綾部祐二が語る【夢】叶わなくたっていいじゃん!《最終回》

エンタメ

公開日:2022/8/22

「夢はハリウッドスター」。そう公言している綾部祐二さんが、その夢に近づくためアメリカへ渡って早5年。これまで沈黙を続けてきた彼が、この度初のエッセイ集『HI, HOW ARE YOU?』を発売し、“空白の5年間”を明らかにした。

 インタビュー最終回では、40歳になる年に人気芸人のポジションを捨ててまで追いかけている「夢」、そして綾部さんの考える夢の定義について語ってもらった。

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「自分を好きになる」ということは、「自分に興味を持つ」ということ

――綾部さんは、やっぱりけた外れにポジティブだし、失敗を笑い飛ばすような明るさがあるからこそ、夢を追ってアメリカに渡ることができたんだと思うんです。このポジティブさ、自己肯定感はどこから生まれているんでしょう?

 もともと単純に、自分のことが好きなんですよね。自分の写真を見て「うわー! カッコいいなあ!」って思ったり、「こんな風にいろんなことをしている自分が好きだなあ」って思ったりするような。いわゆる、ナルシスト的な「自分が好き」ですよね。でも、僕の考える「自分を好きになる」ということは、それだけじゃなくて、嫌いなところも含めて自分の中にあるいろんなところを意識してちゃんと見てあげるってことなんです。例えば、「肌によくないシミができちゃったな」とか、「髪がちょっと薄くなってきたな……」っていう外見の問題に対しては、みんな関心を持つしケアもしますよね? でも、外見的な部分と同じように、「自分は何がしたいんだろう」っていう心の声とか、アイデンティティとか、自分の内面的な部分に対してもちゃんと興味を持ってますか?ということなんです。僕はネガティブな人に対して「ポジティブになろう」って言っているわけじゃないんです。ネガティブでもそれが自分なんだから、「僕はネガティブなんだ」って自覚したうえで、これからどうしていこうかなって考えればいいわけで……。僕が言いたいのは、どんな自分であっても“自分に無関心にならないで”っていうことなんですね。

――自分のことが嫌いな人でも、見方を変えたら、自分のことが好きだと捉えられるということですか?

 まあ、「好き」まではいかなくても、「『嫌い』っていうわりに、ずいぶん自分のこと見ているね!」ってツッコむと思います。「それで十分だよっ!」って。最悪なのは、自分の中の嫌な部分、ダメな部分に無関心で無自覚に生きている人だと思います。自分がヤバイことを言っているとか、していることに関心なく生きていて、無意識のうちに他人に不快感を与えてしまっている人が僕は一番怖いと思うんですよね。その反面、「自分が嫌だ」、「もっと変わりたい」と苦しんでいる人は、ちゃんと自分に興味を持って生きている。だって、そうでしょう? 自分が愛している人だからこそ、その人に裏切られて傷つくのであって、好きでもない人が何をしてようが別になんとも思わないじゃないですか? それと同じで、自分のことに興味があるからこそ、自分を嫌いになるわけですよ。「なんでできないんだよ」とか、「なんでこんなこと言っちゃうんだろう」とか、苦しむわけです。だから、僕が言っている「自分を好きになる」ということは、「自分に興味を持つ」ということ。それじゃなきゃ、見えるものも見えてこないよって思います。

――自分に関心を持つことができなかったら、他人の気持ちを理解することもできないということですね。

 はい。自分ひとりの世界だったら、そんなことどうだっていいですよね。でも、そうじゃない。学校だったり、仕事場だったり、ご近所さんだったり、必ず生きていくうえでは他人と共存しているわけですから、その人たちのことも考えなければならない。さっき言ったように、まずは自分に関心を持つということが大前提。そのうえで、僕はとにかく「他人の時間をいかに想像できるか」が、成功の鍵だと思っているんです。だから、どれだけその精度を上げていけるかが大事だと思っています。

――具体的にはどれくらいの精度で他人の時間を想像しているんですか?

 この間飛行機に乗った時に、近くに座っていた女の子が気分を悪くしたことがあったんです。座席に備え付けられているちっちゃい袋に一生懸命吐こうとしていて。本当に凄くちっちゃい袋の中にね。僕は、そういう人が出た時のために、飛行機に乗る際には大きいビニール袋を持っておこうって常に思ってきたんですよ。でも、その時はたまたま持っていなくて、それで凄く落ち込んだんですけど……。この意識は、僕が機内で食中毒になったことがあって、「もっと大きな袋があったらいいのに……」と思ったところからきているんです。その女の子に大きな袋を渡してあげることはできなかったんですが、そういった意識を毎分毎秒、常にして生きていますね。

――そこまでは想像できないです!(笑)

 そうですよね。ただ、僕の場合はそれが趣味みたいなところもあって、好きでやっている部分もあるから、他の人と比べてもそのスピードも次元も違うと思います。だから、例えば「空港で何やら揉め事が起きたぞ」ってなった時に解決するスピードは、大会があったら結構良い結果を残せると思います。そんな大会があったら、出てみたいものですね(笑)。

夢があるということは、凄く強いこと

――「自分が好き」ということの定義と同様に、綾部さんと世間とでは「夢」という言葉に対する意識の違いも感じるんです。

 そうですね。もちろん夢が叶った時の喜びや叶わなかった時の悔しさは、「努力の量」と比例すると思っています。だから、「夢を追う」って言うと、「叶えるまで頑張るんだ!」とか、「ネバーギブアップだ!」って世間の声が大きくなるのは当然です。僕も「ネバーギブアップだ!」とか思われてそうですけど、でも、「いやいや、全然ギブアップするし」って内心思っちゃってるんですよね。「夢なんて叶わなくたっていいじゃん!」って。僕が言いたいのは、「途中で諦めたっていいから、夢を追おうよ」っていうことなんですよね。だって、夢を追っている道中に素敵なことがいっぱいあるんだから。そこを理解したほうがいいんじゃないかなって。もちろん夢を叶えた時は、もっともっと素敵なんだろうけれど。

――結果だけじゃなくて、夢を追うだけでも得られるものがあるということですね。

 例えば、お金の悩み、恋愛の悩み、仕事の悩み……生きてたら色々な悩みがあるわけですよね。では、500万円の借金ができました。これは、お金の悩み。この500万円の借金を解決することができるのは、500万円でしかないんですよ。他も同じで、大好きな人に急にフラれて凄くへこみました。その時に、500万円が手に入ったとしても、傷が100%癒えるかと言ったら、そんなことはないと思うんです。その傷を癒すには、きっぱりその子を忘れるか、新しい恋をするか。仕事もそうです。スベってしまった、やらかした。その後に恋人ができたとしても、スベった傷は、次の現場でめちゃくちゃ跳ねない限り癒えないんです。お金にはお金、恋愛には恋愛、仕事には仕事。それぞれの悩みは、そのジャンルでしか解決できない。でも、夢を持った人間は、どのジャンルの悩みも解決できちゃうって僕は知っているんですよね。

――実際に、そういう経験がある、と?

 19歳の時に、大好きだった彼女にフラれて、もうどこへ行っても何をしてても辛くて、毎日その子のことばっかりを考えちゃってて。その子がバイトを始めたって聞いたら、そのバイト先まで車で通っちゃったりして。マジで一年近くずっと辛くて、「俺もうこのままなのかな……」って思っていた時に、たまたま友達と買い物に行った先でダウンタウンさんに遭遇したんです。そこですぐ、「芸人になろう!」、「吉本に入って、絶対芸人になるんだ!」って決意して、車に乗って帰っていた時に、「……ちょっと待って、昨日まであった一年間のあの“穴ぼこ”はどこに行った?」って思ったんです。それから、その子のことをあまり考えなくなりましたね。

――そんなことがあったんですね!

 そうなんです、夢ができた途端に、恋愛の傷が癒えちゃった! で、すぐに彼女にも「東京に行って芸人になるから!」って伝えたんです。そしたら、その3か月後くらいに、彼女から電話がかかってきて、「私も一緒に東京行きたい」って言われたんですけど、「ごめん、俺、一人で行くからダメだわ」って断ったんです。それまでの自分を考えると、信じられないくらい急に凄い変化してるなって。その時に、「夢とか希望を本気で持つと、抱えてた傷が全部消えてしまうんだ。夢っていうのは、凄い特効薬なんだな」って思ったんですよね。そして、それは今でも思っています。だから、夢があるということは、凄く強いことだと思います。

――めちゃくちゃ説得力がありますね。

 もちろん結果は大事ですけど、まず夢を持つことに意味があると思います。それと同時に、夢は全員が全員持てるものではない、ということも理解しています。だから、少しでも何か夢や希望を持つことができたのなら、それをチャンスだと思って、一回は追ってみるべきなんじゃないかなと思います。

一つの夢が終わったということは、また次の夢を見られるチャンス

――でも、19歳と40歳じゃ、同じ夢を持って追いかけるという行動も、少し重みが違う気がします。年齢の壁はないのでしょうか?

 40歳だからできることとできないことがあるわけじゃないですか。今から僕がプロ野球選手になるのは、身体的に無理ですよね。そういう人には、「バカな夢は見るんじゃない」って言ってあげたほうがいいです。でも、人間そんなバカじゃないと思うので、夢を思い描こうとした時点で、ある程度は今の自分に見合った枠の中でそうすると思うんです。だから、そんなに無茶苦茶な夢を生み出さないんじゃないかなって。自分の環境になんとなく合ったものを、自動的に脳が判断して思い描くんじゃないかなと思っています。つまりは、そこを年齢で言い訳なんかしちゃダメだよってことですね。

――年齢はただの言い訳なのかもしれないですね。

 例えば、「引っ越してアメリカに住みたいけど、家族もいるしなあ」っていう人。「いやいや、家族としっかり相談したら行けるんじゃないの?」って思っちゃいます。相談したり実行したりするカロリーが大変だからやめてしまう。まあ、やめちゃうほうが結果的にうまくいくのなら、それはそれでいいのかもしれないですけどね。でも、何かの節目で、やっぱりやっておけばよかったなあ、もしあの時に行っていたら今頃は……って、ずっと後悔すると思いますよ。そんなこと思いたくないでしょ。僕が今、「あの時、英語をちゃんとやっておけばよかったなあ」って凄く後悔しているように、きっと一生思うじゃないですか、できるようになるまで。だから、そう思った時にやるべきなんじゃないかなと背中を押したいわけです。

――やらない後悔より、やって後悔するほうがいい、と。

 そうですね。ただ、失敗は失敗。もちろんサイボーグではないので、失敗をしたらへこみますし辛いですけど、いかにそれを理解して次に進むかが大切だと思います。あとは、諦めどころ、身の引きどころを常に意識するということですね。きっと、今の僕が諦めて日本に戻ったら、みんな、「コイツ何しに行ってたの?」、「すぐ戻ってきたじゃん」って言ってくると思うんですよね。でも、渡米してアメリカで生活している段階で、たくさんの経験を得ているわけですから、なんとも思いません。自分でダメだと思ったら、いつまでもダラダラ続けないこと。ちゃんと諦めるという選択肢をとること。そこが重要だと思います。もちろん今は帰る気はないですけど、思った時にはピュッて帰ります。日本中のみんなから何を言われようが、「俺は戻るぞ!」って、ペコペコしながら日本に戻りますね。

――そして、また新しい夢を綾部さんは見つけそうですね。

 そうです。「こういうことをやりたい。やれるな」とか、「もしダメだったら、次はこんなことができるな」って。一つの夢が終わったということは、また次の夢を見られるチャンスですからね。そう、新しい夢をまた追いかけるチャンスを得たっていうことなんですから!

■著者プロフィール
綾部祐二(アヤベユウジ):
2000年デビュー、03年、又吉直樹とお笑いコンビ「ピース」を結成。10年にブレイクを果たし、一躍人気タレントに。人気絶頂の16年、アメリカに拠点を移すことを発表。9本あったレギュラー番組すべてを降板し、17年10月にニューヨークへ移住。
22年5月には渡米5周年を機にロサンゼルスへ移動し、YouTubeチャンネル『YUJI AYABE from AMERICA』を立ち上げるなど、夢の実現に向け精力的に活動している。

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