「怪盗探偵山猫」シリーズの番外編が読める! 書き下ろし新作を無料公開


とある広場で“あの人”


今月の“あの人”は…怪盗探偵山猫」シリーズ

犬井

怪盗探偵山猫』 神永 学/角川文庫

悪党から金を盗み、その悪事を暴く。その名は、山猫。──出版社社長が殺された。容疑者は“山猫”と呼ばれる謎の窃盗犯。世間をにぎわすこの怪盗の信条は“人を殺めないこと”のはずが、一体なぜ!? ライターの勝村は事件を追い始めるが……!? 
ピカレスクロマン溢れる痛快ミステリー。犬井は『怪盗探偵山猫 虚像のウロボロス』から登場する特別捜査班の刑事。

「怪盗探偵山猫」シリーズ番外編

山猫の影【第一話】神永 学


写真提供=Getty Image

 山猫が現われた──。

 その連絡を受けた犬井は、胸の内から込み上げる衝動を噛み締めた。

 悪党から金を盗み、ついでにその悪事を記したメモを残し、警察の捜査を攪乱する、神出鬼没の窃盗犯。

 それが──山猫だ。

 世間では、山猫を現代の義賊だ──などともてはやしているが、どんな理念があろうが、犯罪は犯罪だ。

 追うべき対象に他ならない。

 だが、山猫は一筋縄にはいかない。犬井自身、これまで何度も苦汁を飲まされてきた。

 今度こそは──その思いを抱え、新宿区にあるオフィスビルに足を運んだ。

 都庁近くにある、十二階建ての細長いビルで、各フロアに一社ずつテナントが入っている。

 被害にあったのは、十一階にある〈バズ〉というスマホアプリの制作をメイン業務にしている会社だった。

 古びたビルの外観とは異なり、一歩社内に足を踏み入れると、カフェにでも来たかのような、瀟洒な内装だった。

 鑑識が、指紋採取などを行っているが無駄だろう。

 山猫は、これまでの犯行で指紋を残したことは一度もない。

 フロアの隅に、パーテーションで仕切られた一角があり、その前に刑事たちが集まっている。

 おそらく、犯行現場はあの小部屋だろう。

 犬井は、歩みを進め、刑事たちをかきわけ、部屋の中を覗き込んだ。

 毛足の長い絨毯が敷かれていて、窓際には役員用のデスクがあり、中央に革張りの応接セットが置かれていた。

 そこに一人の男が、項垂れるようにして座っていた。おそらく、あの男が被害者の社長だ。

 年齢は三十代後半くらいだろう。髪が長く、いかにも新進IT関連企業の社長といった感じだ。

 社長の向かいには、二人の刑事が並んで座っていた。

 関本と霧島さくらだ。

 すぐに声をかけることはせず、犬井は黙って様子を窺う。

「まさか、こんなことになるとは……」

 社長がため息交じりに言った。

「事件に気付いたのは、いつですか?」

 さくらが訊ねる。

「今朝です。出勤したら、この有様で……」

 そう言って社長が、部屋の隅に目を向けた。

 そこには、高さ一メートルほどの金庫が設置されていた。

 厚さ十五センチはある、金庫の扉は開け放たれていて、中身は空っぽになっていた。

「昨晩までは、変わった様子は何もなかったんですね」

「はい」

「金庫は、発見したときも、開いたままだったんですね」

「ええ」

「金庫の中には、何が入っていたんですか?」

「現金です。正確には、調べてみないと分かりませんが、一億くらいだと思います。それと、新作アプリの開発データが……」

 そう言って、男は頭を抱えた。

「開発データ?」

 さくらが、怪訝な表情で訊ねる。

「はい。今度の新作アプリは、社運を懸けたビッグプロジェクトだったんです。それがこんな形で……」

 社長が長いため息を吐いた。

 現金を盗まれたことより、そのアプリのデータが盗まれたことの方が、ダメージになっているようだ。

「このメモは、どこにあったんですか?」

 さくらは、そう言いながらテーブルの上に置かれたメモを指差した。

 犬井は、そのメモに目を向ける。そこには、以下のような文章が書かれていた。

〈有料コンテンツで荒稼ぎする、貴殿の会社のやり方には、憤りを覚える。よって、天誅を下す          山猫〉

「金庫の中に入っていました」

 社長が答えた。

 さくらの事情聴取は、まだ続いていたが、犬井は踵を返して部屋を出た。

 エレベーターに乗り、一階に降りると、そのまま外に出る。

 夏の刺すような日差しで、一瞬、目の前が真っ白になる。

 何度か目を瞬かせてから、犬井は歩き出した。

──何かがおかしい。

 犬井は、胸の内で呟いた。

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かみなが・まなぶ●1974年、山梨県生まれ。2004年、『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』でプロデビュー、以降「心霊探偵八雲」シリーズを刊行。そのほかに、「怪盗探偵山猫」「天命探偵」「確率捜査官 御子柴岳人」「浮雲心霊奇譚」「殺生伝」シリーズなど、人気作品多数。




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