「山岸凉子スペシャルセレクション」全16巻 待望の傑作シリーズ、ついに完結! 山岸凉子インタビュー

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公開日:2016/7/6

怖いと思うことをずっと描き続けてきた

「スペシャルセレクション」の末尾を飾るのは、卑弥呼の時代を描いた長編『青青の時代』。

「あれを描いていた1998年当時は絶不調で、いくら頑張ってもうまくいかないと一人で焦っていました。それまで手がかりにしていた価値観が消えてしまって、もはや何を手掛かりにマンガを描けばよいのかわからなくなってしまっていたものですから。それでスランプを打開する方法として“神がかり”を描こうと思いついたのです」

 それは大切な過渡期となった。

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「昔は残酷な結末を描くことにむしろ快感を覚えていたのに、今はそう思えなくなったのは、自分が変わってきたんだなという気がしますね。萩尾望都さんも言っていたのですが、“マンガ家は描き続けなくてはダメだ。描かずに間をあけると錆びつく”と。私も、あの時あきらめないで頑張ってよかった。でなければ、結局見つからなかったかもしれない。強引にそれこそ無理矢理描き続けていたら、なんとか、これかなというものを見つけることができたのです」

 東日本大震災の際には、原発の是非を問いかけた『パエトーン』が潮出版社のサイトで無料公開され、サーバーがダウンするほどの大反響を呼んだ。『夏の寓話』では広島を、『ストロベリー・ナイト・ナイト』では核戦争を描いている。

「小学校の時、担任の先生が原爆が落ちたらどうなるかを話してくれて。ぶらぶらと服をいっぱいぶらさげている人がやってくると思って見たら、服だと思っていたのは全身の皮だったんだよと言われた時の衝撃は忘れられない。壁に影が残るというのも、長崎の原爆資料館に行くまで意味がわからなかったのです。実体のない影が残るわけがないと思っていたら、実際はポジとネガが逆で、真っ黒な壁に白く人の影が残っていたのです。実はそれを見ていた間、後ろでずっと“あーっ”と声が聞こえていて、私は空襲されて人々が逃げまどう時の効果音が展内に流されていると思っていたのですが、あとで誰もその声を聞いていなかったので、驚きました。今もそれを思い出すと怖いです。マンガ家として原爆の実態をいつかは描かねばとは思うのですが、絵にするのがつら過ぎて……」

 怖いと思うその先に何があるのか。深い闇に分け入るようにして描かれた作品だからこそ、時を超え、今も輝き続ける。

「この10年くらいでしょうか。会う人が“山岸さんって、もっと怖い人かと思ってました”と言われるのですね。それは作品の印象で、そう言われるまで自分ではそんなに怖い作品を描いているとは思っていなかったのですよ。そこまで無意識なのかって笑われちゃうんですけど。自分はある意味、色でいえば黒い作品を描いてきた。黒い作品なんて人様の役になんかひとつも立ってないじゃないかと思われるかもしれませんが、世の中にはすごく成功した立派な方の話、つまり白い作品がある。でもそれを読むと、私なんかは逆に不安になるのです。スーパー主婦とか、どうやったら人様に気配りができるか、なんて本を読むと初めから絶望感に打ちのめされてしまう。だってなれない、そうなれれば素晴らしいけどなれないから苦しい。私の黒い作品とは、その苦しさを描いているのです。そうであるのなら白い作品を見せられてもそんなふうには生きられないと思っているつらい人に寄り添えるかもしれない。唯一、私のやってきてよかったことはそれかもしれません」

取材・文=瀧 晴巳

山岸凉子
やまぎし・りょうこ●1947年北海道生まれ。69年『レフト アンド ライト』でデビュー。70年代にはバレエマンガ『アラベスク』、ファンタジー『妖精王』などそのジャンルを代表するヒット作を上梓。83年『日出処の天子』で講談社漫画賞少女部門を、2007年『舞姫 テレプシコーラ』で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。

 

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■応募先 
〒102-8110 
東京都千代田区一番町6 一番町SQUARE 
潮出版社宣伝部 
山岸凉子スペシャルセレクション 「サイン色紙」プレゼント係 宛
■応募条件 
はがきに、郵便番号、ご住所・お名前・年齢・「スペシャルセレクション」のいずれかの作品の感想をご記入のうえ、上記宛先にお送りください。
■応募締切 
8月6日(土)当日消印有効
※当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。

弥生美術館(東京都文京区)にて、山岸凉子展「光―てらす―」開催!

■会期
2016年9月30日(金)~12月25日(日) 
詳しくは弥生美術館 公式サイトをご覧ください。