綾野剛、中村文則と初対面で「どっちが焼き魚のサンマをSっぽく食べられるか?」を勝負
更新日:2015/8/26
小説家・中村文則と、5歳年下の俳優・綾野剛は、プライベートで知り合い親交を結んできた。中村作品の大ファンだった綾野が、「会いたい」とラブコールを送ったのだ。
出会った頃のこと、最近の作品のこと、自分たちの共通点……。
お互いに多忙を極めていたため、久しぶりに会うこととなったこの日の2人は本当に楽しそうで、その姿はまるで兄と弟のようにも見えた。
小説家と俳優は、こんなふうに素敵な関係を結べるのだ。
(ダ・ヴィンチ2015年2月号掲載)
取材・文=吉田大助/写真=森山将人
『教団X』を読んで確信しました。
中村さんはもう、自分の中にある悪の部分を隠す気はないんだなと
綾野 『教団X』、まだ142ページまでしか読めてないんです。すみません。
中村 だって今、連ドラの撮影中でしょ? あの本は、ちびちび読むのもいいと思うしね。
綾野 僕も思いました。一気に読むと、脳内カオスが起こるんです。例えばお酒のアテでいうところのカラスミとか、いわゆる珍味と言われるものを一気に食べると、頭がくらくらするじゃないですか。
中村 面白い(笑)。あの本は珍味の連続だもんね。確かに。
綾野 実を言うと、読む時間がなかったわけでは決してないのに、あえて142ページで読むのを止めたんです。「これ以上読んだらヤバいかもしれない」と、自分が正常を保ちたい観念に駆られてしまったんです。
中村 『教団X』は雑誌で連載してたやつなんだけど、本にするために読み返してたら、自分でもやばかったんだよね。
綾野 142ページまでは、がーっと一気に読んだんです。教祖の松尾が信者に向かって語ってるんです。
──「教祖の奇妙な話」という挿話で、教祖の松尾正太郎が、宗教と量子力学の話を合体させて語っているシーンですね。
綾野 そこのセリフで「我々は、限られた範囲での偶然の連続による人生というショウを見せられている観客である」。……カラスミぶーわーですよ(笑)
中村 危ない本だよね。前半は珍味かもしれないけど、後半から毒薬になるし(笑)。「悪」についても、メーターを振り切って書いてる。
綾野 さっき本の表紙を初めて見せてもらって確信しました、「中村さんはもう、自分の中にある悪の部分を隠す気はないんだな」と。今まではまだ、隠してたところがあったと思うんです。でも、とうとう隠さなくなった。
中村 僕もこの表紙を見た時は驚いたんだよ。鈴木成一さんという装丁家の方が作ってくださったんだけど、なんというか、「悪の聖書」みたい(笑)。でも本の内容的には、強い光と希望を込めてます。
綾野 ……表紙を見ていたら、自分の顔に見えてきました。
中村 ホントだ、剛君に似てるわ(笑)
『銃』を読んだ瞬間 そこには僕がいたんです
中村 剛君とは……あっ、普段は「剛君」って呼ぶんだけれども、対談は「綾野さん」の方がいいのかな?
綾野 僕は「中村さん」ですからね。
中村 綾野さんと……やっぱりダメだ(笑)、剛君と最初に会ったのはもうだいぶ前だよね。
綾野 『クローズZEROⅡ』が公開された後だから、もう5年前ですね。
中村 初対面で、「あなたはSかMか?」って話になったよね。
綾野 なりましたね。
中村 お互いにSだとなって、「どっちが焼き魚のサンマをSっぽく食べられるか?」という勝負をした。今振り返るとね、初対面でやることじゃない!
綾野 僕は、今でも全部覚えてます。
中村 めちゃくちゃ面白かったんだけどね。どういうふうに食べたかはさすがにね、『ダ・ヴィンチ』では言えないけど(笑)。
綾野 あの時は僕、サンマの目にカラシを散々振りかけてレモン汁を絞って「どうだ!」って気になってたんですが、今思えば浅はかだったなと。表層的な表現だなと。もし今やるんだったら、サンマの頭と尻尾だけ残して骨だけにする。
中村 あー、成長してる(笑)。
──5年前に初めて会ったというお話でしたが、きっかけは?
綾野 僕は「3年本」という本を出してるんですが(正式タイトルは『綾野剛 2009▼2013▼』)、それを作ったフリーライターの方が「綾野は中村さんの世界に合う」と思われたらしく、事務所に『銃』の文庫を送ってきてくれたんです。なんとなく開いてみたら、冒頭の一行で、風が吹いた。「昨日、私は拳銃を拾った。あるいは盗んだのかもしれないが、私にはよくわからない」。
中村 それね。当時23歳のフリーターだった自分が、「これはキター。」と思った瞬間だったな……。
綾野 これを読んだときに……そこにいたのは自分だったんです。上で電車が走っていて、河川敷に雨の中ひとり、私は立っている。銃を手に持っている。目の前に人が倒れてる。その映像がブワーッと脳内に入ってきて……ものの数時間で全部読み終えました。ずっと緊迫してたんですね、告白されたかのように。読んでいる間中、僕は『銃』の主人公である「私」が、自分そのもののように思えて仕方なかったんです。そこから『土の中の子供』を読み、他の作品も読みあさっていくうちに、フリーライターの方が「中村さんにお会いしませんか?」と。「ぜひ会いたいです」と伝えたのが5年前です。
中村 噂は聞いてたんだよね。役者さんで、僕の小説を好きな人がいるって。それで、剛君に会う前に『クローズZEROⅡ』を観たんだけど、すぐ分かったよ。「あっ、俺の小説を好きなのはこの人だ」って。
綾野 あははは(笑)。
中村 これは面白い存在感だなと思って、僕もぜひ会ってみたいなと。
綾野 初めてお会いした時、中村さんが嬉しいひとことを言ってくれたんです。「君は『銃』の主人公だね」と。
中村 そうそう。実際にお会いしたら「ここにいるじゃん!」と思ったんだよね。……ここまではいい話なのに、その後始まったのが「どっちがSっぽくサンマを食えるか?」ってやつ。なんでそうなったのかな(笑)。