フワちゃん「ブラピが伊坂に寄せてきてる!」伊坂幸太郎氏の『マリアビートル』が、ブラッド・ピット主演でハリウッド映画化!

エンタメ

更新日:2022/8/3

伊坂幸太郎×フワちゃん

 伊坂幸太郎の代表作の一つ『マリアビートル』が、ハリウッドで映画化(ブラッド・ピット主演)された。タイトルこそ『ブレット・トレイン』に変更されているが、ストーリーは意外なほど原作に忠実だ。以前から『マリアビートル』を熱烈応援してきたフワちゃんは、この日、伊坂と初対面でテンションもマックス! 『マリアビートル』&『ブレット・トレイン』の魅力を熱く語り合った。

取材・文:吉田大助 撮影:干川 修

ブレット・トレイン
映画『ブレット・トレイン』ポスター

ブレット・トレイン』は、想像していたよりも『マリアビートル』だった

フワ はじめまして、フワと申します。よろしくお願いします! お会いできて嬉しすぎます。伊坂さんのことが大好きです!

伊坂 (笑)。いろんなところで応援してくださって、ありがとうございます。お会いできて嬉しいです。今日、フワちゃんさんに会うことを言ったら、息子に、「フワちゃん、父さんみたいな普通のおじさんとしゃべるの困んないかな?」と言われちゃって、何だか申し訳なくて。

フワ あははは!(笑) お父さんは、あたしが唯一進んで「さん」付けする、すごい人だよ!(笑)

伊坂 あと、妻が何だかやけにフワちゃんさんに好感を抱いているんですよね。対談で何をしゃべったらいいんだろう、と話していたら、「フワちゃんなら大丈夫だよ! ちゃんとしてるから、どんな話もできるから」とか言ってくれて。いや、そうかもしれないけど、別に親しいわけじゃないでしょ? と思うんですが(苦笑)。やたらフワちゃんさんを信頼していて。

フワ 奥様かわいすぎ!(笑) 一体何がハマったんだろ! 伊坂家、おもしろ!

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伊坂 映画もご覧になったんですよね。どうでした? ハチャメチャでした? という訊き方も変ですけど(笑)、僕はほんと、一流の人たちが作ったハチャメチャさが楽しくて。

フワ も~ハチャメチャでした(笑)。特に後半はしっちゃかめっちゃか、超絶ハリウッドで面白かったですね! でも前半は意外や意外、かなり伊坂さんっぽいというか、「私が大好きな『マリアビートル』そのままじゃん!」って嬉しいビックリでした。

伊坂 そうなんですよ。実は、「新幹線の中で殺し屋が戦う」という設定以外は違ったりするのかな、と思っていたんですが、小説と同じ部分が予想以上に多くて。「あ、『マリアビートル』だ」と僕も思いました(笑)。

マリアビートル
フワちゃん激推しの『マリアビートル

ブラピが伊坂に寄せてきてる!
〈七尾〉〈蜜柑〉〈檸檬〉……俳優陣がイメージぴったり!

フワ 伊坂さんもそう思ってただなんて! ストーリーもキャラ設定もそのまんまなところが多くて、ファンとしてはかなり嬉しかったです。私も大好きな主人公、運が悪すぎる殺し屋の〈七尾〉を演じるのがまさかのブラピなんだけれど、最初聞いた時はイメージと違いすぎて「ワオ」って思っちゃったのが本音! 〈七尾〉はもっと「すみません……」ってイメージだったから、こんなにカッコイイ人が〈七尾〉!?って疑ってました。でも蓋を開けてみたら、全然いつものブラピと様子が違って、もう『マリアビートル』の〈七尾〉そのまんま。「え! ブラピが伊坂に寄せてきてる!」って興奮しちゃいました!!

伊坂 寄せてきてる、という言い方が正しいのかどうか(笑)。予告編だけでも、周りに振り回されて終始困っている様子が出ていましたよね(笑)。それがすごく、かわいい。ブラッド・ピットさん、さすがだなあ、すごいなあ、とひたすら感動しました。

フワ ブラピって、すごいね! 好きなキャラクターで言うと、私は殺し屋の〈蜜柑〉と〈檸檬〉の果物コンビが大好き! 二人の会話がユーモラスで愛おしくって、ずっと見てたくなっちゃう。映画でも初っ端の、〈蜜柑(タンジェリン)〉と〈檸檬(レモン)〉が列車で向かい合って会話してるシーンから最高でした。それぞれの目線カメラでサクサク切り替わる演出で、二人の会話のテンポがまんま『マリアビートル』。原作ファンは沸いちゃいます! あと、二人が仕事してるシーン。殺し屋なので殺すんですけど、そこがミュージックビデオみたいな軽やかなテンションで殺していくので超痺れました。あのシーンはカッコ良すぎて、映像化してくれてありがとーーーって頭下げまくりです!

ブレット・トレイン
マリアビートル』の〈檸檬〉と〈蜜柑〉は、『ブレット・トレイン』の〈レモン〉(左)と〈タンジェリン〉(右)

伊坂 良かったですよね! 映画ならではの楽しさで。

フワ なんで〈檸檬〉は、殺し屋なのに『きかんしゃトーマス』が好きなんだろう! いろんな人間をトーマスに例える。

伊坂 『きかんしゃトーマス』の蘊蓄ネタ、映画でもちゃんと再現してくれてましたね。

フワ 『トーマス』は、世界共通!

伊坂 『マリアビートル』を書いてるとき、うちの息子がたまたま『トーマス』が大好きだったんですよ。だから、僕もすごく詳しくて。調べないで書けるから入れただけで、息子が当時『アンパンマン』好きだったら、『アンパンマン』のネタを出していたかも(笑)。

フワ えぇ! そんなノリで決めてたなんて!(笑) 〈檸檬(レモン)〉と〈七尾(レディバグ)〉が、車内で座りながら戦うシーンも最高でしたよね! あそこ、小説でもすごく丁寧に書かれてる超超面白いシーンだから、ハリウッドのアクションで忠実に再現されていて、感動しました!

ブレット・トレイン
座席で向かい合う〈レモン〉と〈レディバグ〉。
このあと二人は――。

伊坂 予告編を観て「原作と全然違うんだろうな」と思った人も、実際に観てみると「想像していたよりも『マリアビートル』だな」ってなる気がするんです。ただ、先へ進むにつれてどんどん、いろいろヒートアップしてくんですよね(笑)。「トンデモ日本」感もありますし。

フワ いいフレーズ!(笑) トンデモニホン! ハリウッドがイメージするニッポンはこうなのかぁ!

伊坂 あ、ただ、昔ならいざ知らず、さすがにアメリカでも日本のことを知っている人は多いと思うんですよね。情報化社会ですから、調べればすぐに分かりますし。なので、知っているけれど、あえてああしている気はします。日本のお客さんがそこで、どれくらい白けちゃうのか、それは心配なんですよね。あくまでも、「和」の要素を使った架空の世界の架空の高速鉄道という感じで捉えてほしいんですが。ただ、気になっちゃうのも分かるので、申し訳ないです。

ブレット・トレイン
息子の復讐を果たすために高速列車に乗り込んだ〈キムラ〉。
列車の内装が鶴柄なところも「日本」感を醸し出している。

フワ 後半からハチャメチャ度が急加速して、ジョークのノリもだいぶアメリカンになっていきますけど、全編にわたってユーモアがあるんですよね。格闘シーンとか、本当はしゃべる余裕なんてないシーンでも、ず〜っと登場人物たちの会話が楽しい。そこが、すごく伊坂さんらしい!

伊坂 僕らしい、と言われて嬉しいです。深刻な状況なんだけど、なんか楽しい、みたいな雰囲気は2時間ずっとありましたね。そもそも僕が小説を書き始めた時って、昔の洋画でよく見る「相棒同士のしゃれた会話」を、自分の小説でやってみたいって思いがあったんですよ。「あんなこと言う人はいない」とかすごく言われるんですけど、せっかく作り話なんだから、ピンチで出る余裕綽々のセリフとか聞きたいじゃないですか。

フワ 聞きたい聞きたい! 修羅場でそういうこと言うやつ、あたし大好き!

マリアビートル』でやりたかったのは、まさにエンタメ中のエンタメ

伊坂 フワちゃんさん、ついこの間も僕の小説をテレビで紹介してくださったんですよね。

フワ 「あなたの本棚を見せてください」という企画だったので、伊坂さんの本をぜーんぶ持っていきました。その番組では、話したいエピソードがあって『チルドレン』を紹介したのですが、他にもたくさんお気に入りがあります!

伊坂 最初に読んでくださったのは、どの本ですか?

フワ 『アヒルと鴨のコインロッカー』です。18歳の時に、ヴィレバンで買ったんです。タイトルだけ見て、動物の友情を描いたほのぼの系なのかと思ってました。

アヒルと鴨のコインロッカー
フワちゃんが初めて読んだ伊坂作品『アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂 アヒルと鴨が「コインロッカーで会おうよ」みたいな?(笑) じゃあ、全然違ったわけじゃないですか。大丈夫でしたか?

フワ 最高の裏切りでしたよ! 一発でハマっちゃいました。今までこんな小説読んだことなくって、本当にこの本に初めて出会った時の感情は一生忘れません。ミステリーの仕掛けにもぶっ飛びましたし、登場人物たちの粋な会話を追いかけるのが本当に楽しくて。重たいテーマを「面白い小説」にするのって、メチャメチャ難しいと思うんです。物語を通して何かを「伝える」「訴える」ことがメインになってる小説もあるけど、伊坂幸太郎は絶対にいちばんに「エンターテインメント」。最高です! そして、伊坂さんの作品は毎回毎回テイストが全然違うんです。本当に全部違うことをしてて、でも「伊坂幸太郎」がやるから全部面白い。

伊坂 それはめちゃくちゃ嬉しい。

フワ 私、伊坂さんのそういうところに憧れて、いっちょまえに自分のYouTubeで毎回違ったことをやるようにしているんです。固定のフォーマットも作ってない。

伊坂 それはYouTube的にはどうなんですか?

フワ 良くないと思います。きっちりフォーマットを作るのが視聴者も一番見やすいし、動画自体も作りやすいんですけど、「伊坂幸太郎」に憧れちゃったせいで、私、ぜんぜん動画をアップできてない!

伊坂 僕のせいじゃないですか!

フワ これはすごく訊きたかったことなんですけど、作品のテイストが毎回違うのは、なぜなんですか?

伊坂 そう言われたくて頑張っているんですよね(笑)。前にやったことはやりたくないというか、同じことを書いてもきっと自分自身が面白くない。理想としては、「伊坂幸太郎の好きな作品ベスト3を挙げてみよう!」となった時に、みんな違うのが一番いいなと思っているんです。

フワ ステキ! そうだったんだ! 実際、昨日伊坂ファンコミュでそんな話したばかりですよ! 伊坂さんの狙い通り、みんな好みが分かれました! 昨日の友達は『重力ピエロ』と『オーデュボンの祈り』が好きで、私は『マリアビートル』とか『ゴールデンスランバー』みたいな、スピードビュンビュンのド直球エンターテインメントが大好き! それこそ『マリアビートル』は、私がハリウッドの人でも喉から手が出るほど欲しい最高の物語って思います。「超高速列車に乗り合わせた殺し屋たちが走行中にバトル!」だって! 超いい設定ですよね!

伊坂 僕が『マリアビートル』でやりたかったのは、まさにエンタメ中のエンタメなんですよね。今フワちゃんさんが言ったことなんです。読んだ人みんなに「面白い!」って言わせるために書いた。というのも、初めて書いた殺し屋がいっぱい出てくる話、『グラスホッパー』っていうんですが、この小説の評判が本当に良くなかったんです。

グラスホッパー
「殺し屋」シリーズ第1弾の『グラスホッパー』。伊坂さん曰く「発売当時の評判はよくなかった」

フワ えっ。私、メチャクチャ好きなんですけど!

伊坂 今はそう言ってくれる人も多いんですけど(苦笑)、出した当時は批判ばかりで。評論家や親しい人にいろいろ言われたりして。それ以前の僕の作品といろいろ違いすぎたんですかね。自分にとっては自信作だったから、悔しくて。じゃあ、同じ世界観で別の作品を書いて「面白い」と言わせたら、リベンジになるんじゃないかなと思ったんです。

フワ 「面白い」を狙って書きましたって言えるの、すごい。しかもそうやって書いた小説が、ハリウッドで映画化だよぉ! 狙って狙って、撃ち落としたのがハリウッドって……! 規模デカすぎ!(笑)

知名度はほぼゼロだったのに――「面白い。映画にしたい」

伊坂 実は、『マリアビートル』は発売した後、日本で映画にしたい、と結構、声をかけていただいたんです。でも、贅沢だとは思いつつも、かたくなに断っていたんですね。これは小説でしか味わえない面白いエンタメだから、映画にもアニメにもしないでおこうと決めていた。ただ、もしも万が一、ハリウッドで映画化されたら面白いなぁとこっそり思っていたんです。そんなことあるわけないと思っていましたけど。

フワ うわぁ! 超鳥肌!

伊坂 僕の作品の海外版権を扱っているCTBのエージェント二人が、ハリウッドのプロデューサーに頑張って、売り込んでくれたんですよ。ほんと彼らの頑張り以外の何物でもない、というか。当時、僕の本は英語圏ではほとんど出ていなかったので、アメリカでの僕の知名度はゼロに近い状態だったんですけど、用意した英訳をすぐ読んでくれて、「面白い。映画にしたい」と言ってくれたんです。その連絡をもらった時が、一番嬉しかった。なんか、こういう話は、自慢みたいになっちゃうので、恥ずかしいんですが(苦笑)。

フワ 照れちゃダメ! 自慢じゃなくて事実なんだから!! 伊坂さん、スゴイ!

映画と本の一番の違いが〈王子〉。『ブレット・トレイン』では女性に

フワ 『ブレット・トレイン』を作った人たち、伊坂さんの小説が絶対好きだと思う。それこそ後半は、ハチャメチャというか、急激にハリウッドっぽくなっているんですけど、でも意外と原作の要素は大きいところも小さいところも、ちゃんと盛り込んでいるんですよね。

伊坂 そうなんですよ。例えば、〈蜜柑〉と〈檸檬〉の友情関係は小説で大事に書いていったつもりなんですが、映画では二人のエピソード自体は変わっているんだけれども、友情の部分をちゃんと読み取ったうえで変えてくれているんです。そういうアレンジの仕方を見るのも楽しかったですし、原作には全然ない場面なのに、意外に僕がやりそうな仕掛けとかも入っているんですよね。

フワ どことなく伊坂を彷彿とさせる、こだわりの演出もありましたね! ただ、映画の上映時間は2時間ちょい。正直この時間で『マリアビートル』を描くためには、原作のキャラクターは何人かいなくなるんだろうなぁと思っていたので、「ここまで全員登場させるんだ!」って、原作への愛を感じました。違いがあるとしたら、〈王子(プリンス)〉のニュアンスが変わってましたね。あと性別もガラッと変わって、原作にはない秘密もあったり。ただアイツは別の角度からでも、物語の肝になってました!

伊坂 そういえば、映画と本の一番の違いが〈王子〉なんですよね。映画としてはそれで正解だと思うんですが、分かりやすい「悪」になっているというか。

ブレット・トレイン
〈王子〉は、〈プリンス〉という名の女子学生に。狡猾で悪魔のような性格というところはそのままに、加えて、彼女にはある秘密が……。

フワ そうですね。『マリアビートル』の〈王子〉は本当に嫌い。「僕はいつも幸運に恵まれているんだ」なんて言い切るやつ、現実世界ではアンミカさんしかいないですよ!!

伊坂 アンミカさんに怒られませんか!?(笑) 僕の中では〈王子〉は、人間というよりも、「恐ろしいもの」の比喩というか、擬人化みたいな気持ちで書いたんです。集団心理と同調圧力が僕は一番怖い。それを操るもの、みたいな存在として作り出した人なんです。それが大人で、見るからに怖い人だと「あっ、怖い人だよね」で終わってしまうから、非現実的な子どもにしたんです。だから、映画で、怖い人じゃなくて可愛らしい女性になったのは、いい変え方だなと思いました。

フワ そういう裏話、めっちゃ嬉しいです!

伊坂 フワちゃんさんは、自分は結構ラッキーな人だと思っていますか。それとも、ついてないなと思って生きてきたんですか?

フワ 私は、おっきいラッキーが1個だけある人生か、ちっちゃいラッキーがいっぱいある人生、どっちがいいかなぁと昔からよく考えていたんです。だから「芸能人になりたい」っていう夢を見つけた時に「この夢が叶ったらスーパーラッキー。その代わり“信号が毎回ピッタシ青”とか“イベントの日はいつも晴れ”とかの小さいラッキーがなくても文句言えません。それでも叶えたいですか?」って条件で自問自答してみたんです(笑)。悩んだけど本当に僅差で、おっきいラッキーを選びました。だから、こまごまとしたアンラッキーもなるべく我慢するつもり。飛行機に乗れなかったり、SDカードにジュースこぼしたり、アンラッキーはしょっちゅうあるけど、芸能人になれたからチャラ!

伊坂 えっ、すごい。面白い。

フワ 伊坂先生は、どっち派???

伊坂 僕はちっちゃくちっちゃくついてないことがいっぱいある人生だなと思っていたんですが、今のフワちゃんさんの話でいえば、自分は好きな仕事をしていて、夢が叶ったみたいな状態ではあるんですよね。ちょっと反省しました。僕なんて、ちょっとしたことで、「つらいな」と嘆いちゃいますから。Twitterとかで偉い人に批判されているだけで、「あー、もうやだなー」とか思っちゃいますし。おまけに、偉い人かと思ったら、同姓同名の別人だったりして、もはや何が何だか分からなかったり(苦笑)。

フワ Twitterを見て「こんなこと言われてるよー」ってなっている感じ、めっちゃ伊坂キャラクターっぽい!(笑)

伊坂 僕の小説によく出てくる「普通の人」って、僕自身がモデルなんですよ。普通のおじさんなので。

温めておいたセリフより、咄嗟に出る一言が大事!?

フワ 伊坂さんの作品は「普通の人」も含めて、本当にキャラクターが魅力的。このみんなのトーク番組、見てみたい!

伊坂 あはははは(笑)。その場合、誰が番組をまとめるんですかね。

フワ 目立ちたがり屋だから、『チルドレン』の陣内がMCは?

伊坂 陣内は無理のような(笑)。

フワ 『アヒルと鴨のコインロッカー』を読み返して、伊坂作品のキャラクターの魅力はこれだ、と思う文章を見つけたんです。「変人には二種類あるんだよね。敬遠したいタイプと、怖いもの見たさでしばらく付き合ってみたいタイプ」。私が伊坂作品のキャラクターに憧れちゃう理由は、彼らが後者だからかな。

伊坂 自分の文章を読み上げられるのは、照れ臭いです(苦笑)。

フワ こういったグッとくるフレーズとか、キャラクターたちの粋で洒落た会話って、どうやって書いているんですか?

伊坂 その場その場の流れで書いてますね。「これを言ってやろう!」と温めていたセリフとか文章って、だいたいスベっちゃって。書きながら突然閃いたもののほうが、やっぱり馴染むんです。時々、名言集みたいな本を作らせてくれませんか、みたいな依頼があるんですけど、「そこだけ抜かれるとめちゃくちゃ恥ずかしいんです」と言って断っています。前後のやりとりがあるから成立するというか、真面目すぎず、ちょっと笑えるものになるんですよね。

フワ 考えすぎるとスベる……確かになんとなく経験あります(笑)。3年前『踊る!さんま御殿!!』に初めて出た時に、私、自撮り棒を持っていったんですよ。御殿の時のさんまさんって、いつも謎の棒を持ってるじゃないですか。だから「さんまさん、私とキャラかぶってる~」って絶対言ってやろうと思って、ずっと意気込んでたんですけど…満を持して言ってみたら、さんまさんに「なんや? お前」って言われてめっちゃくちゃスベりました。

伊坂 それもすごい話ですね(笑)。いや、さんまさんの前に出ていって物おじせずしゃべれるのがすごいですよ。もしも自分がああいった番組に出てしゃべれと言われても、怖すぎて絶対無理ですもん。

フワ あははは! 私は見てみたいですけど!(笑) でもバラエティでも、頭で考えて既存のパターンに当てはめて言ったことって、ハネないかも。とっさに出た一言がやっぱり大事なんだと思います。

伊坂 僕が観た中ですごく好きだったのは、フワちゃんさんがちょっとスベったみたいになった時に、「え? 何分前に言ったやつ、もう1回言ったらウケるものなんじゃないの?」って。聞いていた話と違うよ、ちゃんとやったのに! って妙に真面目な感じもあるし、お笑いの奥深さも伝わるし、すごく良かったです(笑)。

フワ えー!!!!!! めっちゃ嬉し!!!!!(笑)。伊坂さんの頭の中に私の言った言葉がストックされてるなんて! ていうか伊坂さん、憧れの人なのに、超しゃべりやすい!! この時間がずっと続けばいいのにって思っちゃいます。

伊坂 いやいやいや(笑)。実は、お話しするまでは緊張していたんですよ。「タメ口でくる距離感が近い馴れ馴れしい人」って、僕は苦手というか怖かったので(苦笑)。ただ、一方で、フワちゃんさんに嫌な印象もなかったんですよね。どうしてなのかな、と考えたんですけど、たぶん、他人をバカにしたりとか、自分を大きく見せようとする感じがあまりないからなのかなあ、と思ったりしました。馴れ馴れしい人って、自分を大きく見せようとする人じゃないですか。

伊坂作品をハリウッドで映画化したら? という想像を大きく超えてくる!

フワ いま私、伊坂さんに分析されてる!?

伊坂 分析というか、そういうのを考えたくなっちゃうんですよね。こういう人はなんで苦手なんだろうとか、苦手かもと思ったのに大丈夫なのはなんでなんだろうとか、理由を考えたくなっちゃうんです。

フワ 最高です。伊坂さんの小説に出てるキャラたちも、人の発言や行動の理由をよく分析してる印象があったので、なんか嬉しいです。伊坂さんには到底及ばないですけど、私も彼らに影響されたのか、こういうことを分析するのが好きなんです。なんか、私すぐ怒っちゃうんですよ(笑)。だから自分の気持ちをなるべく客観的に分析したり、人の発言の意図や背景をできる限り想像して理解したつもりになって、ちょっとアンガーマネジメントをしてます。新幹線で大暴れしないためにもアンガーマネジメントは大事!(笑)

伊坂 新幹線で大暴れするようになったら、さすがにまずいですよ(笑)。むしろ、『ブレット・トレイン』の列車には乗れるかもしれないけど(笑)。

フワ なんだか伊坂さんといっぱいお話ししたら、映画がまた観たくなってきた(笑)。

伊坂 いやあ、そうなんですよ! 中毒性があるというか、少し経つともう1回観たくなるんですよね。こういう映画、あんまりないかもしれない。

フワ あーだこうだ言いたい原作ファンもきっと楽しめる。違うところは違いすぎて笑えてくるし(笑)。「伊坂作品をハリウッドで映画化したらどうなるんだろう?」ってみんなの想像を大きく超えてくるアメリカンスケール。伊坂幸太郎VSハリウッドの戦いを、みんな観てほしい!!

──楽しい話は尽きませんが……。

フワ やだ! やめて!その締めのフレーズ! 絶対終わらせない!!

伊坂 めっちゃ怒ってる(笑)。フワちゃんさんのほうがスケジュールやばいでしょう?

フワ 全然大丈夫です、ラジオがあるだけなので。

伊坂 そのラジオ番組は、収録?

フワ 生放送です。

伊坂 絶対遅れちゃダメなやつじゃないですか!(笑) というか、アンガーマネジメント!(笑)

いさか・こうたろう●1971年、千葉県生まれ。2000年に『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。08年に『ゴールデンスランバー』で本屋大賞および山本周五郎賞を受賞。20年、『逆ソクラテス』で柴田錬三郎賞を受賞。近著に『マイクロスパイ・アンサンブル』がある。

ふわちゃん●2018年、YouTuberデビュー。新語・流行語大賞、ギャラクシー賞ともに自身の名前「フワちゃん」で受賞。テレビで活躍する傍ら、自身のYouTubeチャンネルの映像編集やアートデザイン、コラムの執筆など、クリエイターとしての多彩な一面も注目を集めている。大の伊坂幸太郎ファン。

ブレット・トレイン

映画『ブレット・トレイン』(原題 BULLET TRAIN)
監督:デヴィッド・リーチ 脚本:ザック・オルケウィッツ 出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン、バッド・バニー(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)、サンドラ・ブロック 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 9月1日(木)より全国の映画館で公開

殺し屋レディバグ(ブラッド・ピット)が引き受けた仕事は、〈東京発・京都行〉の超高速列車に乗りブリーフケースを奪うという簡単なものの、はずだった。しかし、その列車には復讐を誓う元殺し屋のキムラ、タンジェリン&レモンという腕利き殺し屋コンビ、謎の女子学生プリンスも乗り込んでいた! やがて繋がっていく彼らの過去、そして因縁。さらに京都で待ち受ける衝撃の真実とは――。

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