「不思議なものに触れていると、世の中は自分だけで完結しないってことを教えてもらえる」ソフトオカルト児童書の新シリーズが始動! 《著者インタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/11

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール
セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール』(木滝りま、太田守信:作、先崎真琴:絵/岩崎書店)

 突然、不可思議な光に包まれて消えてしまった母の行方を探る、中学1年生の少年・未知人。ミステリーガイドとしてオカルト系動画配信を行う、元考古学者の父とともに、世界中の怪奇現象を追う2人の旅を描いた「セカイの千怪奇」シリーズが始動! ソフトオカルトな児童書である一方、UFO(未確認飛行物体)やUMA(未確認生物)など得体のしれない存在に好奇心のうずく大人たちをも魅了する本作。シリーズ第1作『セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール』(木滝りま、太田守信:作、先崎真琴:絵/岩崎書店)の発売を記念し、共作者である木滝りまさん、太田守信さんに、オカルトに惹かれたきっかけから本作の執筆秘話、子どもがオカルトに触れるメリットまで、幅広くお話をうかがった。

(取材・文=立花もも)

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木滝りまさん(以下、木滝) 私はどちらかというと怖いものは苦手なんですが、子どもの頃から不思議なものがとても好きで。UFOやUMA、古代遺跡の謎といった、科学では解明できないものに惹かれるのはもちろん、自分がどこからやってきて、死んだらどこへ行くんだろうみたいなことも、いつも考えていました。だから、編集の方から今回のお話をいただいたときもふたつ返事でお受けしたんです。

太田守信さん(以下、太田) 僕は今年で40歳なんですけど、子どもの頃は毎年、『学校の怪談』が映画化されていたり、テレビドラマでもタッキー&翼や前田愛さんが出演していた『木曜の怪談 怪奇俱楽部』が流行ったり、オカルトブームみたいなものが起きていた世代なんですよね。で、あたりまえのように、怪談や都市伝説に興味をもっていたところ、インターネットが普及しはじめて、2ちゃんねる発信の怪談が生まれはじめた。今年、映画化された「きさらぎ駅」とか、「寺生まれのTさん」とか、めちゃくちゃ読み漁っていました。もちろん、『月刊ムー』も。一番好きだったのはオーパーツ(発見された場所や時代にそぐわないもの)。木滝さんのおっしゃるとおり、科学では解明できない不思議なものって、なんだか心惹かれてしまうんですよね。

木滝 そういう不思議なものに触れていると、世の中は自分だけで完結しないってことを教えてもらえるような気もするんです。たとえば進路に悩んでいたとき、自分の人生が決まってしまうような気がしていたけど、世界はこんなにも不思議なことに溢れていて、私の存在なんかちっぽけなひとつに過ぎないんだから、まあいいか、一度きりの人生なんだし好きなことをやろう、みたいな。

太田 すごい。僕はそんな深いこと、全然考えずにただ楽しんでいました(笑)。

木滝 広い視点に立つことが必ずしもいいこととは限らないけど、読んでくれる子どもたちの視界が、そんなふうに、ぱあっと開けるものになるといいなと思います。SNS上の狭いコミュニティだけが、あなたの世界じゃないんだよ、って。でも、ただ楽しいというのがけっきょく一番大事だと思います。本作の打ち合わせも、めちゃくちゃ楽しいですよね。

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.22~23

太田 楽しいですねえ。僕と木滝さん、それから担当編集者さんと、全員があのネタもある、こんなネタもあるぞって、好きなことばかり話している。あと、たとえば木滝さんが書いた第1話は、モアイ像が歩くという謎が描かれますけど、イースター島やモアイ像にまつわるさまざまな歴史雑学も詰め込んでいる。打ち合わせのときも「このネタには実はこういう話があるらしいですよ」というふうに、雑学を披露しあうのも楽しいですよね。

木滝 これは担当編集者さんの意向でもあるんですが、物語の本筋であるオカルト部分だけでなく、読んだ人がさまざまな方向で好奇心を刺激されるものであってほしい、という想いもあるんですよね。コロナ禍で、なかなか旅行できない時期が続きましたけど、ミステリーガイドのお父さんと世界中を旅する未知人と一緒に、世界中を旅する気分にもなってほしい。それぞれの国の人たちがどんな言葉を話しているのか、どんな文化背景をもち、どんな料理を食べているのか。知らなかったことを知るというのは、それだけでわくわくすることですしね。

太田 僕は理屈っぽい性格なので、不思議なものを全面的に肯定するよりも、まずは科学的に検証したいんですよ。僕の担当した第5話「呪いの森ホィア・バキュー・フォレスト」で、プラシーボ効果やカラーバス効果、認知バイアスなどの言葉を出したようにね。未知人の父・豪のライバルに、科学絶対主義のアンナという動画配信者がいますが、彼女のような存在は“科学だけじゃ説明がつかない”というオカルトの説得力をもたせるためにも大事だと思います。ちなみに彼女がゴスロリファッションなのは、完全に僕の趣味ですね(笑)。

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.156~157

木滝 私はゴスロリに興味はないけれど、彼女が執事を従えて旅しているのは、完全に私の趣味です(笑)。

太田 そういう、お互いの好きなものをいっぱい詰め込むのは、「これが答えだよ」と決めつけすぎないという作用もあって。世界中に散らばっているミステリーに対して、僕らが僕らなりの仮説をたてることは可能なんだけど、結論を出したってなにもおもしろくはないから、物語としてのオチはつけつつ「けっきょくどれが真実なんだろう」と読者に想像させる余地も与えたい、と思って書いているんです。ただ趣味を全開にしているわけじゃない(笑)。

木滝 謎というのは、解けてしまったら謎ではなくなってしまう。けっきょくのところ、何が何だかわからない。というのが、おもしろさの根源だと思うんです。もちろん何もかも不明なままじゃスッキリはしないから「なるほど!」というポイントも用意してはいますが、解決したと思ったら次の謎が現れる、という展開を心がけています。やっぱり現実でも、人間関係をはじめ、解決できないことのほうが多いじゃないですか。「なんで自分がこんな目にあうんだろう?」ということも、生きていればたくさんある。大事なのは、主人公がそういう現実に立ち向かっていく姿だと思うので。

太田 今って、わからないものをそのままにしておくのが苦手な人が増えている気がするんですよ。時間と労力を無駄にかけたくないから、わからないものには触れない、関わらないというスタンスの人も少なくない。それは余裕のなさにもつながるので、あまりいい傾向とは思えないんですが、反面、本当にみんなわからないものが嫌いなのか? というとそうでもないんじゃないかという気もする。というのも、僕はYouTubeでホラーゲーム実況の動画を観るのが好きなんですが、実況という過程を愉しむコンテンツが相当数あるということは、みんながみんな、結果・結論ばかりを求めているわけじゃないと思うんですよね。謎と謎の隙間に生まれる余剰を物語として楽しみたい人は、たくさんいる。そういう人たちがおもしろがってくれるものを書いていきたいですし、「こんな楽しみ方があったのか!」と驚かせることができるものにしたい。

木滝 私たち自身、ネタを決めてからその周辺を調べていくと「へえ~!」と思うことがたくさんあって。たとえば第2話、サブタイトルにもなっている最恐の幽霊屋敷レイナムホールについて調べていて、イギリスでは幽霊が出るとされている物件のほうが高値がつく、と知って驚きました。イギリス人が大変な心霊好きというのは聞いたことがありますけど、まさかそこまでとは。

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.54~55

太田 お互いの原稿を読んでも「へえ~!」と驚くこと、ありますよね。木滝さんの作品は、ミステリーとして構成のおもしろさがあるところも、すごい。探偵モノらしさがあるというのかな。僕はどちらかというと水戸黄門みたいな人情モノのほうが得意なので。レイナムホールの回は、単に幽霊が現れる謎を追うだけでなく、サスペンス的な迫力もあって、ぐいぐい惹き込まれてしまいました。

木滝 ありがとうございます。レイナムホールには、幽霊の正体を突き止めようと泊まり込んだ人物が身の凍るような恐怖体験をしたという実話があるんですよね。これはみんなを違う角度から怖がらせることができるかも、と思って書いたので、私も気に入っています。太田さんは、まさに、じんわりと心があったまるようなお話を書かれますよね。私、とくに第4話「人魚伝説 800年生きた尼」が好きで。それぞれのエピソードで扱う怪奇は、できるだけ種類の違ったものにしようとお話していますけど、第4話は、ほかにはないヒューマンドラマとして沁みるものがあって、とてもよかったです。

太田 ありがとうございます。ラストで未知人の幼なじみの「そんなキザなことも言えたのね」っていうような決めゼリフがあるんですけど、あれを書けたときは「勝った!」と思いました(笑)。木滝さんのテイストでは生まれないタイプの、未知人のカッコよさが書けたかな、と。基本的には和気藹々と楽しくお仕事させてもらってますけど、やっぱり、多少の勝負心はあるので。

木滝 共作ならではの、いい影響をお互いに受けていますよね。私は、自分の得意なことしかできない性格なので、自分とは違う得意分野をもった方とお仕事をすると、思いもよらぬ引き出しを開けていただけるので、ありがたいです。太田さんの才能に、どんどん乗っかっていきたい。豪がダジャレばかり言うという設定は私にはない発想ですし、いつも全然思いつけないから、太田さんに助けていただいています。本当にどうして、ああも次から次へとダジャレが浮かぶんですか(笑)。

太田 もともと舞台の仕事をしている人間なので、言葉遊びは得意なんです(笑)。僕がさっきのセリフを書けたのも、もちろん得意分野だからというのはありますが、木滝さんと一緒に考えたマコというキャラクター、そして児童書にはあまりふさわしくないかもしれないけれど、突然母親を失った未知人という陰のあるキャラクターがあってこそ。そして、自分ひとりで書いているのではないからこそ、シンプルなオカルト話には着地させないぞ、という意欲も増す。個人的には第4話「吸血UMAチュパカブラの謎」が気に入っています。出産がモチーフとして絡んでくるのですが、10歳になる僕の子どもが生まれたときの思いが強く反映されていて、思い入れが強い作品です。

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.40~41

木滝 私はやっぱり、はじまりの物語である第1話「巨像モアイは夜歩く」を書けたのが印象深いですね。とくに、アンナの登場シーン。子ども向けの物語ではやっぱり、主人公のライバル役をどう描くかが重要になってくる。むしろ未知人よりも先にキャラクター像が決まって、彼女の存在がぐんぐんと物語を育ててくれたところもあるので、気に入っています。自分ひとりで書くと、そういうキャラクター性と構成を活かした物語になりがちですが、太田さんの素材を生かすドキュメンタリー調の書き口を取り入れることで、私も自分ひとりでは書けない物語を生み出せているのを感じます。

太田 感性も趣味も違うから、ネタの奪い合いにはならないところもありがたいですね。3年ほど前に、別のお仕事でご一緒した経験があるのも、大きかった。個性を活かしつつ、お互いのいいところを吸収しようという気持ちが強いので、自然と文体も近づき、世界観が一体感をもって広がっている。本当に、ひたすら楽しいお仕事です。

木滝 怪奇スポットというのは、世界中に無数に点在しているので、太田さんとならたぶん50巻くらいまで続けていけますね。1巻の舞台は、イースター島、イギリス、日本、プエルトリコにルーマニアと、時勢が許せば、がんばれば行ける場所ばかり。歴史・文化だけでなく、飛行機でどれくらいかかるのか、地形はどのようになっているのかといった、お子さんの社会科学習になる要素もありますし、リアルな旅行記として大人の読者の方にも楽しめるんじゃないかと思っています。もちろん、オカルト好きの方……かつて『X-ファイル』にハマっていたような方にも、ぜひ読んでいただきたい。親子で一緒に知的好奇心を育てるきっかけになってくれたら嬉しいですね。

太田 僕はやっぱり、かつて2ちゃんねるのオカルト板や『月刊ムー』を愛読していたような方におすすめしたいですね。あの頃の気持ちが懐かしくよみがえってくれるんじゃないかと思いますし、「そんな世界があるのか!」という発見は、大人になっても新鮮に心を弾ませてくれるはず。世の中が不景気だったり不安定だったりすると、陰謀論が幅をきかせるのが常ですが「本当に?」と疑うような情報をたくさんインプットすることで、あやしい話を頭から信じ込むことのない想像力を養えるはず、と信じています。想像力さえあれば、家の中にいながら、未知人と一緒に世界をめぐる旅に出ることもできるはず。ぜひ家族旅行の一助として、お役立てください。

【著者プロフィール】

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