自分や家族が「感染症」にかかっても、すぐに診てもらえない時は? 岡田晴恵先生に聞いた、あらゆる感染症を自衛する方法

健康・美容

公開日:2022/8/29

岡田晴恵
岡田晴恵氏

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続き、新規感染者数はこの第7波で過去最高、世界第一を更新。医療も逼迫している状況で一般診療、救急救命医療にも悪影響を及ぼしている。こうした中では新型コロナだけではなく、その他の感染症にも気をつける必要があると『予防と対策がよくわかる 家族と自分を感染症から守る本』(KADOKAWA)の著者、白鷗大学教授の岡田晴恵さんはいう。専門家としてパンデミックに向き合ってきた岡田さんに感染症対策について聞いた。

(取材・文=橋富政彦)

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予防と対策がよくわかる 家族と自分を感染症から守る本
予防と対策がよくわかる 家族と自分を感染症から守る本』(岡田晴恵:著、小林弘幸:監修/KADOKAWA)

――新型コロナウイルスの感染者が全国的に急増し、感染拡大の第7波は過去最大の大きさとなりました。この状況をどのように見ていますか。

岡田晴恵氏(以下、岡田)8月2日に日本救急医学会など4つの学会が共同で会見を開いて「症状が軽い人は受診を控えてほしい」という主旨を呼びかけました。軽症であれば特別な治療は必要ないから自宅で療養をしてほしい、と。現状、自宅で療養しているうちに症状が悪化して、そのまま適切な医療が受けられずに亡くなってしまうという事例が出ています。医療にたどり着けないで重症化する。そして、亡くなるのです。早期検査、早期診断、早期医療開始が原理原則で、37.5℃以上の熱が4日続くのを待ってという受診控えは、裏を返せば悪くなる、重症化するまで医療には来ないでくださいということで、医療の逼迫が背景とはいえ、国民には非常に厳しい事態です。

 私は2019年12月24日にWHOの元上司からの連絡でこの新型ウイルスの発生とパンデミックに発展するだろうと聞かされました。翌月、2020年1月段階で無症状の潜伏期間から感染することが判明した時点で、これは封じ込めは難しいウイルスで感染拡大が起こることを覚悟しました。このようなウイルスの場合、まずは検査です。拡大防止のためにも治療開始のためにも検査。そして、医療崩壊を防ぐために検査。薬の確保、治療、当時は抗ウイルス薬はアビガンしかなかった。感染症指定病院などでは使用されていました。テレビなどメディアを通じてPCR検査体制の拡充、医療機関外の発熱外来の設置、大規模隔離施設の必要性をずっと訴えかけてきたんですね。その当時から今も為すべき政策は検査拡充、薬に確保、医療確保のための大規模集約医療施設設置など変わらない。やるべきだったことがまったくできていない。だから、発熱外来の受診の目安などの、受診控えをアナウンスしなきゃならない。病気はコロナだけじゃありませんから、別の病気で待っている間に重症化することもある。この現状には虚無感と敗北感を覚えざるをえません。ワクチンが出来、それは普及したことで重症化を阻止できている。けれど、毎日、300人近くの方々が亡くなっているのが現在です(8月24日現在)。

――一般医療にも支障が生じているような状況で、多くの人が不安を感じていると思います。

岡田 誰でも等しく医療を受けられる「国民皆保険」は日本が世界に誇れる制度ですが、それが新型コロナで崩れてしまっている。等しく必要な医療に国民がかかれていません。コロナでたくさんの患者が溢れて、コロナだけでなく、ケガや他の病気の患者さんもなかなか医療に辿り着けない。この日本で医療が“自助”になっている。こういう状況でどう自分や家族を守るのか? 感染症は新型コロナだけではありません。この夏は小児の手足口病やRSウイルス感染症がかなり流行しています。それなのに自分の子どもが発熱したとしても受診できない可能性も出ています。予約が取れない。幼い子どもがこうした感染症にかかって体調を崩したときにすぐ診察をしてもらえなかったら、それが新型コロナウイルスによるものなのか、他の感染症によるものなのかわからずに不安になってしまうでしょう。『家族と自分を感染症から守る本』はこうした状況を想定して企画を提案した本だったんです。

――どういうコンセプトから企画された本だったのでしょうか。

岡田 医療が逼迫していてすぐに病院で診察をしてもらえないというとき、中継地点となる両親や家族に知識を提供できる本が必要だと考え、自分や子どもがかかるリスクが高い感染症をピックアップして、なるべく専門的な言葉を使わずにわかりやすく解説することを目指しました。イラストもかわいらしくて優しいイメージの絵を描いてもらっています。やっぱり自分や家族が感染症にかかっているかもしれないという状況でこういう本を手にするときは、不安だったりパニックになっていたりすることもあるので、少しでも心が落ち着くように、と。細かい字を読ませるよりも絵で見て必要で重要な情報がわかるような本にしたかったんです。わかりやすく、見やすく、でも大事な情報、今、対応すべきことも一目瞭然にわかるようにしました。大変なときだからこそ、必要な情報を見やすくと思いました。

大学院時代の先輩・小林弘幸教授とのコラボレーション

――新型コロナ対策だけでなく、感染症についての基本的知識や日常的に気をつけることのほか、27種の感染症について具体的な症状や対処法などについて詳しく書かれていますね。

岡田 それに加えて本書の特徴的なことのひとつは順天堂大学の小林弘幸教授にご監修をしてもらっていることです。小林先生は自律神経研究の第一人者で、この本にも自律神経についてページを割いてあります。今回のコロナ禍で感染症の予防、対策については皆さん耳が痛くなるほどお聞きになっていると思いますし、本書にも詳しく書いてありますが、実は自律神経を整えることもものすごく大事なんですね。自分の心身を良い状態にして、コロナ禍を乗り切り、他の病気も寄せ付けない知恵もあります。免疫力を上げて行くことも日々の生活で大事なことです。そこを強調したかった。

 コロナ対策で会いたい人に思うように会えなかったり、お話ができたとしてもリモートばかりになったりしていることは気づかないうちに大きなストレスになっています。そうしたときに免疫が低下しないよう自律神経の働きを整えることは感染症予防、さまざまな病気を最善の対応で乗り切ることにもつながります。本書には小林先生が開発した自律神経を整えて免疫力を高める効果のある「ワンツー呼吸法」も紹介してあるので、ぜひ参考にしてください。また、小林先生には素晴らしい巻頭言もいただいています。私たちが日々どのように感染症に向き合うべきか、その心構えとなるようなお言葉になっているので、こちらも多くの人に読んでもらいたいです。

――小林弘幸先生にはどういう経緯で監修を依頼されたのですか。

岡田 私は順天堂大学大学院の博士課程で免疫学の研究をしていたのですが、小林先生はその当時の先輩です。小林先生は当時からとても素敵な先生でした。現在、自律神経を整えることを実践し、その重要性を自ら体現されているような方ですが、その頃もラボなどでよくお会いして仲良くお話もさせてもらっていました。それで二十数年ぶりに再会したのが今回のコロナ禍で出演したテレビ番組のスタジオだったんです。

 最初に顔を合わせてご挨拶をしたときは、周囲に人がいっぱいいて、お互いになんだかちょっとよそよそしい感じになってしまって淋しい思いをしたのですが、テレビ本番の入れ違いに大パネルの後ろでふたりきりになって、すれ違ったときに「じゃあまたな、あばよ!」と笑って声をかけてくださって。私も「またギター弾いて歌って!」なんて返して、ふたりで笑い合うという一幕があったんですね。その小林先生との再会がすごく嬉しくて心に残って、この本を企画するときに、自律神経を整えることの大切さについてもしっかり触れておくべきで、それは小林弘幸先生しかいないと考えたんです。結果として尊敬する先輩の小林先生にご監修と巻頭言をいただいて、一緒に本を作ることができたことは個人的にも本当に嬉しかったですし、小林先生のおかげでさらに有用な一冊になったと思います。

秋以降は新型コロナ&インフルエンザのダブル流行に注意

――新型コロナ以外に気をつけたほうがいい感染症はどんなものがありますか?

岡田 今、小さな子どもがいる家庭なら「手足口病」と「RSウイルス」が流行しているので注意をしてほしいです。本来、「RSウイルス」は冬に流行することが多い感染症なのですが、夏も増加傾向を見せています。2020年以降、新型コロナウイルス対策として皆がマスクをしたり手指消毒をしたり、ウイルス間のウイルス干渉という流行への影響もあるので、さまざまな感染症の流行の時期や規模のような形が変わりました。そのために例年であれば流行したであろう病気に子どもたちが感染機会がないままになってしまい、それらの病気の免疫が落ちています。大人も含めていろいろな感染症に免疫の低くなった人の数が多くなり、結果として、ひとたび流行が起こりだすと大きな流行が起こりやすくなっています。感染症はコロナだけではありません。このいろいろな感染症に免疫がない人が増えているということに関して、私が懸念しているのはこの秋以降の季節性インフルエンザの流行です。

――どういうことでしょう。

岡田 季節性インフルエンザは新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年2月以降に急速に患者報告数が減少し、2020-2021年シーズンと2021-2022年シーズンの間にまったく流行が起こりませんでした。これは先ほど説明した感染症対策として衛生行動の浸透やインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスが人間という宿主を奪い合ったウイルス干渉が原因と考えられていますが、結果として今は多くの人が季節性インフルエンザウイルスへの免疫が低下した状態です。

 インフルエンザ流行期には発症をしない人でもある程度のウイルスに感染して免疫を得ているのです(ブースター効果で免疫の底上げが出来ているのです)が、まるまる2シーズンも流行が起こらなかったのでインフルエンザの基礎的な免疫がみんなで低下しているんですね。また、この間に生まれて一度もインフルエンザウイルスの感染を受けていない赤ちゃんや幼児の数が少なくともこの2年、3年分が増えているということでもあります。そういう意味で現在はインフルエンザウイルスにとって大流行しやすい、つまりインフルエンザの免疫のない、または低下した人が特に子どもを中心に多くなっている状況が出来上がっているようなものなんです。

――大規模な感染が発生するおそれがあるということですね。

岡田 インフルエンザの流行については季節が約半年先立っている南半球の状況が参考になります。南半球でのインフルエンザ発生状況は、半年後の北半球で同じように起こるんですね。そこでオーストラリアの状況を見てみると、通常であれば5~6月頃に立ち上がるインフルエンザの流行が、今年は4月から患者が急増してここ数年にない大きな流行が起きていました。さらに新型コロナウイルスも同時に流行しており、ダブル流行だった。結果として、過去最多の死者数を記録してしまった状況でした。

 こうしたことを踏まえると、今年は日本でも11月頃から大きなインフルエンザの流行が発生し、しかも新型コロナウイルスとのダブル流行になるかもしれないとリスク評価をする必要があります。とくにインフルエンザ初感染の小さな子どもたちにとっては重症化のリスクもある。そこで子どもたちに優先的にインフルエンザワクチンやインフルエンザ検査キット、治療薬を回せないかという提案は田村憲久元厚生労働大臣にも直接申し上げています。大規模集約医療施設の設置も考えた方がいいとも言っています。

――本書にも書かれていますが、小さな子どもはインフルエンザに感染したときに脳症を起こすことがあるので心配ですね。

岡田 新型コロナばかりに注目が集まっていますが、インフルエンザも甘くない。子どもはインフルエンザにはハイリスクです。子どもの場合、インフルエンザ脳症を起こす可能性があることも注意です。ですからそのためにも、小児のインフルエンザではアスピリンなどの鎮痛解熱剤に要注意と書いてありますが、いざというときにはそういうちょっとした情報が大事になるんですね。医療が逼迫しているから、自己判断でということに注意が必要です。今年の冬も下手したら今と同じように医療が逼迫してすぐに診療が受けられない状況になっているかもしれませんから、インフルエンザも含めたリスクのある感染症の情報がすぐわかるようにしておきたかったのです。

 また、基本的な感染症対策をすることは前提として、やはりワクチンで予防できるものは積極的に予防しておくことをおすすめします。私も新型コロナワクチン接種の順番が回ってくるまでに自費でいくつかのワクチン接種をしました。帯状疱疹、髄膜炎菌性髄膜炎、破傷風、肝炎などいろいろなワクチン免疫を強化しました。今のように速やかに医療にかかれるかどうかわからないという状況では、ワクチン接種による自衛の重要性はとくに高まっているといえます。本書には日本の定期予防接種のスケジュールもありますので、こちらも参考にしてもらえればと思います。

――本書には感染症予防のための調理法や汚れた衣類や寝具の洗濯法、水分補給のための経口補水液(ORS)の作り方など、日常生活に役立つ情報が多く掲載されています。また、子どもと感染症についても詳しく書かれていますね。もし子どもが感染したときの対処の仕方がよくわかるようになっています。

岡田 昔は子育て経験世代と若い世代が同居して、いろいろな生活の知恵を授けるということが当たり前にあったと思いますが、今はもうそんなことはほとんどなくなってしまったように思います。ですから、この本のイメージとしては、聞く人が家庭内にいない若いご夫婦が困っているようなときに伝えるメッセージのようなものを思い描きました。

 子育てをしている親が一番不安になるときは、子どもが病気になったときですよね。熱が出てうなされているときに病院にもすぐには行けないし、救急車も呼んでいいのかわからない。小さな子どもがいれば薬局にだって簡単には行けません。そういうときにパッと読めて役立つ情報が見つかって、とりあえずの対処ができてちょっとでも気が楽になればいいな、と。そういう本にしたかったんです。さまざまな感染症からご自身やご家族を守るために、ぜひ本書をお手元に置いてもらえればと思います。

<プロフィール>
岡田晴恵(おかだはるえ)
白鷗大学教育学部教授。共立薬科大学大学院修士課程修了、順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退。アレクサンダー・フォン・フンボルト奨励研究員としてドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所に留学、国立感染症研究所研究員、経団連21世紀政策研究所 シニア・アソシエイトとして企業の感染症対策事業継続計画の作成などにあたる。2012年から現職。

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