラブコメを違った形で楽しませてくれる作品でした。主人公に感情移入しなくても続きが気になる作品です。

 これからの伸びが期待される女性向けライトノベル。近年たくさんの乙女ゲームがアニメ化され多くの女性たちに絶大な人気を博しているが、女性の“オトメ心”をくすぐる作品はこんなにも身近なところにあった! ジャンルを代表する作品は、“えんため大賞”から生まれるのだろうか? また、それはどのような作品なのだろうか? そしてアニメ化などメディアタイアップは? 少女たちがハマる奥深き世界の進化はまだまだ止まらない。

 
(取材・文=月乃雫)