「こんなお話なかったね」っていう絵本を作りたい。『パンどろぼう』作者の最新作は、不器用だけどカッコいいペンギンが主人公!

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/21

ドーナツペンタくん(コドモエのえほん)
ドーナツペンタくん(コドモエのえほん)』(柴田ケイコ/白泉社)

 子どもから大人まで虜にする人気絵本「パンどろぼう」シリーズ。作者の柴田ケイコさんは、イラストレーターとして活動したのち、息子さんのために作った絵本『めがねこ』で2016年に絵本作家デビュー。これまでにヒット作を次々と発表し、6月17日に最新作『ドーナツペンタくん(コドモエのえほん)』(白泉社)を刊行します。

 柴田さんが描く絵本の魅力は、誰にも真似できないユニークな物語や、親しみやすい世界観、そして読めば読むほど愛着が湧くかわいいキャラクターたち。

 最新作『ドーナツペンタくん』についてのインタビューでは、お話を読む子どもたちの気持ちを大切にするこだわりや、数ある絵本の中でまだ読んだことがないような作品を作ろうとする姿勢から、人気作が生まれる理由が伝わってきました。

(取材・文=吉田あき)

柴田ケイコ
柴田ケイコさん

主人公は雪男になるかもしれなかった

――柴田さんの絵本には動物と食べものの組み合わせがよく登場しますが、今作の主人公はドーナツとペンギンを掛け合わせた『ドーナツペンタくん』ですね。

柴田ケイコ氏(以下、柴田):この絵本は、昨年の夏に発売された雑誌『kodomoe(コドモエ)』の付録だったので、最初はペンギンだけでなく、真夏に似合いそうな雪男も考えていました。でも雪男の存在って4~5歳の子どもはよく知りませんよね。なにより、物語の内容もあまりおもしろくなかったので、雪男はボツに(笑)。

――そうでしたか(笑)。ドーナツ屋のペンギンを主人公にすることが決まるまでには試行錯誤があったとか。

柴田:なかなかストーリーが思い浮かばなくて困っていたところ、Twitterで茶色い背景の前にペンギンがいるアイコンを見かけて、これはいいなと。ドーナツをかぶってドーナツを売るペンギンというキャラクターを主人公にしたら、とパッとひらめいてお話の筋道ができていきましたね。

ドーナツペンタくん(コドモエのえほん)

――後半にはびっくりするような展開も…!

柴田:そうなんです。試行錯誤している時、編集さんが「柴田さんらしいおもしろいお話がいいので飛び抜けちゃってください」と話してくださって。そこで、頭にかぶっているドーナツの秘密と、主人公はドーナツ売りだけするのではなかった、という、読んだ人たちを驚かせる、ドッキリのような展開を思いつきました。

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“できない”キャラクターに親しみが湧く

――いろんな動物のお客さんがやってきて、「自分の顔のドーナツを作ってほしい」とペンタくんにちょっと無理なお願いをしますが、ペンタくんは汗をかきながら一生懸命作るんですよね。

柴田:ペンタくんはそんな依頼がくるとは思っていないから、“作ったことないけどできるかなあ”と自信がないんだけど、頑張って作って。でも不器用なので、ヘンテコな形のドーナツになってしまう……。子どもたちを笑わせつつ、ペンタくんの鈍臭い一面が見られるのが、前半の見どころです。鈍臭いんだけど、後半でじつはすごくカッコいいところを見せてくれる、そんなお話になったらおもしろいし、楽しいだろうなと。

――『パンどろぼう』の主人公にも、泥棒だけどパンが大好きという“別の一面”がありましたが、ペンタくんを鈍臭くてもカッコいいキャラクターにした理由とは?

柴田:主人公のキャラクターに奥行きを出すためです。大人だって完璧な人はいないし、すべてが整っているような性格よりも、できないことがあるキャラクターのほうが私自身は親しみが湧くし、子どもたちも同じかなと。大人にも、そういう鈍臭いところも個性だよ、というふうに思ってほしくて。

――できない一面を持つ人に親しみが湧くことは、日常の中でもありますか?

柴田:私自身がそんなに立派な人間ではないし、いろいろできちゃう人に憧れるので、そういうキャラクターを主人公にすることで自分を応援しています(笑)。それに、大人ってどうしてもできることばかりに目がいきがちですけど、できないこともその子らしさだと思ってほしいところもあります。

ドーナツペンタくん(コドモエのえほん)

絵本だけど実際に作れる食べものを

――不器用なペンタくんが作ったドーナツの形はみんなおもしろくて、子どもたちが笑ってくれそうです。

柴田:最初は守りに入ってしまって、そこまでおもしろくなかったんです。それを、もうちょっと飛び抜けたヘンなドーナツにしようということで、猫の顔のドーナツがまったく違う動物に見えてしまうなどの変化をつけてみました。実際に作れるかどうかも考えながら。

――『パンどろぼう』でも、パンをこねる時の「にゅーっと こねこね」という言葉に違和感がないかどうかを編集さんと一緒に確かめていたとか。“本当のこと”にこだわる理由とは?

柴田:絵本の世界ですけど、絵本を読んだ子どもは実際に作ってみたくなると思うんです。食べものは特に、実際にできるものでないと子どもががっかりすると思って。だからヒゲがプリッツになったり、鼻がマーブルチョコになったり、市販されているお菓子を探してこれだったらいけるなと。

――柴田さんご自身もドーナツを食べることはありますか?

柴田:もちろん大好きです。でも普段はあまり街のほうに出ないのと、高知にはそんなにドーナツ屋さんがないので、たまにイオンに行った時に「今日はいっか!」と、イオンに来た記念日みたいな感じで買います(笑)。子どもが小さい時には、ホットケーキミックスで簡単にできるので、おやつとしてよく揚げていました。

――今作では見返しにペンタくんが作るドーナツのレシピもついていて、子どもも一緒に楽しめそうですね。

柴田:ハグジードーナツさんというお店がレシピを作ってくださって。こんなに簡単に作れるのなら、子どもが小さいときに、アイシング(色のついた甘いペースト)もやってみたかったなって思いました。

ドーナツペンタくん(コドモエのえほん)

「こんなお話なかったね」っていう絵本を作りたい

――イラストを描く時と絵本を制作する時の違いはありますか?

柴田:絵本はお話がなかなかポンポンと出てこないので時間がかかりますが、達成感が大きくて、絵本ができあがって長く読んでいただけることを思うと、それまでの苦労は大したことないなと思えます。でも、絵本作りの最初の段階でお話を「もう一回考えましょう」というのが続くと苦労しますね。

――その苦労を乗り越えるために工夫されていることは?

柴田:一度フラットになって、画用紙を真っ白にするというか、今までのものを全部ゼロにします。まだまだ探求中ですけど、そのほうがいいのかなと今のところは感じてます。

――絵本作家として順調に歩んでいらっしゃいますが、今後の目標や挑戦したいことがあれば教えてください。

柴田:世の中にはたくさん絵本があって、同じような作品を作ってもおもしろくないと思うんです。だから、私らしい内容で「こんなお話なかったね」っていう絵本ができて、子どもたちが喜んでくれたらベストだなと思っていて。それがどんな絵本なのか、答えがわかればラクですけどね(笑)。そんなことを日々考えながら制作しています。

――この絵本とともに読者に届けたいメッセージをお願いします!

柴田:子どもってわかりにくいところもあるけど、ペンタくんみたいに、不器用だけどその子にとって大事な特性みたいなもの、いざとなったらカッコよくなるんだよ、みたいなことを、読み聞かせをしながら感じ取っていただけたら。絵はどのシーンも見てほしいんですけど、私の中では動物たちがいろんな浮き輪で泳いでいる細かいページを頑張ったので、「この動物はどんな浮き輪だろうね」と探し絵をしたりして、何度も楽しんでもらえたら。

《柴田ケイコ『ドーナツペンタくん』絵本原画展情報》
本とコーヒーtegamisha
・会期:6月22日(木)~7月24日(日)
・開催場所:調布市菊野台1-17-5 1階
・問い合わせ:042-440-3477
・オープン時間:11時半~17時半
・定休日 毎週 月・火曜日
・入場料 無料

※絵本原画の展示をする他、7月23日には著者来店イベント、「ドーナツをかぶった参加者の似顔絵を描くサイン会」開催。(要予約・定員あり)
絵本のドーナツレシピを提供した人気ドーナツ店「ハグジードーナツ」とのコラボドーナツもイベント当日販売予定。

・開催場所:調布市菊野台1-17-5 1階
・問い合わせ:042-440-3477
・オープン時間:11時半~17時半
・定休日 毎週 月・火曜日
・入場料 無料

高知蔦屋書店
・開催場所:高知 蔦屋書店・3F児童書フロア
・会期:7月30日(土)~8月31日(水)
・開催場所:〒781-0084 高知県高知市南御座6-10
・問い合わせ:088-882-5544
・オープン時間:9~22時
・定休日 無休
・入場料 無料

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