東野圭吾、作家デビュー30周年記念作品 過去作を “ぶっ壊す”。通算80作目の新境地

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更新日:2015/6/5

 

竜巻の中心には奇跡を起こす“ラプラスの魔女”がいる

『ラプラスの魔女』
東野圭吾 
KADOKAWA 1680円(税別) 
「決して彼女に興味は持たないでください」。元警察官のもとに舞い込んだ奇妙な護衛の依頼。遠く離れた別々の温泉地で起きた硫化水素の死亡事故。大学教授と刑事がそれぞれの立場から事件の真相に迫ろうとするが……。『マスカレード・イブ』以来9カ月ぶりとなる待望の新作。

「これまでの私の小説をぶっ壊してみたかった」。

 当代一の人気作家、東野圭吾のそんな言葉を聞けば、ファンならずとも興味を引かれずにはいられない。『ラプラスの魔女』は作家デビュー30周年という大きな節目に、東野がこれまで書いてきた小説を「ぶっ壊す」覚悟で挑んだ空想科学ミステリだ。発売からわずか5日後に大重版、累計26万部を突破。大反響を呼んでいる。

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 物語は竜巻に襲われた母娘の悲劇から幕を開ける。その数年後、元警察官の〈武尾〉は〈羽原円華〉という少女のボディーガード役を引き受けることになる。猫のような瞳をした〈円華〉が不思議な“力”を持っていることに気づく〈武尾〉。同じ頃、ある温泉地を夫婦で訪れていた映像プロデューサーの〈水城義郎〉が、硫化水素を吸って死亡する“事故”が起きる。歳の離れた水城の妻〈千佐都〉が遺産目当てで66歳の夫を殺害したのではないかと疑念を抱く刑事の〈中岡〉。“事故”の原因究明のため現場検証に赴いた地球化学の研究者〈青江〉。そして2カ月後、別の温泉地で再び硫化水素の犠牲者が出る……。

 未来を予知するかのように振る舞う〈円華〉の正体は? 彼女が追跡している青年とは? 不敵な笑みを浮かべる未亡人〈千佐都〉の自信の根拠は? そして人為的に引き起こすのはほぼ不可能な硫化水素事故が、殺人事件になりうる方法とは? 抑えきれない好奇心から一連の出来事に首を突っ込んでしまった青江教授は、やがて竜巻のように巨大な渦に巻き込まれていく……。

 渦の中心に立つのはタイトルが表す「ラプラスの魔女」であるところの〈円華〉だ。彼女は『幻夜』の美冬のような悪女でもなければ、『容疑者Xの献身』の靖子のように庇護される存在でもない。聖と俗を併せ持ちながらもすべてを超越する“力”を持つ〈円華〉は、これまでの東野作品にはいないタイプの新ヒロインだ。さらに言えば『ラプラスの魔女』という作品自体が、過去作のいずれとも違う位置にいる。多彩なトリックとアイデアが詰め込まれた初期の本格推理小説群や、頭脳明晰な探偵役が論理で謎を解くガリレオ、加賀恭一郎など人気シリーズの要素を巧みに盛り込みながらも、物語の核となる部分に関しては明らかに過去作と一線を画している。

「空想科学ミステリ」というコピーにわずかな違和感を抱く読者もいるかもしれない。だが東野圭吾が描くのは荒唐無稽な「空想科学」ではなく、圧倒的なリアリティに基づく“近未来の予想図”だ。謎に翻弄され、真相に近づくほどにページをめくる手が加速する。そんなミステリの快楽をたっぷりと堪能できることは保証されているのでご安心を。

 なぜ「これまでの自分をぶっ壊す」のか。それは今よりさらに、前へ進むためだ。破壊は常に創造の始まりである。『ラプラスの魔女』は円熟のミステリ作家が通算80作目にしてたどり着いたターニングポイントであり、次のステージへと向かうための決然たる挑戦の証でもあるのだ。

文=阿部花恵

 

発売直後から話題沸騰! 圧巻の読後コメントを紹介

元女子モーグル日本代表
上村愛子さん

泣いて驚いて共感して、いろんな感情が湧いてきて
物語に翻弄されました。
自分にも彼女のような能力があったら
毎回金メダルを取れますね。

 
ときわ書房 本店
宇田川拓也さん

本作を“節目を飾る傑作”と評するのは早計だ。
私は予測する。
東野圭吾のさらなるピークは本作が起点となる!と。

 
ブックポート203大和店
坂井真やさん

絡んだ伏線を感じつつも、
どこに繋がるのかとやきもきさせられ、
人間の身勝手さと生きる虚しさを感じつつも、
読んだ後すっきりする。
新しさと東野さんの作品の好きなところが詰まった一冊だと思います。

 
芳林堂書店 高田馬場店
飯田和之さん

不可能のように思われた謎の現象は
どうやって成し遂げられたのか。
そして、それは誰が何のために起こしたものなのか。
この作品で起こったことが現実に可能なのだとしたら、
世界に多大な影響を及ぼすことになるでしょう。