瀬戸麻沙美さんが選んだ1冊は?「恋愛の過程以上に、登場人物たちの孤独が胸に突き刺さりました」

あの人と本の話 and more

更新日:2022/10/4

瀬戸麻沙美さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、瀬戸麻沙美さん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=TOWA)

「『すべて真夜中の恋人たち』を手にとったのは、無性に恋愛小説を読みたくなったからですが、恋愛以上に登場人物たちの孤独が胸に突き刺さりました。人付き合いのうまくない主人公が、三束さんという男性に出会い、静かにゆっくり関係を育んでいく。読んでいて愛おしかったその過程が、すべてまやかしだったのかもしれないと突きつけられる場面に、衝撃を受けました。相手を思いやっていたつもりが、実は自分の理想を投影していただけで、何も見えていなかったと気づかされることって、日常でもありますよね。人付き合いをするうえで、多少の誤解はつきもの。仕方ないとわかっていても、そのことがときどき、さみしくなってしまう。そんなとき、この小説を読みたくなります。誰ともわかりあえない切なさと、それでもわかりあおうとする希望が描かれている気がするから」

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 良くも悪くも、人は見たいようにしか相手をとらえられない。大人になるにつれ、思うように心が相手に伝わらないもどかしさに悩むようになったと瀬戸さんは言う。W主演で声優をつとめた映画『雨を告げる漂流団地』でもまた、誤解とすれ違いを重ねる小学生たちの姿が描かれる。

「私が演じた夏芽は、なかなか本音で話せない女の子。あまり演じたことのないキャラクターなので、演じるときは、彼女の言葉に秘められた感情を読みとるのに必死だったのですが、完成した映画を観ると、まわりに気を遣いすぎるあまり、逆に何も見えていない彼女にハラハラしました(笑)。幼なじみの航祐が、何度も夏芽を助けようと手を差し伸べて、不器用ながらも優しさと〝大好き〟の気持ちを示してくれていたのに、全部ふりはらっていますからね」

 夏休みのある日、突然、団地ごと大海原に放り出された夏芽たちによるサバイバル冒険ファンタジーの本作。元の世界に戻るため、心と体を傷つけながら、彼女たちは自分の弱さとも向き合い、成長していく。

「彼女たちの冒険は、もちろん、終わりを迎えます。でも夏芽の物語はむしろ、日常に戻れたそのあとから始まる気がするんです。航祐だけでなく、他の誰かとすれ違い、傷つけあう日はきっとまた訪れる。それでも、その先を彼女がどう生きていくのか。解決しきらない問題を抱えながら、どう前へ進んでいくのか。葛藤を重ねる彼女たちの物語を観て、何か一つでも心に響くものがあってくれたら、これ以上なく幸せです」

ヘアメイク:久木田梨花(アートメイク・トキ) スタイリング:もりやゆり

せと・あさみ●埼玉県生まれ。アニメ『放浪息子』で高槻よしの役をつとめる。『ちはやふる』では主人公・綾瀬千早役をつとめたほか、エンディング主題歌を担当。ほか代表作に『呪術廻戦』(釘崎野薔薇役)など。

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声の出演:田村睦心、瀬戸麻沙美ほか 監督:石田祐康 脚本:森 ハヤシ、石田祐康 制作:スタジオコロリド 配給:ツインエンジン、ギグリーボックス 9月16日(金)Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
●姉弟同然に育ったものの、あることをきっかけにギクシャクし始めた航祐と夏芽。小6の夏休み、取り壊しの進む団地に忍び込んだ二人とクラスメイトたちは、突然、不思議な現象に巻き込まれ、団地ごと大海原を漂流することに……。
(c)コロリド・ツインエンジンパートナーズ