登山者たちのバイブルとして大注目! 大人気登山地図GPSアプリが作った山のガイド本を読んで登山に行こう

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公開日:2022/8/11

No.1登山アプリのユーザーの声から生まれた YAMAP山登りベストコース 関東周辺版
No.1登山アプリのユーザーの声から生まれた YAMAP山登りベストコース 関東周辺版』(株式会社ヤマップ/KADOKAWA)

 累計320万ダウンロード、国内シェアNo.1(※1)の登山地図GPSアプリ「YAMAP」の初出版となる山のガイド本『YAMAP山登りベストコース 関東周辺版』(KADOKAWA)の売れ行きが好評だという。予約開始後すぐに、Amazon「登山・ハイキング」カテゴリの売れ筋ランキングで1位を獲得し、登山者たちのバイブルとして大注目の1冊となっている。

 今回は、書籍の制作に携わった、ヤマップの鳥羽敦史さんに、この本の制作に関するエピソードや山の楽しみ方、担当した富士山のコラムページについてなどお話を伺いました。

(取材・文=北村康行 写真=YAMAP)

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※1:DL数は2022年7月現在。シェア調査は2021年8月登山アプリ利用者数調査/App Ape調べ による

この本の制作に関するエピソードや山の楽しみ方、担当した富士山のコラムページについてなどお話を伺いました

――完成した本を手にしたご感想はいかがでした?

 ズッシリと重みがあるなと思いました。というのも、私たちヤマップのコンテンツチームは、Webで情報を扱っているので、今回の書籍のように情報量を物理的に感じる機会ってあまりないんです。こうやって1冊の本になってみると、YAMAPに登録されている情報量の多さを改めて感じました。

 YAMAPは、百名山のようなメジャーな山から地域の里山まで、全国で2万5000にも及ぶ山の情報を収録しているのですが、その中で41座だけを取り上げても、こんなに分厚い本になるんだっていう。それが改めて驚きでしたし、嬉しく感じた点でもあります。

――内容についてはどうでしたか?

 今回は関東近郊に点在する人気の山を収録したのですが、どれも個性豊かな山ばかりだなと感じています。

 草原が広がる山があったり、別の惑星? と思うぐらい荒涼とした火山があったり。都会の街並みを眼下に見下ろせる里山もあったりします。離島の山も紹介していますが、そこには360度見渡す限り海が広がっています。

 関東という狭いエリアでさえ、これほど多様な山々が存在している。編集作業を通して、日本の風土の多様性に改めて驚きました。

――周囲の方の反応はどんな感じでした?

 そうですね。手前味噌ながら、社内でも完成度の高さに驚く声が結構多く聞こえてきました。“我々の情報とユーザーさんの力を合わせればこれだけの完成度のものができるんだ!”という、自信にもつながったようです。

 会社以外では、山に登らない大学時代の友人数人が興味を持って買ってくれ、風景写真が綺麗なことに驚いていました。こういうふうに今まで山に縁がなかった方に、興味を持ってもらうきっかけの1冊になればいいなと思います。

今まで山に縁がなかった方に、興味を持ってもらうきっかけの1冊になればいいなと思います

――最初にこの本の企画を聞いた時は、どう感じられましたか?

 私は以前、紙媒体の編集をやっていたので、紙ならではの機能性と情緒感には特別な思いがあるんです。紙媒体って非常に限られたスペースの中で、端的に情報を集約して完結させなきゃいけないじゃないですか。だからこそ研ぎ澄まされた美しさや工夫が求められると思うんです。

 つまり、YAMAPに収められている膨大な情報をいかに抽出して魅力的に掲載していくかですね。まずはそこをどう実現していくかを考えました。データをただ羅列するだけだとただのデータブックになってしまって、企画に緩急がなくなってしまう。最初から最後まで飽きずにページをめくってもらうには、どういう章立てで、どういう企画で、間にどういうコラムを入れれば良いか? そればかり考えていましたね。

――担当編集さんとの間で、何度もやり取りがあったみたいですね。

 台割(書籍の設計図のようなもの)や構成、紙質なんかも結構議論しました。その中で判型も変わったし、ページ数も変わりました。地図が収録されているので、それをわかりやすく見せるにはどのサイズがいいかというのを、担当編集さんの方でかなりご配慮いただいて。

――いろいろ話し合いながら作り上げていった1冊なんですね。

 そうですね。Webやアプリは、膨大にある情報の中から、ユーザーさんが自分で検索して情報を探し出すのが一般的だと思います。なので、検索性や見つけやすさが大切なんです。

 一方で書籍は、ページ数が限られているので、Web上の膨大な情報をそのまま収録する訳にはいかないですし、かと言って自分の主観だけで情報を選んでしまうと、偏った本になってしまう。そういったことを防ぐためにも、山選びでユーザーさんのビッグデータを活用すべきだろうと、最初から考えていました。

山選びでユーザーさんのビッグデータを活用すべきだろうと、最初から考えていました

――ビッグデータの整理は鳥羽さんが作業されたのですか? それとも他の部署の方が整理されたのですか?

 弊社内にはデータサイエンティストのチームがあります。そのチームが日々蓄積されるビッグデータを分析して、それらをYAMAPのサービスに反映しているんです。今回も人気の山やコースを抽出するにあたっては、データサイエンティストの力を借りました。

――今回、ユーザーさんから写真を提供してもらったと思うのですが、集まった写真をご覧になってどう感じましたか?

 写真については、ユーザーさんからとても多くの応募をいただきました。本当にありがたいですね。多すぎて選ぶのが大変だったという、嬉しい悲鳴はあったんですが(笑)。我々が想像していた以上に、多くのご応募をいただけたので、ほぼ全てユーザーさんの写真で作ることができました。

 また、写真以外に、補足説明の文章も一緒にお願いしていたんですが、我々の予想を超える密度の高い情報を書き込んでくれる方が、たくさんいらっしゃいました。

――ユーザーさんと一緒に作ったという感じでもあるわけですね。

 そうですね。これだけ多くのユーザーさんに協力していただき、これだけの写真が集まるっていうのは、感謝のひと言です。

――本書の終盤ページに写真を撮影したユーザーさんのお名前を載せていますよね。名前が載った本人は嬉しいですよね。

 YAMAPの投稿を見てみると、「私の写真が載ってました」という書き込みが数多くありました。それに対して他のユーザーさんから「おめでとうございます」とか、「〇〇さんの写真が載ってるんなら、私もちょっと買ってみます」という会話がなされていたり。ユーザーさん同士でそういったやりとりがされているのを見ると、作ってよかったなと思いますね。

――どれくらいの方にご協力いただいたのですか?

 枚数としては、約3500枚集まって、最終的に約450枚を掲載しました。当初からお礼としてクレジットは必ず載せたいと思っていて。最後の最後まで、クレジットだけは絶対に間違えちゃいけないと、気を抜かずにチェックしましたね。

――そういうところにユーザーさんへの愛情が感じられますね。

 これぐらいのことでしかお礼できないので、せめてここはちゃんとやろうと。

――ユーザーさんの情熱もすごいですよね。

 そうですね。やっぱり山好き、自然好きな方が集まってらっしゃるコミュニティーなので、自分が好きな山、景色を多くの人に知ってほしいみたいな、そういう情熱を持っている方が多いと思います。

 YAMAPでは、登山道整備や希少動物の生息状況調査といった社会課題の解決に、ユーザーさんの力をお借りする取り組みも実施しています。「〇〇山で外来植物を除去しませんか?」、「〇〇湿原を美しくするために葦を取り除きたいから協力してくれませんか?」、「荒れている登山道を整備したいから力を貸してくれませんか?」などと声かけすると、手伝ってくれるユーザーさんがたくさんいらっしゃいます。山が好きなだけでなく、自然保護に対する感性が高い方も多いんだなと感じます。

――本書で紹介している97コースは、どのように選んだのですか?

 基本的には、ユーザーさんの登山記録が多い人気の山を上から選んでいますが、ビギナーの方や、登山未経験の方にも楽しんでいただきたいと思ったので、上から順にランキングを出しつつも、難しすぎる山などを取捨選択して、最終的に97コースに絞りました。

――ちなみに鳥羽さんのこだわりの山はどこですか?

 本書の5章で紹介している「離島の山」です。離島の山は、内陸部の山では楽しむことができない開放感が味わえますから。今回の山でいうと、関東の沖にある伊豆大島と神津島、八丈島ですね。

 そして、この3つの山にはもう1つ、個人的な偏愛があるんです(笑)。3つとも、富士箱根伊豆国立公園の伊豆半島・諸島エリアに所属する火山島なんですが、Googleマップの航空写真で見ると富士山があって、富士山から伊豆大島、神津島、八丈島と続き、4つの火山がまるで龍の背骨みたい海底の隆起で繋がっているんです。そういった大地の躍動を妄想しながら山に登るというのは、凄まじくトキメキますね。だから、私は富士山とそこから続く火山、その3つの島に非常に思い入れがあります。

私は富士山とそこから続く火山、その3つの島に非常に思い入れがあります

――それは、普通に登っただけではわからない魅力ですね。

 本書に掲載する山を選定するために、Googleマップで位置を確認している時に気がついたんです。富士山から南に見ていくと、海底火山が下にずっと繋がっているんです。これを見た時に「日本って、やっぱいくつものプレートの中で生まれた島で、そのシワがここに通っているんだな」と思いました(笑)。

 私は歴史や神話、科学が好きなので、景色というよりも、そういう文化・科学的な背景を楽しみながら山に登ることが多いんです。担当させて頂いた富士山のコラムページも本当は最後まで歴史・神話で書くか、データで書くかですごく迷って。でも、最終的には私情を押し殺してYAMAPの強みを活かしたデータを題材に書こうと(笑)。

――富士登山の楽しみ方を教えていただけますか?

 富士登山といえば、吉田ルートが最もポピュラーなルートです。山小屋もたくさんあるので、泊まって、翌朝にご来光を眺めて帰ってくる行程がおすすめですね。せっかくなので、急がず余裕を持って富士山を楽しんでほしいと思います。日本一の山に登るというのは、多くの方にとって一生の思い出になるはず。だから一歩一歩を楽しんでほしいと思います。

 とはいえ、富士山の中で一番ポピュラーなルートといっても、そこは日本一の山。標高3000mを超える山に登るんだという覚悟を決めて、毎日ちょっとずつトレーニングを重ね、綿密に準備をしてほしいです。ただ登るだけじゃなくて、その前の準備も含めて、日本一の山を楽しんで欲しいなと思います。

――僕も一度だけ登ったことありますけど駿河湾の海岸線が全部見えるっていうのも、すごいなって思いましたね。

 そうですよね。だからほら、さっきの背骨を想像してください(笑)。

――おぉ! この話を聞いたら、また登りたくなりますね。

 あと、宝永火口も、ぜひ見てほしいです。1707年に富士山が最後に噴火したときの大きい火口なんです。噴火の際には、江戸の街にもかなり火山灰が積もって、復旧に苦労したという話も残っています。生きている活火山で、下にはマグマがうごめいているっていうことを想像して登ると、改めて富士山の凄さというか、大地の躍動を感じられると思います。

――富士登山ならではの装備とか、登り方とか降り方とか、コツってありますか?

 そうですね。大砂走りだと足元は砂利道になり、靴の中に大量に砂利が入ってくるのでゲイターの装備は必須だと思います。霧や雨に遭遇した時のことも考え、防水にも配慮したいところです。スマートフォンに防水機能がなければ、タッチに反応するジップ付きの袋があるといいと思います。

 そして、富士山はやはり服装が重要です。山麓部では25度くらいでも、山頂に着いて夜になると0度近くまで下がったりします。だから、防寒装備は忘れずにしっかりと揃えてほしいです。富士登山だけに限りませんが、雨と寒さへの備えはとても大事だと思います。

 富士山は7月の中旬〜9月上旬までが登山道の開通時期なので、たった2カ月間ぐらいしか登山のチャンスはないんです。結果、その時期の週末には登山者が集中するので、渋滞がよく発生します。そういったリスクも含めて、やはり、無理なく余裕を持った計画を立てるのが重要かなと思います。

――余裕を持った計画が大切ということですね。

「富士山における適正利用推進協議会」という団体が運営している「富士登山オフィシャルサイト」が参考になるので、ぜひご覧ください。ビギナーの方にもわかりやすいように、装備やスケジュールがまとめられています。

――夏は暑いから登山はちょっと…。という初心者の方も多いと思うのですが、この時期ならではの山の楽しみ方を教えてください。

 確かに暑いですよね。でも暑いからこそ、倍増する楽しみもあると思っています。例えば、沢沿いの登山道の散策とか、下山後のビールとか温泉とか(笑)。高尾山だったら、ビアマウントがありますし、温泉もあります。あとは神奈川県の弘法山だと、弘法山公園を縦走したゴール地点に鶴巻温泉があります。

 夏の登山は、登山の後にどう楽しむかまでプランに入れてみてはどうでしょう? ここに行って最高のビールを飲もうとか。そういう発想で探すと、意外と楽しめる山が見つかるんじゃないかと思います。

夏の登山は、登山の後にどう楽しむかまでプランに入れてみてはどうでしょう?

――鳥羽さんなら、どこに行ってみたいですか?

 山梨県の日向山に行ってみたいですね。日向山は、山頂に真っ白な景色が広がっているんです。雪のように白い花崗岩が広がった景色って、なかなか見ることができないし、標高も1600m以上あるので涼しいだろうし。山麓に綺麗な渓谷が流れているので、頂上で美しい景色と風を愉しみ、下山後に渓谷の水に足を浸しながら冷たいコーラを飲んだら気持ちいいだろうな〜と妄想しています。

――登山後のやっぱご褒美って大事ですか?

 大事だと思います。そのために登ることもありますね(笑)

――では最後に、楽しく安全に登山するためのコツを教えていただけますか?

 本書にも、「生きて家に帰るための鉄則4ヵ条」というコラムが収録されていますが、やはり遭難をいかに防ぐかだと思います。

 遭難と聞くと滑落や転倒事故をイメージされる方が多いと思います。でも、実は遭難の理由で一番多いのは道迷いなんです。道迷いが発生しやすいのは、日没後とか雨や霧による悪天候の時なので、それを防ぐためにもしっかりと計画を立てることです。天気が悪かったら、きちんと諦める。日没前に確実に下山できる計画を立てる。これが安全にも繋がるし、楽しさにも繋がるので、まずは計画が大事ですね。

 そして、想定外への備えも重要です。例えばスマートフォンの電池が切れてしまったときに備えてモバイルバッテリーを常備しておこうとか、万が一暗くなったときに備えてヘッドライトを持っておこうとか。いざという時の安心がなければ、楽しい気持ちは生まれないと思います。そういった安心をきちんと自分の中で積み重ねていくことが、心置きなく登山を楽しむコツなんじゃないかなと思います。

――「安全に楽しく」というのは、YAMAPのアプリの機能にも繋がる部分ですよね。

 そうですね、YAMAPのアプリには代表的な2つの機能があります。

 まずは「みまもり機能」。登山者の居場所を家族や知人などに知らせてくれる機能で、万が一遭難してしまった場合でも遭難位置の特定に役立ちます。もう1つは「ルートはずれ警告」。プレミアム会員のみが利用可能なんですが、登山道から一定距離離れると、スマートフォンがアラームを鳴らしてくれる機能です。遭難や道迷いの予防に役立ちます。

――山に関する情報をこの本やネットなどでインプットして、フィールドではスマホを使って楽しむのが今どきの登山になっているということですね。

 最近は自然災害もけっこう起こっていて、刻々と山の情報が変わっているので、本だけで情報を仕入れて行くと、予想外の事態に遭遇してしまうことがあります。

 本などで自分の興味がある山を見つけつつ、実際に山に行く前日には、YAMAPなり他のサイトで最新の情報を確認してください。例えば、道がぬかるんでいないか、土砂崩れが起きていないか。もし、ぬかるんでいるのであれば、滑りにくい靴やゲイターを用意する。蜂やヒルの出現情報があるようなら、その道を迂回するなり、薬を持って行くとか。そういった最新の情報を仕入れたうえで、きちんと計画を立て準備をするというのが、今の登山の楽しみ方なのかなと思います。

――危険なことが事前にわかるというのは、ありがたいことですよね。

 ただスマートフォンも万能ではありません。故障などのアクシデントがないとも限らない。そのため、紙地図は必ず携帯してほしいですね。また、登山のセオリーはきちんと身につけておいてほしいと思います。例えば、ルートファインディングの方法、SOSの発信方法などです。

 それを知った上で、この本とYAMAPのアプリやWebを活用して登山を楽しんでいただければと思います。

――ありがとうございました。

【著者プロフィール】
株式会社ヤマップ
国内シェアNo.1の登山地図GPSアプリや登山ウェブメディアを運営。「人と山をつなぐ、山の遊びを未来につなぐ」をテーマに、携帯の電波が届かなくてもスマホで現在地が確認できるスマートフォンアプリの開発や登山・アウトドアユーザーが集う日本最大級のコミュニティ・プラットフォームも兼ね備える。YAMAPアプリのダウンロード数は320万人(2022年7月現在)を超える。

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