英語が私を解き放ってくれる――上白石萌音インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2022/7/29

上白石萌音

 上白石萌音さんが、翻訳家の河野万里子さんとの往復書簡で、名作『赤毛のアン』の名シーンを翻訳した書籍『翻訳書簡『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅』。2年にわたる物語の翻訳を通じて得た学びや、翻訳者としての上白石さんの魅力をふたりに語ってもらった前編に続き、この後編では、上白石さんに、語学を学ぶことが表現に与える影響や、最近の読書体験について聞きました。

取材・文=川辺美希、写真=山口宏之

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演技と翻訳は通じるところが多い。一番大切にすべきは作品ということも同じです

――上白石さんは、読書も執筆もされますし、語学も学んでいて、すごく言葉に向き合っていると思うのですが、言葉に向き合う経験というのは、演技や歌手としての仕事にどういう影響を与えていますか?

上白石萌音さん(以下、上白石):私は何事も全部、言葉だなと思うんです。お芝居をするときも、脚本家の方が書かれた言葉を咀嚼して、自分の言葉として言いたいと思っていますし、歌を歌うときも、ほかの方に書いていただいた歌詞も、自分のことのように歌いたいという気持ちがあって。自分のものにするためにはやっぱり共感しなければいけないし、共感できない役だとしても、共感した上で演じるわけですから。そういう意味では、言葉に向き合うことが、想像力や心を柔軟にすることにつながっていると感じます。だから本当に、今回、翻訳を勉強して、凝り固まった概念から自分を解き放つということの楽しさと、大切さに気づきましたね。

――翻訳という作業が、新しい場所へと、ご自身の表現や心を連れて行ってくれたんですね。

上白石:はい。翻訳が、演技や歌の表現に、こんなに直結しているとは思いませんでした。河野先生が初回に「訳者と役者は通じる」と言ってくださったんですけど、それを、深く深く実感する2年間でした。

――日本語の台本を受け取って日本語で表現する上でも、翻訳と同じ作業が必要になるんですね。

上白石:まさにそうですね。言葉から1回、状況を思い浮かべて、噛み締めて、いろいろな角度から考えて言葉を出していくということですから、演技と翻訳は、本当に通じていますね。

――物語を自分で、改めて練り直すということですね。

上白石:そうですね。それでも一番大切にすべきは、作品そのものだということも同じです。本当に、翻訳と演技には、共通項が多いなと思いました。

英語のセリフは感情表現がしやすい。「英語だとこんなに解き放たれるんだ」と感じました

――日本では、日本語というひとつの言語で生きている人が大半だと思うのですが、複数の言語を学ぶことは、上白石さんに、どういう気づきや学びをもたらしているのでしょうか。

上白石:言葉が考え方を作っていくというところもあると思うんです。文法や文章の構造が、自分を導いていくというか。私自身、言葉とともに生きているし、言葉に育てられているところがあるなと感じます。たとえば、英語の表現には日本語にはない発想がありますし、英語の表現を読んで、「わぁ、こういうとらえ方ができるんだ」と気づくこともあります。そういうものに出会ったとき、翻訳は苦労するんですけど(笑)。言語が変わることで、ひとつの物事を、全然違う角度から見られることもあるんだと感じましたね。

――英語をプラスアルファで学ぶことで、上白石さんの新しい表現も引き出されている感覚ですか?

上白石:そうだと嬉しいですね。私、一回、ほとんど全編、英語で話すドラマに出たことがあるんですね。そのとき、日本語よりも感情表現がしやすかったんですよ。

――そうなんですね!

上白石:言葉には、そういう側面もあるんですよね。日本語は、やっぱり淡々としているように聞こえますし。「英語だと、こんな解き放たれるんだ」っていう感覚がありました。歌を歌うときも、私、日本語より英語のほうが歌いやすいんです。ミュージカル曲で、日本語で歌いにくいと感じた曲を英語の歌詞で歌ってみたら、その後、日本語で歌いやすくなったりもします。ひとつの表現に対していろいろなアプローチができるという意味では、英語を勉強していてよかったなと思いますね。

――英語を使うことで、新しい自分が生まれる感覚なんですね。

上白石:そうですね。よく、英語を話す方が、日本語より英語のほうがものをはっきり言えるというのも聞きますよね。私はそこまでは達してはないんですけど(笑)。人は同じなのに言えることが変わるなんて、言語って不思議です。

上白石萌音

今、ひとりで「世界名作強化月間」を実施中。大人になって名作を読み返す楽しさを知りました

――今、本はどのようなタイミングで読まれていますか?

上白石:たくさん読めているわけではないんですが、毎晩必ず、お風呂で本を読んでいます。

――私もお風呂で読むので、本がぼろぼろになります(笑)。

上白石:そうですよね。しわしわになった本に愛着がわきます(笑)。

――最近読んだ本で、読者におすすめの本はありますか?

上白石:私、今、「世界名作強化月間」っていうのをひとりでやっていまして(笑)。往年の名作をいっぱい読んでるんですけど、やっぱり、そういう物語には力があるなと思います。最近、読んで良かったのが、子どもの頃にも読んでいた『若草物語』ですね。なんて清らかであったかくって、素敵な物語なんだろうって思いました。子どもの頃とはまた違う印象を受けましたし、より踏み込んだ読み方ができました。児童書にもなってるので、多くの人が触れたことがある作品だと思うんですが、おすすめです。この本で、大人になってもう一度、名作を読むことの楽しさを知りました。

スタイリング(上白石):嶋岡隆、北村梓(Office Shimarl)
ヘアメイク(上白石):冨永朋子(アルール)
衣装(上白石):パフスリーブブラウス ¥60,500(Sea New York/BRAND NEWS 03-3797-3673)、中に着たワンピース ¥68,200(leur logette/BRAND NEWS)、イヤリング本人私物

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