優しいマンガの鬼・尾田栄一郎を支える!10代目担当編集/原作メディア担当・高野健氏インタビュー

アニメ

公開日:2022/8/7

『週刊少年ジャンプ』編集部の高野さんは、『ONE PIECE』の10代目担当編集者。現在はメディア関連の担当を務めている。マンガ、そして映画『ONE PIECE FILM RED』が生まれた現場とは。

取材・文=松井美緒

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 現在、『ONE PIECE』は3人のマンガ編集者によって支えられている。一人は、マンガ作りをサポートする原作担当。残り二人は、関連本やアニメ、グッズ、イベントなど多様なプロジェクトを取り仕切るメディア担当だ。高野さんは、2019年から20年まで原作担当を務め、以降はメディア担当を任されている。衰えを知らない『ONE PIECE』の勢いを、肌で感じ続けてきた。

「とくに近年は、往年のファンに加え、若い世代の読者が増えました。若い読者の方たちは、僕らとは違った感性で作品を捉えています。僕らは展開に惹かれている部分が大きいですが、若い方たちはキャラクターの関係性に強い興味を持っている。キャラの関係値に注目したファンアートをよくネットで見かけます。YouTube動画も激増しました。とくに考察系。最近ではゴムゴムの実の謎についての考察が顕著な例ですね。今までにない楽しみ方が、どんどん増えていると思います」

アイデアの質量が桁違い

 100巻を超えてなお、新しいファンを獲得し続けるその吸引力は、やはり尾田さんの驚異的な創作力による。尾田さんの頭の中には、最初から最後まで、『ONE PIECE』の壮大なストーリーがすでに収まっている。膨大なキャラクターたちも、尾田さんの中から自然に発生するものだ。尾田さんは天才なのか、努力の人なのか。

「両方だと思います。尾田さん自身は、『自分には天賦の才はない』と言いますけど、明らかにずば抜けたものがあります」

 それはアイデアの力だ。

「アイデアの質量が違うんです。文字通り、質も量も桁違い。圧倒的に考えている時間が長いんです。こういう絵が描きたいって思ったら、どうすれば最高の演出でその場面まで持っていけるか、100個単位でアイデアを出してくる」

 打ち合わせでの原作担当は、壁打ちの壁みたいなものだ、と高野さんは続ける。

「尾田さんが次々投げるアイデアに対して、それはファンが喜びますねとか、だったら前のほうがいいかもとか、リアクションをする。そうやってただ一つの最高の選択を見つけていくんです。それにたどり着くまで、尾田さんは絶対に諦めない。その執念は、本当にすごいと思います。まさにマンガの鬼」

 でも決して怖い鬼ではない。

「尾田さんは、人を楽しませるのが大好きなんです。例えば、僕らに電話してくるときも、必ず最初に面白いことを言うんです。おじいちゃんの声でしゃべってみたり、変な挨拶したり。ほぼ毎日しゃべってる僕らすら、楽しませようとしてくれる」

 さらにこんな遊びも。

「尾田さんって、よく僕らに『面白い話して』って言うんです。それって、“すべらない話”的なことかなと緊張するじゃないですか。でもそうじゃなくて、『君たちのどんな話も僕が面白くするから』ってことなんです。『今日キャベツ買ったら、少し傷んでて悲しかったです』みたいなどうでもいいことも、ものすごく笑える面白い話に変えてくれる。これって普通できないですよね」

つねに“新しいこと”を求めて

“優しいマンガの鬼”である尾田さんを支えるために、高野さんが心がけているのは、「つねに“新しいこと”をやる」。

 映画『ONE PIECE FILM RED』も、新しいことの塊だ。最も重要なキャラクターの一人、世界の歌姫・ウタは、“映画で伝説のジジイ描くのもう疲れたんだよ!笑”と、尾田さんがヒロインを中心にした物語を提案したことから始まっている。ウタの歌唱担当はAdoさん。中田ヤスタカさん、秦基博さんをはじめ、豪華アーティスト陣が楽曲提供している。

尾田先生の手書きコメント

「映画の公開に先駆けて、ウタというキャラクターを立たせました。楽曲を配信して、MVを作って、それに紐づくショート映像を作りました。まずウタとその歌を知ってもらう。これって、これまでの映画にあまりなかった文脈だと思うんです。みんながウタのファンになってから劇場に向かう。この作品で、新しい映画体験の形を作れるといいなと思っています」

 そしてウタは、赤髪のシャンクスの娘、という驚きの設定だ。

「この映画に描かれるシャンクスとルフィの関係性は、観ないと損じゃないか、と僕は思います」

シャンクス

ルフィ

 最後に、最終章に突入した原作の見どころも聞いた。

「とにかく本当に最終章なんですよね。ワンピースとは何なのか、世界情勢はどこへ向かうのか。物語の核心へ、どんどん踏み込んでいきます。『ONE PIECE』が、25年間積み上げてきたもの、すべてを回収していきます。もう、面白いとしか言いようがありません。コミックス派の方も多いかもしれませんが、ぜひこのドキドキを体感するために、最終章は本誌で追っていただけたら嬉しいです」

『ONE PIECE』103巻(尾田栄一郎/集英社)

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