就活はゲーム的に割り切るべきなのか? 『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』を読んだ20代男女の本音トーク【配信レポート】

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/5

本音ゼミ

 若者たちのリアルな心情を描いた小説『青く滲んだ月の行方』(青羽悠/講談社)、『茜さす日に嘘を隠して』(真下みこと/講談社)の発売を記念して、2作品を読んだ7人の20代男女による配信企画「本音ゼミ」がスタート。お笑いコンビ「ラランド」のニシダ、タレントのまつきりながMCを務め、ゆう(総合職OL、YouTuber)、イワシ(YouTube「ゆとりモンスターズ」メンバー)、加藤敏美(女性向け美容関係ベンチャー企業の共同創業者)、絡新婦ぽぴ(大学生、アイドル)、はな(デザイナー)とともに、答えの出ない悩みについて全5回にわたってトークを繰り広げた。その模様をレポートしよう。

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就活はどうやって乗り切るべき?

 第3回のトークテーマは「就活はゲーム的に割り切るべきなのか?」。『茜さす日に嘘を隠して』では、就活がうまくいかず、精神的に追い詰められていく皐月の姿が描かれていた。「面接ごとに人格のテンプレートをいくつか作り、うまく使い分けていけばいいことはわかる。みんなそうしてる。それが、私にはできないのだ」という皐月の言葉に、共感する人も多いのではないだろうか。

 社会人1年目で就活事情をYouTubeで発信しているゆうさんは、就活をゲームと割り切って選考を突破したそう。「一次、二次面接は、会社に合わない人をふるい落とすための面接。最初は会社が求めている人物像を演じて、三次、四次面接になったら少しずつ自分を出していくようにしました」と経験談を語ってくれた。不動産会社、コンサルティング会社を経て、現在YouTuberとして活動するイワシさんも、ゆうさんに賛意を示す。「生粋のゲーマーなので、就活でいろいろな会社に行き、試行錯誤しながら面接の正解を探るのが楽しかった。就活をゲームとして割り切るほうが、僕には向いていました」と話した。

 一方、デザイナーとして活動するはなさんは、就活経験なし。だが、ゲームとして割り切るのは自分には合わないと話す。「ゲームだと、クリアしなきゃいけないのが私にはつらくて。割り切るのではなく、いかに自分がその場所で心地よく楽しく生きられるかを考えたいと思います」と意見を述べた。

 加藤敏美さんも、ゲームとは割り切れない派。現在はベンチャー企業の創業者として活躍しているが、新卒で就職活動をした時にはメンタルを削られたと話す。「『茜さす日に嘘を隠して』に登場する皐月は、就活がうまくいかず、ひとつ上の先輩・祐樹との関係もうまくいかなくなりますよね。私も大学時代、大切な恋人がいたのですが、皐月とまったく同じ経験をしました。たくさんの会社に落とされ、自分がその企業に見合わない人間なんだと思わされ、心を病んでしまって。恋人に依存するようになり、その後内定はもらえたものの恋人と別れてしまいました」と、過去の経験を告白。さらに、「友達と同じ企業を受け、友達は受かって私は落ちたことも。自分には何が足りないんだろうと悩みましたし、友達ともギクシャクしてしまいました」と、就活が人間関係に及ぼす影響を語った。

お金とやりがい、どちらを優先すべき?

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 続いて、テーマを広げて「お金とやりがい、どちらを優先すべき?」という話題に。こちらは、参加メンバーの間で意見が大きく分かれることとなった。

「やりがい優先派」は、イワシさん、加藤さん、はなさんの3名。「『仕事つまんねー』って言いながら成果を出してるヤツ、見たことがない。楽しければ成果が出るし、成果が出ればお金を稼げる」(イワシさん)、「23歳の時に友達に誘われて、会社を始めたのが人生の転機。最初は苦労したけれど、新卒で大企業に入った時より、成長スピードも速く、『生きてるぞ!』という実感がありました。その後、事業が大きくなり、後からお金もついてきた。最初はやりがいや心地よさで決めたほうがいいと思います」(加藤さん)、「私はもともとやりたいことが明確にあったので、そこに向かって突っ走ることができました。失敗しても帰ってこられる場所があるから、全力でやりがいを追い求めることができたのかなと思います」(はなさん)と、各々の経験に基づく意見を語った。

 それに対し、大学生の絡新婦ぽぴさんは「お金優先派」。「やりがいって共同幻想みたいなもの。好きなことを突き詰めるのはいいけれど、やりがいだけにベットするのは怖くて。そういうリスクを背負うなら、目に見えるお金のほうを信じてリスクを負わずに生きていきたいと思います」と持論を展開。まつきさんは、「私はやりがいもお金も欲しい」という欲張りな意見を述べた。

 さらに、参加メンバーからは「やりがいがわからない」という声も。ゆうさんは、「すべてを捧げるほど好きなことがないんです。それもあって、なんとなく就職の道を選びました。それに、好きなことを仕事にすると、嫌な部分が見えて嫌いになってしまうかも。仕事は仕事と割り切って、その分プライベートは好きなことを純粋に楽しもうと思い、“好きなこと”というより“やっていて苦にならないこと”を仕事に選びました。そのうえで、最低限、自分が望む生活ができるお金がもらえたらいいなと思います」と素直な気持ちを告白。ニシダさんは「人生においてやりがいを感じたことはないけれど、ずっと楽しいので満足してます。やりがいって難しい。自分はオンリーワンだと思える自信がないので、誰がやっても同じだと思ってしまう」と、個性が求められる芸能人ならではの悩みを明かした。

 そんなゆうさん、ニシダさんの意見に対し、「やりがい派」の加藤さんからは「自分の仕事が必要とされていると実感した時、誰かに評価された時に、やりがいを感じるのでは」という意見も。また、はなさんは「恩送り、恩返しができることがやりがい。夢を応援してもらった恩返しとして、私にできるのは次の世代に恩を送ること。私がアーティストとして活動することで、子どもたちが何か表現するきっかけになるかもしれない。それによって、子どもたちの人生が豊かになるという恩送りができればいいなと思います」と語り、一同から称賛の声を浴びていた。

 最後に、今回の討論を通して感じたことをゆうさんが語ってくれた。それは、「好きなことがまだわからなくても、楽しいという感覚を大切にする」という思い。「私みたいにまだ好きなことがわからない人も、その場の楽しさ、居心地の良さを大切にすれば、幸せにつながるんじゃないかと思いました」と述べ、第3回「本音ゼミ」を締めくくった。

文=野本由起

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