『ONE PIECE』キャスト鼎談! 名塚佳織×田中真弓×池田秀一 決して分かたれることのない絆。“親子”たちの共演

アニメ

更新日:2022/8/5

キャスト鼎談 名塚佳織さん、田中真弓さん、池田秀一さん

 テレビアニメシリーズの放送開始から23年間、ルフィに声を吹き込み続ける田中真弓さん。ルフィの憧れの海賊・シャンクス役の池田秀一さん。映画で“シャンクスの娘”であるウタを演じた名塚佳織さん。お三方に、映画と原作の魅力について語っていただいた。

取材・文=立花もも 写真=干川 修

※本記事は映画の内容に一部触れます。ご了承の上、お読みください。

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田中:脚本を読む前に、映画の超特報にシャンクスが登場してるのを見ていたから「ええっ、シャンクス出ちゃうの?」と、ずっとそわそわしていました。ルフィにとってシャンクスは、いちばん会いたいけど会いたくない人。会ったら物語が終わってしまうような気がしていたから。でも脚本を読んで、驚きました。物語をつくる人たちっていうのは、本当に想像を超えるアイディアを打ち出してきますね。

田中真弓さん

池田:僕も「次の劇場版に出演することが決まりました」と言われたときは、きっとまた回想シーンなんだろうな、と気楽に構えていました。それでも「ルフィ、たまにはシャンクスのことも思い出してくれよ」というさみしさが少なからず僕にはあるから、嬉しかったんですよ。ところが脚本を読んでみたら、けっこうしっかり出ている。慌てましたね。これはもう、やるしかないな、と。

田中:断る選択肢があったの!?

池田:ない(笑)。ないんだけど、これは真剣にやらないとな、と。いや、いつも真剣にやってるんだけど。

名塚:(笑)。

池田:しかもさ、ウタっていう娘がいたことまで発覚して、シャンクスもやるなあ、と。ものすごくいい子なんだけど、複雑なものを抱えた女性ですよね。

名塚:世界中の人たちを魅了する歌姫である彼女は、どうすればもっとみんなが幸せになれるんだろうといつも考えているんです。その真っすぐな思いが今回の物語の核にもなっています。

田中:これまで作中にウタが登場しなかったということは、なんらかの理由でシャンクスの船を降りたということで。私も“シャンクスの娘”というキーワードを聞いて、さらにルフィとも面識があると知ったときは「いつ!? サボとエースに会う前? あと!?」って動揺した。たぶん、公開前にファンのみなさんが味わっているのと同じ気持ちでした(笑)。脚本を読んでからは、真っすぐないい子だなあと思ったんだけど、ルフィの考え方と真逆をいくウタに「なんでだよ!」と苛立ちが湧いたりもしましたね。

『ONE PIECE FILM RED』ルフィとウタ
音楽の島・エレジアでルフィはウタと再会を果たす。ウタがライブを開催した目的とは一体……。

ファンの幸せのためならなんでもしたいという想い

名塚:ルフィと再会した今のウタは、年齢的に、思春期の真っただ中なんじゃないかと思うんですよね。自分の置かれた状況だけでなく、世界中に理不尽な想いをしている人たちがいる現実に、どうしても納得できない。その怒りに似た強い想いが、ウタの“ある目的”へと繋がってしまったんじゃないのかなあ、と。

名塚佳織さん

田中:なるほどねえ、と客観的には理解できるんだけど、どうしても私はルフィの気持ちになっちゃって。もどかしさがありました。

池田:ウタは過去にいろいろあっただけでなく、自分を求めてくれるみんなの想いに応えなきゃって気持ちも強いから、一生懸命になりすぎちゃうんだよね。そういうところも含めて、愛おしい子だなあとも思いました。

田中:『ONE PIECE』という作品も、ウタに負けないくらい世界中の老若男女に愛されていて、ファン層が厚いじゃないですか。私も、ルフィの声に救われている人たちがいるならば、その人たちのためになんだってしようと思えるから、歌姫としてのウタの気持ちには共感するかも。

池田:数年前に『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』のイベントに立ったとき、放送から40年以上経っているというのに、当時からのファンとおぼしき年代の方たちが会場を埋め尽くしていてさ。彼らにとってこの作品はなんらかの救いであり、ホッとできる場所なんだと思ったら、この人たちのためにこの作品があってよかった、という気持ちになってね。『ONE PIECE』もアニメ放送開始からもう23年。同じように作品を拠り所にしてくれる人たちが大勢いるんだろうと思うと、嬉しいよね。

名塚:私は、お二人に比べるとまだまだ、求められているなんて思うのもおこがましいですが、それでも、作品を観てくださるみんなに幸せになってほしいと思いながらどの作品にも関わっています。だからウタのように、みんなのために自分がなすべきだと思える何かを見つけたときには、とことん突き進もうと思ってしまうかもしれません。

何げないセリフが伏線となって効いてくる

池田:僕は今回、初めて尾田さんとお会いしたんですよ。というのも、原作ではシャンクスも1話から登場するんだけれど、テレビアニメでは4話からでしょう。尾田さんがアフレコ見学したのは初回だけだったから。だから今回、先生がいらっしゃいましたよって紹介されて……どうすればいいかわからなかったから「どうも、シャンクスです」って言ったら「知ってます~」って(笑)。

池田秀一さん

田中:そりゃ、知ってる(笑)。

池田:改めて何を話すわけでもなかったんだけど、嬉しかったですねえ。あれだけ緻密な物語を描かれているので、少し神経質なところもある人なのかと思っていたけど、全然そんなことはなくて、とても気さくな方でした。

田中:ルフィみたいな人ですよ、尾田っちは。でもそうかあ……そういえばアニメの第1話は原作と違ったんですね。やっぱり、ルフィを守るためにシャンクスが腕を失ってしまう、あれこそが物語の始まりだっていう気がするから。

名塚:初めて読んだときは衝撃を受けました。痛くないはずがないのに、シャンクスは平然とした顔で〈安いもんだ 腕の一本くらい… 無事でよかった〉と、残った右手でルフィの頭をなでる……なんて懐の深い人なんだろう、と。その少し前、酒場のシーンで、山賊に頭から酒をかけられて〈怒るほどのことじゃないだろう?〉って言うところも、カッコいいですよね。正しいことと正しくないことをしっかり見極められる大人に私もなりたい、と憧れた記憶があります。

池田:そのセリフがさ、伏線になっているところもいいですよね。山賊が銃を抜いた途端、酒をかけるくらいなら遊びの範疇で済ますけど、銃をもちだすなら命を懸ける覚悟をしろよ、ってガラリと対応が変わる。友達に手出しする奴は絶対に許さないというその信念が、どれほど強いものなのかもわかりますしね。『ONE PIECE』は、何げないセリフをあとあと効かせるのがうまいんですよ。ルフィに、お前なんかが海賊になれるかよってさんざんからかってた描写があるからこそ、結果的に大事な麦わら帽子を「立派な海賊になって返しに来い」と託す、その関係性にみんなグッとくるわけで。

田中:一話の中だけでなく、長いスパンで回収されていくからすごいんだよね。尾田っちは全部「偶然だ」って言うけれど、そんなわけないよと思ってしまう。でもさ、結末まである程度のことを決めておきながら、次から次へと魅力的なキャラクターを生み出して自由にはばたかせる余白があるところもすごい。

名塚:ルフィが仲間を探し始めた当初から、ずっと音楽家がほしいって言ってたじゃないですか。今回の映画が生まれてみて、もしかしたらルフィの中に、かつて赤髪海賊団にいた音楽家……ウタと一緒に過ごした時間がとても楽しいものとして刻まれていたからだったんじゃないかな、と思っちゃいました。それも尾田先生には偶然だって言われてしまうかもしれないけど、先生は私たちが想像しているより強く、海賊には音楽家が欠かせないと最初から考えていたのかもしれない、って。私なら、まずは航海士がいないと始まらないと思ってしまうけど。遭難したら、ルフィのように生き残れる自信がないので(笑)。

田中:私は歯医者かなあ。

名塚:歯医者!(笑)。

田中:仕事柄、歯がないのは困ってしまうし。歯が1本抜けたところで、発声はたいして変わらないし、聞いている人にも違いはわからないだろうけど……息がひゅうって抜けてしまうのは気持ち的になんともしまらないというか。

池田:じゃあ僕は眼医者で(笑)。

田中:接骨医も必要だね。ルフィと違って、歳をとってくると体のあちこちがねえ(笑)。でも、よぼよぼの老人ばかりの海賊団みたいなのが、いても楽しいかもしれないね。

名塚:みんな助け合いが必要だから、団結力もすごそうです(笑)。

『ONE PIECE FILM RED』ウタ

『ONE PIECE FILM RED』シャンクス
なぜシャンクスとウタは離れ離れになったのか。これまで明かされなかった“親子”の物語の結末とは――。

シャンクスはいい奴なのか、それとも悪い奴なのか?

田中:それにしても、ここへきてシャンクスとこんな形で共演できるとは思わなかったなあ。シャンクスって、ルフィにとって絶対的な存在で、いちばん会いたい人なんですよね。池田さんの声も優しくて深くてずっと聞いていたいほどいい声なんだけど……一方で、この人が敵にまわるほど恐ろしいことはない、とも思う。

池田:ときどき、シャンクスはいい奴なのか悪い奴なのかと聞かれるんだけど、僕自身、なんともいえないんだよね。やっぱり海賊だから、必ずしもよいことばかりしているわけではないしさ。それに実をいうと、シャンクスを演じることで精いっぱいなので、彼が誰にどう思われているかとか、あんまり考えていられないんですよ。物語の細かいところまで把握するよりも、そのとき、そのときのシャンクスがどう在るかのほうに意識を向けたいというかね。白ひげ役の故・有本欽隆さんも「俺の演じてる白ひげって役、どうやらすごく人気があるらしいんだけど、何がすごいの?」なんて言ってた(笑)。でも「カッコいいセリフは確かにいっぱいあるんだよな。俺、初めてだよ。人気のある役やらせてもらってるの」なんて悦に入ってたなあ。

田中:それ、すごく嬉しいことですね。

池田:まあそんなわけでね、今回も、これまで演じてきたシャンクスの歴史はいったん忘れるくらいの気持ちで、改めて役に挑ませてもらいました。今作はシャンクスにとってもご褒美みたいな作品というか、本筋の物語とはちょっと違う雰囲気もあるから。ただ、確かにシャンクスは表舞台に立つんだけれど、いつもどこか一歩下がったところに立っているのも彼らしさであるような気がしてね。今作のラストシーン、仮台本にあったセリフが本番では削られていたんですよ。それはまぎれもないシャンクスの本音で、ものすごくカッコいいセリフだったから、残念ではあったんだけど、あえて言わないのがシャンクスなんだろうな、と納得もしました。

田中:言わなくてもわかるだろう?っていうことですよね。それはシャンクスだからこそ見せられるカッコよさですね。

名塚:その、あえて言わない、ということがラストへの余韻にも繋がりますよね。劇中では、Adoさんの声で何曲も素敵な歌が流れるんですけど、ラストの歌に繋がる流れは、いち観客としても、ひときわ感動してしまいました。みなさん、曲を聴きながら劇場で起きたことのすべてを反芻して、さまざまなことを感じとってもらえるんじゃないかと思います。私も、はやく劇場の大きなスクリーンで観たいです。

田中:ウタという新しい風が吹き込まれて、いつもの『ONE PIECE』とはちょっと違う、でもとても『ONE PIECE』らしい物語になっていますので、みなさんどうぞ劇場に足をお運びくださいね。そしてルフィとシャンクスの共演に「その手があったか!」と驚いてください!

田中真弓
たなか・まゆみ●1955年、東京都生まれ。劇団「おっ、ぺれった」主宰。出演作に「ドラゴンボール」シリーズ(クリリン役)、『天空の城ラピュタ』(パズー役)など多数。

名塚佳織
なづか・かおり●1985年、東京都生まれ。出演作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ナナリー役)、『ハイキュー!!』(清水潔子役)、『僕のヒーローアカデミア』(葉隠透役)など多数。

池田秀一
いけだ・しゅういち●1949年、東京都生まれ。出演作に「機動戦士ガンダム」シリーズ(シャア役)、『名探偵コナン』(赤井秀一役)、『るろうに剣心』(比古清十郎役)など多数。

ヘアメイク:MAKI(TOKYO LOGIC)/池田さん スタイリング:ナミキアキ/池田さん

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