高知県・ゆすはら雲の上の図書館――“本を読むだけの場所”というイメージを越え、人と人がつながる場所へと成長する【ダ・ヴィンチWeb 全国図書館探訪】

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/1

ゆすはら雲の上の図書館

 日本全国の各地にある図書館。誰もが気軽に本を借りることができるだけではなく、多種多様の企画展やおはなし会なども実施され、市民の憩いの場として愛されています。そんな図書館は、近年パブリックスペースとしての機能を高めるためにリプレイスするだけではなく、民間の企業とコラボレーションしたり、カフェ機能を備えたりと、さまざまな仕掛けが増えてきました。

「ダ・ヴィンチWeb 全国図書館探訪」では、全国の特色ある図書館をご紹介。魅力的な企画展やイベントなどの取り組みにより地域を盛り上げている、さまざまな図書館の方々に取材をしていきます。本をもっと楽しめる可能性が詰まった、図書館。旅行などで近くを訪れた際には、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

構成・文=永見薫

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回答者:ゆすはら雲の上の図書館 片岡 麻理さん、中山 梨菜さん、木稲 沙央里さん

――書籍の貸し借りや企画展、イベント以外にも力を入れて取り組んでいることがあれば教えてください。

 当館では館内でBGMを流しており、おしゃべりも可能、1Fは飲食も自由、2Fでは蓋つきの飲み物は可能となっており、極力禁止事項を設けないくつろげる雰囲気のある場所作りを心がけています。

 また、独自分類を用いた棚づくりに力を入れています(ただし、日本十進分類表(NDC)は基礎として使用)。書棚は「いろはにほへと」の48個のサインを用い、テーマを設けた構成です。資料の探しやすさはもちろん、思わず手を伸ばしたくなるような棚、思わぬ本との出会いを来館者に楽しんでいただけるように心がけています。

ゆすはら雲の上の図書館

ゆすはら雲の上の図書館

――現在図書館では、1年を通してどのような企画展やイベントを実施していますか?

 館内ではさまざまな企画展やイベントを実施していますが、主に下記のような取り組みをしています。

・土日に絵本コーナー内において、保育士によるワークショップ。月曜日には、子育てサークルを実施。
・1~2ヶ月に一度、ミュージックライブラリー(音楽イベント)や映画会の実施
・ボードゲーム体験会(通常も館内ボードゲームの貸し出しを実施しています)
・ワークショップ(町内外、高知県内の講師が中心)
・館内併設のボルダリング設備を利用した、ボルダリング教室の実施
・隣接する福祉施設と合同開催のまつり

 その他にも梼原(ゆすはら)町の保健福祉課と連携した認知症カフェの開催。障がい者アート展や自殺予防週間等々、他課や他機関と連携した特集棚も作成しています。

ゆすはら雲の上の図書館

ゆすはら雲の上の図書館

ゆすはら雲の上の図書館

――司書のみなさんが手掛けた、企画展やイベントで手応えを感じたものについてと、その際に参加者や来場者からどのような反応があったか、印象的だったことについて教えてください。

 印象に残っているイベントを2つご紹介します。ひとつは農山漁村文化協会と合同開催した野菜づくりのイベントです。指導員の講演とあわせて「万能液体えひめAI」を使ったワークショップを開催しました。町内には、農業・林業従事者が多いためノウハウを学びたい方が多く参加され、普段図書館には来館のない町民の方の姿を多く拝見したことが嬉しかったです。

 また、高知県在住の映画監督である安藤桃子さんをお招きした対談では、老若男女町内外より多く来館いただきました。認知度の高い方をお招きし、図書館職員のみで一から最後までやり遂げたこと、多世代の方が幅広く興味をもって楽しんでいただけたことで、職員にとってもモチベーションにつながるイベントとなりました。

ゆすはら雲の上の図書館

――日頃、独自の配慮や工夫、環境づくりなど、みなさんならではのこだわっていることは何かありますか?

 手に取って貰える棚づくりを心がけています。町内の方やその他の来館者に興味をもっていただけるよう、季節やイベント関連、時事関係の特集棚には力を入れて試行錯誤を重ねています。イベントも参加者の様子をうかがいながら工夫を重ねて実施しています。

 館内環境については、まず施設が特徴的な建築なのでその特徴を活かし、共に魅力ある館内になるよう、来館の方への気配りや不便な面のサポートは常に心がけています。

 そして新しいものにアンテナをはり、町内の方やその他来館の方と共に成長していく図書館づくりを目指しています。

――紙の本が少なくなっていき、また地域の図書館の減少や、衰退といったことも懸念されている昨今ですが、この状況を図書館のみなさんはどう感じていますか?

 図書館はあらゆる可能性を秘めた場所だと思います。また同じく本もあらゆる分野を網羅した可能性の塊だと考えています。紙と電子、様々な形の媒体に変化をしますが、本そして文章というものは無くなってはいかないと考えます。

 今図書館は、従来の本好きな人が本を読むだけの場所というイメージを超えて、「情報拠点」としてはもちろん、「場としての機能」、「人と人(これも情報の一つです)をつなげる役割」として新たな一面と共に成長してきているところではないでしょうか。

 当館も、町の図書館としてはもちろん、全国の図書館、書店、出版文化と競争ではなく、互いに面白くつながりながら、可能性を秘めた様々な使い方ができる、“訪れてもらえる図書館”としてこの梼原(ゆすはら)町という土地に根付きながら成長していけたらと思います。

ゆすはら雲の上の図書館

<施設概要>
ゆすはら雲の上の図書館
高知県高岡郡梼原町梼原1212番地2
TEL:0889-65-1900
HP:http://kumonoue-lib.jp/

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