「自由な解釈で楽しんでもらえたら」職場の”推し”を見守る日常を描いたコミック『目の毒すぎる職場のふたり』作者・ma2さんインタビュー

マンガ

公開日:2022/7/23

目の毒すぎる職場のふたり
目の毒すぎる職場のふたり』(ma2/オーバーラップ)

 仕事は真面目に正確に、がポリシーの女性会社員、等々力乙(とどろきおと)。そんな彼女の心拍数を乱すのが、32歳のしぶユル系係長・本郷(ほんごう)と、フレッシュ全開、輝く笑顔が眩しい25歳の小川大知(おがわだいち)。『目の毒すぎる職場のふたり』(ma2/オーバーラップ)は、職場にいる“推し”のやりとりに興奮・感涙・昇天(!?)しながらも、そっと見守る等々力乙が主人公の物語。作者のma2さんに、作品に込めた思いや制作秘話を伺いました。

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――オフィスに推しがいる幸せな日常を描いた本作ですが、キャラクターの人間性が魅力的で、距離感が絶妙だと思います。本作の執筆に至った経緯を教えてください。

ma2:それまでまともに漫画を描いたことがなく、執筆の提案をされた時はコマさえ割れない有様でした。なので「何か描きたいものありますか?」と訊かれても見当もつかず、担当さんから何個か提案頂いた中で自分が昔勤めていた職場のことが舞台なら実現しそうだったのが本作の骨子で、わたし自身が今で言う“推し”を遠くから見守っていたので、第三者目線の”萌え”を漫画にしていこうとなりました。その際、第三者(乙さん)がふたりを侵してはならないという設定はブレないでいこうと話し合いました。

――1つの営業所の中という限定された空間で描かれているのも特徴かと思いますが、そのような舞台にした理由を教えてください。

ma2:想像もしますし勝手な解釈もするんですが、いくら萌えたとしても、目の前で起こることからしか享受できないし、公式(それ)こそが最強です。なので乙さんの目の前で起こること、職場を基本として設定しました。あと、乙さんが彼らのどちらかとどうこうなりたいわけではないから、それぞれのプライベートにはあまり介入しない距離感を示すためでもあります。

――主人公の等々力乙と、彼女の推しである本郷係長と小川大知。それぞれのキャラクターについて、まずは、等々力乙について教えてください。

ma2:乙さんは最後にできたキャラというか、本郷と大知を見守るモブの一人でした。でもそこから、こういうクールビューティが心の中では「萌える!!!」と全力で思っていたらおもしろいのでは?と考え、主人公に昇格させました。

目の毒すぎる職場のふたり
目の毒すぎる職場のふたり

――本郷係長、小川大知はいかがでしょうか。

ma2:本郷ありきで他のキャラを作っていったという感じで、初期デザインからも殆ど変わってないのが本郷です。どうせ漫画を描くなら自分が好きだと思える容姿がよかったし、普段モサっとしているのに、ここぞの場面でキマるのは全人類が弱いギャップです。あえて眼鏡の反射で目を見せない描き方も、本郷の心を見せない→ほぐれていくメタファーに使えるなあとも思いました。

目の毒すぎる職場のふたり

 そして本郷とタイプが違う、あの飄々とした本郷を逆にかいがいしく世話する後輩として大知が生まれました。当初、それぞれにもっと複雑な背景を抱えている設定を考えていて、大知は迷走した記憶がありますね。

目の毒すぎる職場のふたり

――そしてこの営業所には3人の他にも魅力的なキャラクターが多数いますね。

ma2:この営業所は、20年ほど前の職場がモデルになっています。当時は、もちろん仕事はしてますが全体的に雰囲気は緩く、飲みニケーションという言葉が生まれるよりも前なので常に“飲もうぜ”の言葉が飛び交ってました。

 そういう上司に上手に甘えてあしらう後輩・部下もたくさんいた。当然そうなると気前のいい上司の懐具合もあるわけで、とにかく現代よりいろんな面で恵まれていたんだと思います。それは現代においては幻想であることを理解した上で、読み手は漫画を読んでる時間だけ幻想に浸っていいじゃないかと。そういった想いから、一人一人のキャラクター性というより、かつていた上司・部下・後輩から彼らが生まれました。

目の毒すぎる職場のふたり

目の毒すぎる職場のふたり

目の毒すぎる職場のふたり

――第3話までで印象に残っているシーンやエピソードはありますか?

ma2:正直、未熟すぎて読み返すのが難しいほどです。この作品を描くにあたって「クリスタ」(イラストやマンガ、アニメを制作するアプリ)の操作を覚えたレベルで、すべてが手探りで苦労しました。でも第1話の乙さんのモノローグがあっての最終話のモノローグなので……。わたしの漫画キャリアのすべてが始まった第1話がやっぱり印象的ですね。

目の毒すぎる職場のふたり

――とてもさまざまな萌えエピソードが展開されますが、それらはどのようにして考えられたのでしょうか? 特にこういう時にアイデアが浮かびやすい、などがありましたら教えていただきたいです。

ma2:「萌え」というものが最初理解できず、担当さんに、こういうシチュエーションで起こる出来事だから萌える、ということを教えてもらいながら擦り合わせていき、わたしの中の「萌え」の解像度を上げていった感じです。なので本郷と大知がどうなったら乙さんが萌えるのかを想像しただけでアイデアが浮かぶ、というラッキーはなかったですね。

――先生が本作を執筆される際に、特に描くのが好きだったキャラクターは誰ですか?

ma2:やはり本郷ですね。本作のヒロイン(?)だし作品の顔なので、とにかく本郷がよくないと始まらないと思って描いてました。あと、服の着こなしや身に着けるものが、時にキャラクターを語ると思ってるので、毎回気を付けましたし、楽しんで描きました。

目の毒すぎる職場のふたり

目の毒すぎる職場のふたり

――4話以降のエピソードで見どころを教えていただけますでしょうか。

ma2:既に3巻読了の方の言葉を拝見するに、「1、2巻の比じゃない」らしいので、ぜひそこに至るまでのエピソードを主人公の乙さんと気持ちを重ねて読んで頂きたいと思います。

――では最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。

ma2:わたしの漫画デビュー作であり、自由にやらせてもらった思い出深い作品です。とても余白のあるお話になっていますので、みなさんが自由な解釈で漫画の世界を楽しんでもらえたら嬉しいです。

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