愛するってどういうこと? 『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』を読んだ20代男女の本音トーク【配信レポート】

文芸・カルチャー

公開日:2022/7/29

本音ゼミ

 若者たちのリアルな心情を描いた小説『青く滲んだ月の行方』(青羽悠/講談社)、『茜さす日に嘘を隠して』(真下みこと/講談社)の発売を記念して、2作品を読んだ7人の20代男女による配信企画「本音ゼミ」がスタート。お笑いコンビ「ラランド」のニシダ、タレントのまつきりながMCを務め、ゆう(総合職OL、YouTuber)、イワシ(YouTube「ゆとりモンスターズ」メンバー)、加藤敏美(女性向け美容関係ベンチャー企業の共同創業者)、絡新婦ぽぴ(大学生、アイドル)、はな(デザイナー)とともに、答えの出ない悩みについて全5回にわたってトークを繰り広げた。その模様をレポートしよう。

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体の関係に何を求めるのか?

 第2回「本音ゼミ」のテーマは「愛するってどういうこと?」。『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』には、ゲーム感覚で女性を弄ぶ大学生・大地、孤独を紛らわすために男性と関係を持つ愛衣など、20代の危うい恋愛模様が描かれている。そこで、同世代のゼミメンバーにも“愛”について語り合ってもらった。

 まずは、テーマを広げて「セックスに何を求めるのか?」から話を進めることに。はじめに、MCのまつきさんが「私だったら愛情かな」と優等生的な発言をすると、ニシダさんから「もうちょっと本音で話しましょう」とツッコミが。その要望に応えるかのように、赤裸々な発言をしたのが、ホスト経験のあるYouTuber・イワシさん。「ランクの高い女性と関係を持つことで、自分の外見レベルやIQを測る指標にしています。レベルアップしていくというゲーム性があるんです」と話すと、女性陣はドン引き……。

 さらに、イワシさんが「モテない男性の中には、学生時代に女の子にイジられた経験がある人もいると思う。そういった層の女性と関係を持つことで、コンプレックスを解消したり、仕返しをするような気持ちになったりする人もいるんじゃないでしょうか」と続けると、ゆうさんは「私は生涯ひとりだけでいい。イワシさんとはわかり合えない」、絡新婦ぽぴさんは「他者を征服することで自己を確立していると、いつかさみしくなっちゃわないかな」と否定的な反応が。イワシさんと女性陣の間に高い壁を感じる討論となった。

 一方、パンセクシャル(あらゆる性別の人が恋愛対象になる全性愛者)の加藤敏美さんは、性的な関係を持つことにあまり積極的になれないと話す。「最近は、体の関係を持つことが好きと伝える手段なのかなと思い始めています。友達として好かれているのか、恋愛対象として好かれているのか、意思表示としてセックスがある。でも、今はそういう欲がなくなってきたので、好きな人に好意を伝えられず、3年くらい恋人を作れていなくて。フランクに関係を持てる人のほうが、パートナーをすぐに見つけられるけれど、私は『こんなに好きなのに』と思っている間に好きな子を取られてしまうこともあるんです」と、悩みを語った。

 さらに、ニシダさんからは「『茜さす日に嘘を隠して』に登場する愛衣は、自分が誰かに必要とされていると思いたいがために、マッチングアプリで知り合った男性と次々に関係を持っている。彼女に共感できる?」との問いも。イワシさんからも「セックスが悪みたいな考え方がおかしい」という声があがった。そんなふたりに対し、絡新婦さんは「社会通念として、マッチングアプリで知り合った人と関係を持つのはおかしいという風潮があります。『自分はダメなことをしてる』と思う精神的な苦しみが、自傷に通じるものがあるのかもしれない」と説明。加藤さんも「ただ体を求められているのか、人間として好かれているのか、当人にはよくわからない。だから悩んでしまうんじゃないか」と自身の経験を交えて語った。

無償の愛は存在するのか?

本音ゼミ

 続いて、討論は「無償の愛は存在するのか?」という話題へ。「存在しない派」は、ニシダさんひとり。だが、「存在する派」の6名もそれぞれ意見が異なり、議論は一気に深まっていった。

 まず、イワシさんが「親子間においては絶対あると思う」と言うと、絡新婦さんは「家族間に無償の愛があるかと言われると、それは違う。存在しない家庭もあると思います」と反論。そのうえで「関係性は問わず、その瞬間瞬間で『今、無償の愛が発揮された!』ということがあると思う。私の姉はリハビリを行う作業療法士ですが、どんなに忙しくても粗相をしたご老人がいたら、すぐにお風呂に入れなければなりません。やけくそになりながらも、懸命に高齢者のケアをする時、その瞬間に発揮されているのは愛情らしきものだと思うんです」と語った。

 弟が生まれる時、自宅でその様子を見守ったというはなさんは、その時の心情を次のように話す。「昔は私なんか愛されていないと思っていましたし、無償の愛はないと思っていました。でも、自宅出産で弟が生まれた瞬間、今私がここで生きていられるのは、そもそも無償の愛があったからだと気づいたんです。無償の愛は、ひとつひとつの命と向き合うこと。本来みんな持っているけど、表現方法がわからなくなったり歪んだりしちゃうんじゃないかと思います」。

 こうした意見に対し、反対派のニシダさんは「無償の愛を施したとしても、いつかギブアンドテイクの関係になってしまう。親が大事に育ててくれても、その愛情を何かの形で返さなきゃと子どもが思った時に、ギブアンドテイクの関係になってしまうんじゃないでしょうか」と持論を述べた。

 今回の討論を踏まえ、イワシさんが出した結論は「愛の価値観は人それぞれ」。このフレーズを『青く滲んだ月の行方』の表紙に書き、第2回「本音ゼミ」を締めくくった。

文=野本由起

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