「現実のしがらみを超えることで見える自由を描きたい」――TVアニメ『ユーレイデコ』脚本・佐藤大×うえのきみこ対談

アニメ

更新日:2022/7/28

ユーレイデコ
©ユーレイ探偵団

 現実とバーチャルが重なる情報都市・トムソーヤ島にはユーレイが出る!?

 この島の住人たちは、視覚情報デバイス「デコ」を身に着け、リアルとバーチャルを行き来した生活を営んでいた。そこで島のシステムを揺るがす不思議な事件が起こる。

 この島の少女ベリィと、仲間のハック、フィンたちは、システムの外側の存在「ユーレイ」となって、この事件の真相を探っていく。

 原案は『夜は短し歩けよ乙女』『犬王』を監督した湯浅政明と、『交響詩篇エウレカセブン』『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』を手がけた佐藤大。監督は『クレヨンしんちゃん』の外伝シリーズ『SUPER SHIRO』でチーフディレクター、キャラクターデザインを手がけた霜山朋久が務める、オリジナルアニメがオンエア中。近未来の『ハックルベリー・フィンの冒険』ともいえる、新しいジュブナイルストーリーがつむがれている。

 本作の脚本は佐藤大(原案・シリーズ構成)とうえのきみこが担当。ふたりは『怪盗ジョーカー』や『さよなら、ティラノ』といった作品でもともに脚本を手がける名コンビだ。今回は、ふたりに本作の企画のはじまりから、脚本家としての関わり方。そして、ふたりで作品を作る面白さについて語っていただいた。

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近未来SF・ミーツ・ジュブナイルアドベンチャー

――オリジナルアニメ『ユーレイデコ』の原案に佐藤大さんはクレジットされています。あらためて、この企画の成り立ちをお聞かせいただけますか。

佐藤:2016年ぐらいに、湯浅さんと一緒に何かやりませんかというお誘いがあって。その時点で、湯浅さんが描かれたオリジナル企画の一枚絵があって。それは少年探偵チームが超再現空間に入って事件の真相を追い求めるというものだったんです。

 これをバーチャルな少年探偵団ものとしてアニメシリーズにできるといいなと2016年からずっと企画原案を作っていたんですが、2回ぐらい企画がなくなりそうになることもあったんです。声をかけてくれたプロデューサーが会社を変わられたり、湯浅さんがものすごく忙しい時期になったり。それでも2019年ぐらいから本格始動しましょうということになって、霜山(朋久)監督が入ってくれて。それでもう少し企画や設定を詰めていこうと。その後、私と監督でキャラクターや作品のセットアップをしたところで、もうひとりの脚本家に入っていただくことになり、監督も私も一緒に仕事をしたことのある、うえのさんにぜひ、ということになってお誘いしました。

うえの:私が参加した時には、すでに脚本が何話分かあったような気がしますね。それを読ませてもらって、面白そうだなって。ただ、世界観の設定は何回説明を聞いても全然わかんなくて、やってるうちにわかるのかなと思っていました。

――本作の主人公たちの名前を並べると、ハック、ベリィ、フィン。舞台は「トムソーヤ島」。『ハックルベリー・フィンの冒険』や『トム・ソーヤーの冒険』を思わせるネーミングになっています。いわゆる古典ともいえる、ジュブナイル作品をベースにするというのは、どんなところから生まれたアイデアだったのでしょうか。

佐藤:企画を始めた最初の1年ぐらいは湯浅さんと何が面白いかというキャッチボールをずっとしていました。その中で、少年探偵団ものってアニメもドラマも何本かすでにあるよねという話になって。湯浅さんの原点としてやりたいものは、ジュブナイル的なものだし、私もそういう話が好きだったので、じゃあ『ハックルベリー・フィンの冒険』や『トム・ソーヤーの冒険』はどうですか? と提案しました。『ハックルベリー・フィンの冒険』ってハックルベリーのお父さんが殺されるんです。その真犯人を追う探偵ものになるかと思いきや、その犯人はわからないまま物語が終わる。ミステリなのかミステリじゃないのか冒険ものなのか冒険ものじゃないのかわからないんです。それを湯浅さんがお忙しい中に読んでくださって。「これは面白い」と感想もいただいて。そういう要素を少年探偵団の設定に入れると、すごく面白くなるだろうと。そこで湯浅さんがあるときにすごくたくさんのメガネのスケッチを描いてきて「デコレーションカスタマイザーといってこれかけると世界が全部変わる」という面白いアイデアが出てきました。

 最近、フェイクニュースのように、嘘と本当がわかりづらくなっている中で、「嘘と本当」を見分ける少年探偵団、それを冒険ものにするのはどうだろうと。だから、これはどちらかというと、SNSやVR(バーチャル・リアリティ)を描くのではなくて、メガネをかけたら「嘘と本当」が見分けられるようになった少年少女の冒険を描こうとなりました。

――佐藤さんは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』にも関わっていらっしゃいましたが、そういったデジタルな近未来ものというわけではないんですね。

佐藤:もともと湯浅さんの作品が大好きで、アニメイベントなどでご一緒したときに、いつも湯浅さんと何か一緒にやりたいですと話をしていました。その後、湯浅さんがマッドハウスで作品をつくっていらっしゃったころから、何回か企画開発にもトライしていましたが、そのときもサイバーデジタル空間でやる作品の発想はありませんでした。ただ、今回は湯浅さんの企画書の中ですでに「超再現空間」というものがありました。バーチャル・リアリティを描くのなら、今の時代の言葉でいえばメタバースだよなとは思っていたので、そこをうまく盛り込んでいければいいなとは考えていましたね。

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主人公ふたりは、自己肯定感の強さが魅力的

――本作の主人公となる、ユーレイ探偵団のメンバーはどのように発想していったのでしょうか。

佐藤:最初は少年探偵団という発想でしたが、企画を進めていく間に、性別もバラバラ、年齢も全員同世代じゃないほうが良いのでは、という感じになっていきました。お婆ちゃんもいたり、かっこいい男性もいたりという感じで、どんどんチームメンバーがバラエティ豊かになっていって。そのあたりから、キャラクターたちの、チームとしての面白さで見せていくお話にしていこうという方向に決まっていきました。とくに霜山監督が参加してからは、そのキャラクターの見せ方や、キャラクターたちの生活感、人間関係みたいなところを増幅していきました。ただ僕はガジェット感やSF感にこだわってしまう部分があるので、うえのさんにキャラクターを掘り下げを手伝ってもらおうという話になりました。

うえの:そうですね。昔から冒険ものって主人公が男の子のことが多かったので、女の子の冒険ものがあっても良いのになって思っていたんです。この作品は、女の子が中心になって冒険していくので、この作品がアニメだけでなく、小説になったり、いろいろと広がっていけば良いのにと思っていました。

――実際に脚本を執筆されてみて、ベリィとハックといった主人公キャラクターについてはどんな面白さや魅力を感じましたか。

佐藤:最初は、わりとちゃんとした人たちだったんですけど、あるとき、ハックのバックグラウンドを話し合っているときに、ロボに育てられたのなら変なしゃべり方をしたほうが面白いんじゃないのかという話が出てきて。「ガジガジ」「ビリビリ」とか擬音を交えた言葉がどんどん出てきて、キャラクターができあがっていきました。ベリィも最初は優等生なキャラクターだったんですけど、ハックのキャラクターがどんどん強くなっていったので、掛け合いをするとハックに飲み込まれそうになってしまって。そこでベリィもポジティブでグイグイ進むようなキャラクターにしていくなかで「らぶい」とか、独特な言い回しが産まれていきました。

 さらにベリィは4話から日記をつけるという描写を入れることで、時間経過と主人公感を強調することを目指しました。この作品を作る前、なんとなくベリィの語り口を高畑勲さんが手がけたアニメ『赤毛のアン』みたいなものを目指したいという思いがあって。日記を入れることで、なんとなくそういう空気感を出せたかなと思っています。

うえの:ハックが「あい らぶ あい」って言うんですけど、すごくポジティブなんですよね。自己肯定感が高くない人は、一日に2回ぐらい言ったほうが良いなと思います(笑)。

――ベリィとハックの自己肯定感の強さは、とくに中盤以降に見えてきますね。ベリィは自分がユーレイ(トムソーヤ島の市民から認識されない存在)になっても、あまり落ち込まない。

佐藤:そもそも『トム・ソーヤーの冒険』の話のなかに、自分(トム・ソーヤー)が死んだことになってしまうエピソードがあるんですが、子どものころに、それを読んで「ちょっと良いな」とあこがれていたんです。もし、自分が死んだら、学校の友達はどんなことを言ってくれるだろう、どんな反応をしてくれるだろうと思うと、ちょっとワクワクする。そういう「自分がいなくなった世界を見てみたい」という思いと、この作品における「ユーレイ」の設定が重なっていくのが面白いなと考えました。だから、「ユーレイ」になることをネガティブに見せたかったわけではなくて、現実のしがらみを超えることで見える自由を描きたいなと。

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みんなでアイデアを出し合いながら作った、オリジナルアニメの醍醐味

――本作は霜山朋久さんが監督を務め、サイエンスSARUさんがアニメーション制作を担当されています。霜山監督やサイエンスSARUさんとご一緒していかがでしたか。

佐藤:最初に、サイエンスSARUさんにお邪魔したときは、まだ事務所が普通の一軒家だったんです。そこに卓球台があったりして、アットホームな雰囲気で会社っぽい会社じゃない印象がありました。キャラクターデザインもコンペ的にいろいろな人が描いてくれて、それをみんなで見ながら、大きいキャラがほしいとか、いろいろな意見を言っていくうちに、お婆ちゃんのロボットバージョン(マダム44)が誕生したり、ネコのかぶりものをしているキャラ(ミスターワトソン)を出せば、セリフをひとことも言わなくても面白いかも、とか。打ち合わせを重ねるごとに、サイエンスSARUのやり方がだんだんわかってくるような感覚がありました。

うえの:私はこの『ユーレイデコ』の前に『SUPER SHIRO』という作品でご一緒していたのですが、なんていうんですかね、すぐに絵を描いてくださるんです。面白いアイデアをたくさん出してくださるんです。

佐藤:打ち合わせしていると、何かの絵をみんな描いているんです。

うえの:たくさん絵を描いてくださって、そこから脚本を書くことができました。

佐藤:オリジナル作品って、そうやってみんなでアイデアを出して作品をふくらませていくというやり方ができるのが楽しいですね。それは原作ものの作品では、なかなかできることではないかなと思います。

――本作では佐藤さんは第1話から第4話までと、6話、8話、10話、12話を担当されていて、うえのきみこさんは5話、7話、9話、11話を担当されています。おふたりの作業分担はどのように決めていかれたのでしょうか。

うえの:佐藤さんが主に決めてくださったんです。

佐藤:『怪盗ジョーカー』(2014年)や『さよなら、ティラノ』(2021年)のときも、このあたりをうえのさんに書いてもらったら面白くなりそうかなという感じで決めたら、上手くいったこともあって。『ユーレイデコ』でも中盤から、ユーレイ探偵団のメンバーのバックボーンを掘り下げていく展開になるんですが、その中のある回は、うえのさんに書いてもらえてとくに良かったなと思っています。

――先ほど、佐藤さんとうえのさんはいくつもの作品をご一緒されていると伺いました。あらためて、おふたりが組むことの面白さをお聞かせください。

うえの:佐藤さんは本当にたくさんの知識と情報量をお持ちなんです。きっと頭の中はすごいことになっていると思います。一緒にお仕事をするときは、必ず頼りになる存在で。佐藤さんが指し示した道を行けば間違いはないんだなと、教えてくれる存在です。今回も第11話を書くときに、どうしたらいいのかわからなくてかなり難しかったんですが、佐藤さんが道をつくってくれて。こっちに進むんですね!と。ご一緒すると安心できる存在です。

佐藤:うえのさんと最初に仕事をしたのは、『スペース☆ダンディ』(2014年)だったんですけど、そのときから私には絶対に書けないアイデアをもっていらっしゃるなと思っていましたし、渡辺(信一郎)監督(『スペース☆ダンディ』総監督)からは「(佐藤さんは)真面目過ぎる」とよく言われるんですが、うえのさんのような、良い意味で、抜いた感じのホン(脚本)ってなかなか書けないと思っていて。だから、いつもすごいなと感じています。なので逆に、うえのさんはどんな頭の中をしているんだろうと(笑)。『怪盗ジョーカー』でも、マジックのトリックは僕たちで考えて、キャラクターの面白いところは、うえのさんにアイディアを貰っていました。うえのさんはものすごい輝くセリフを書いてくださるので、それを僕らは利用してまとめていく、みたいなかたちで作っていました。だから今回もすごく頼りにしていたし、先ほどうえのさんが「道をつくってくれる」と言ってくれましたけど、うえのさんはその道を寄り道することですごく面白いものを見つけてくれる。そういう意味で、うえのさんに参加していただくと安心という感じがあるんです。ぜひ、今後もいろいろな作品でご一緒したいですね。

――「ユーレイデコ」の完成した映像をご覧になっていかがですか。

佐藤:わりとおとぎ話のような感じでひと夏の冒険を描いているんですが、現代とつながっているものを作りたかったんです。僕と湯浅さんが考えた設定がともすればディストピア(アンチユートピア)の世界観になりがちで、ちょっと間違うと管理社会ものになってしまいそうでしたが、霜山監督がポジティブにこの世界を描いてくださって。システムをつくったのも人間だし、そのシステムをどう使うかも人間だから、本質的に怖いわけじゃない。同じく、SNSが怖いということを言いたかったわけでもないし、SNSのおとぎ話を描きたいわけでもない。むしろ、何が本当か嘘かわからないこの世界で、正しい正しくないとか、何か勝ち負けとか、極端に決め込むことで互いに分断するのではなく、互いを見つめ合う方法を、観て頂いた方々にも見つけてもられるといいなと。脚本を書いてから、だいぶ時間が経っていたので、完成した映像を客観的に観ることができたんですが、すごく良いバランスになったなと思いますので、たくさんの方に観ていただけると嬉しいです。

うえの:いま佐藤さんがおっしゃったように、ちょっと時間が経って書いたことを忘れてしまっているので、もう一度視聴者として楽しみに観ていきたいなと思っています。想像していたよりも、かわいくなっていますし、話が進むと、もっとかわいいキャラクターも出てきますので、ぜひ楽しんでいただきたいです。

佐藤大
脚本家。『永久家族』で脚本家として活動を開始。『カウボーイビバップ』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』などに参加。『交響詩篇エウレカセブン』でシリーズ構成を担当した。2017年より『ドラえもん』の脚本に参加、映画『ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の脚本を担当した。2022年10月には映画『ぼくらのよあけ』が公開予定。

うえのきみこ
脚本家。『クレヨンしんちゃん』や『スペース☆ダンディ』などさまざまな作品に参加。シリーズ構成を務める作品に『王室教師ハイネ』『ちみも』『永久少年 Eternal Boys』など。映画『さよなら、ティラノ』(佐藤大、福島直浩との共同)、映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』(橋本昌和との共同)でも脚本家として活躍している。

取材・文=志田英邦

TVアニメ『ユーレイデコ』
https://yureideco.com/

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