大人になるってどういうこと? 『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』を読んだ20代男女の本音トーク【配信レポート】

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/19

本音ゼミ

 若者たちのリアルな心情を描いた小説『青く滲んだ月の行方』(青羽悠/講談社)、『茜さす日に嘘を隠して』(真下みこと/講談社)の発売を記念して、2作品を読んだ7人の20代男女による配信企画「本音ゼミ」がスタート。お笑いコンビ「ラランド」のニシダ、タレントのまつきりながMCを務め、ゆう(総合職OL、YouTuber)、イワシ(YouTube「ゆとりモンスターズ」メンバー)、加藤敏美(女性向け美容関係ベンチャー企業の共同創業者)、絡新婦ぽぴ(大学生、アイドル)、はな(デザイナー)とともに、答えの出ない悩みについて全5回にわたってトークを繰り広げた。その模様をレポートしよう。

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人はなぜ、本気になれないの?

 答えの出ない問いについて語り合う「本音ゼミ」も、いよいよ最終回。ラストを飾るテーマは、「大人になるとはどういうことか?」。『青く滲んだ月の行方』『茜さす日に嘘を隠して』では、大人になりきれない20代の揺れる思いが描かれていたが、「本音ゼミ」メンバーは大人になるということをどう捉えているのだろうか。

 そこで、まずはトークテーマを噛み砕き、「なぜ本気になれないのか」という視点で話を進めることに。最初に指名されたはなさんは、「怖いからではないか」と指摘。「世の中には不安や恐怖を助長する情報があふれています。他人の失敗談などが潜在意識の中に入り込んで、本気の自分を発揮できないんじゃないかと思います」と述べた。

 加藤敏美さんは、「初めての時は何事も本気になれる」と回答。「初めてのことは正解がわからないし、がむしゃらにならなきゃクリアできません。初めての恋愛もそう。同じシチュエーションで同じような付き合い方をすると、ある程度のことは想像できるので冷静になります。だからこそ、初回の経験を人生で増やしたい。最初から本気になれない場合は、それがハマっていないか、そもそもやりたくないことじゃないかと思います」と語った。

 続いてゆうさんが、「中2を境に、本気になれなくなった」と告白。「中2の時に初めてちゃんとアイドル活動をして、『このメンバーで絶対売れるぞ!』と楽しくやっていたんです。でも、大人の事情で突然解散することに。すべてを懸けていたことがなくなってしまい、虚無感に襲われました。そこから本気で頑張るのが怖くなって。何事に対しても『いや、でも本気出してないから』と思うようになってしまいました」と、過去のエピソードを語った。ニシダさんも「底が見えちゃうのが怖い。こんなに努力してもこれかと思い知らされてしまう」と、本気になることへの怖さを吐露していた。

 絡新婦ぽぴさんは、自身の経験を交えて次のように話す。「私は常にマジ。というのも、死ぬほど不器用で、人より頑張らなきゃ何もできないタイプだから。でも、マジすぎると周りに引かれてしまうんです。本気になれないと言いながら、なんとかできてる人はかっこいいなと思います」。そのうえで、「先月20歳になったけれど、大人になると責任が生じるから本当に苦しくて。大人になる=社会に自分の体を合わせて入れ込んでいくこと。自分はそれができないし、そういう定義であれば別に大人にならなくてもいいんじゃないか。小説では、何でもうまくこなせてしまう隼人が『くそ!』と叫べないシーンが出てくるんですけど、私はいつでも『くそ!』と叫びたいと思ってます」と述べた。

 それに対し、イワシさんは「本気になった先に何が得られるか明確にイメージできてないから、本気になれないんじゃないか。何が出るかわからないガチャには大金をつぎ込まないけれど、高額商品が高確率で当たるならお金を使うと思う。それと一緒で、頑張った先に何があるかわかれば、お金やリソース、時間を惜しみなく使うと思います」と持論を展開した。

 一方、まつきさんと加藤さんは、本気を出すためのライフハックをレクチャー。「プラスのイメージをたくさん持つようにしています。『こんな楽しいことがあるかも』と思うことで、自分を奮い立たせています」とまつきさんが語ると、加藤さんも同調。「最初に入った会社は不動産系でしたが、なかなか仕事に興味が持てなくて。でも、好きになれるポイントがないか調べ始めたら、業界の全体像が見えてきて、いろんな角度からアイデアを提案できるようになりました。業界の人と話しているのも楽しくなり、徐々に本気になっていくムーブができてきました」と語ってくれた。

幸せに生きるために、最も大切なことは?

本音ゼミ

 続いて、「幸せに生きるために、最も大切なことは?」という話題に。参加者がそれぞれの幸福論について語り合った。

 はなさんは、「本気で笑え、本気で遊べ」というモットーを披露。「子どもたちは遊んでいるだけで、周りが笑顔になります。年齢関係なく、本気で遊べば周りに伝達するはず。私も、そのきっかけになればいいなと思ってアートを続けています」と述べた。

 イワシさんは、「自分が何をしたら幸せになれるのか知ることが大事。目標を達成することが幸せなら、そのために頑張ることがそもそも幸せ。今この瞬間を楽しむことが幸せなら、その瞬間を積み重ねていけばいい。幸せって人の数だけあると思います」、絡新婦さんは「人は不幸に目が行きがち。でも、ミクロの幸せを見つける練習をするしかないと思って。小さな幸せを見つけられないのは自分の練習不足。そういうものを集めて、自分の中にしまっておき、嫌なことがあった時にそれを大事に取り出す。そうすれば、生き延びられるんじゃないかと思います」と語ってくれた。

 加藤さんは、「自分が気持ちいい空間を見つけて離さないことが大事。そこじゃないと思ったら、違うところを探し求めればいい。この小説の中には、『変わることは才能で、しかも時効つきだ』という文章がありますが、確かに時効はあります。でも、小説と違って、変わらずにその場所にとどまることも幸せだと思うんです。例えば、中学時代の友達とずっと一緒にいる人なんて、私からするとうらやましくて。そういう人も幸せだし、私はなりたい像に合わせて環境を変えてきました。気持ちいい場所を離さず、それがなかったら見つけに行くことが大事じゃないかと思います」。ゆうさんも、「好きなことに挑戦できるのは、家族など自分を守っている存在がいて、帰る場所があるから」と語った。

 ふたりの意見に、イワシさん、はなさんも賛同。「幸せじゃなかったら、すぐ逃げてOK。別の場所に行ったほうが幸せになれる」(イワシさん)、「逃げることは悪いことじゃない。自分の思いに素直に生きることが大切だと思います。でも、それがなかなかできない世の中なのかな」(はなさん)と、時には逃げることも必要だと述べた。

 こうした議論を踏まえ、最後にはなさんが出した答えは、「大人になること=自由を手にできること」。「大人になると、お金、情報、環境などさまざまなものとの距離感を自己選択できます。大人こそ、自由に天真爛漫に生きよう。そんな思いを込めた言葉です」と述べ、「本音ゼミ」最終回は幕を閉じた。

文=野本由起

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