安彦良和×大和田秀樹 コミックス『機動戦士ガンダムさん』20巻発売記念対談!

マンガ

公開日:2022/10/1

2001年の「ガンダムエース」創刊の契機となった『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の安彦良和先生と、いまなお本誌を支え続ける世界最長のガンダムギャグ漫画『機動戦士ガンダムさん』の大和田秀樹先生の本格的対談がついに実現! 対談が進むに連れて浮かび上がる驚きの事実、そして創作における意外な共通項とは……。

大和田さん、なんで漫画なんて描いてるの?

――お二人が初めて会ったのはいつ頃でしょうか。

大和田 何度かお話しさせていただいていますけれど、初めてお会いしたのは「ガンダムエース」創刊号の打ち上げですね。

advertisement

安彦 そうだっけ。うーん、覚えてない。

大和田 もう20年以上前ですし、大勢集まった会でしたので、しょうがないですよ。

安彦 創刊号は、とにかく「薄い」と怒られるんじゃないかと心配だったんですよ。

大和田 創刊当初は、毎回100ページくらい描かれていますよね。

安彦 そう、最初は季刊だったから。二回描くとコミックス一冊分になるペースで。でもすぐに隔月、月刊になったから、これは冗談じゃないと。月刊化したら50ページくらいにしてもらった(改めて創刊号に掲載された『ガンダムさん』を読んでいる安彦さん)。

――大和田さん、いまどんなお気持ちですか?

大和田 いや、感無量ですよ。

安彦 あんまり変わってないよね(笑)、絵の感じとか。大和田さんって、この頃いくつだったの?

大和田 いま53歳ですから、30代前半ですね。成長してない(笑)。

安彦 そうか、ちょうど俺が『THE ORIGIN』を描き始めた頃だね。『ガンダムさん』がデビュー作なの?

大和田 デビューして1年半くらいですね。『ガンダムさん』自体は、その前からネットの自分のサイトにあげていたんですけれど。

安彦 それから、もう二十年以上…ギャグ漫画をそれだけ描き続けるって大変でしょう。今日は是非、その秘訣をご教示いただければと。以前も聞いたかもしれないけれど、大和田さんってインテリなんだよね。東北大学の工学部出身なんでしょう。

大和田 そうです、4年生で中退しましたけれど。確か先日、そのことについてお叱りを受けた記憶があります。

安彦 それはそうだよ。東北大学なんて帝大でも東大、京大に続くくらいの、物理学者の本多光太郎さんや西澤潤一さんがいらした学校でしょう。そこの看板学部に入って「なんで漫画なんか描いてるの。もったいない」と。

大和田 入ってみたら周りが本当に頭のいい人ばかりで、この人たちにまじって工業をやるのは無理だなって。たぶん卒業はできたんですよ。工学部は最終学年になると、実験セットみたいなのを使って、一年かけてレポートを書けばいいだけなので。でも、これっぽっちも理解してないのに、このまま社会に出たらマズイなと。

安彦 就職活動はしなかったの?

大和田 工学部に就活はないんです。企業からリクルーターが来て、そのまま「ドナドナ」の歌のように就職させられるので。

安彦 子牛のように市場に売られていくんだ(笑)。それを花道と取る人もいるけれど。

大和田 漫画やアニメ自体は好きだったので、「このままじゃ社会で使い物にならない」と思って、漫画を描いて某誌の新人賞に応募したら、なんとか引っかかったんです。その後、98年くらいに「少年エース」に『たのしい甲子園』でデビューして。

安彦 昔、徳間書店の「COMIC リュウ」って漫画雑誌で吾妻ひでおさんと「龍神賞」という新人賞の選考委員やってた時、すごい上手い投稿者がいたんですよ。でも名門国立大学の出身で、どこかの研究所に務めていて、妻子までいることがわかって、こんな人に賞をあげて漫画家にしていいものか、人生を誤らせるのではないかと悩んで、最終的に最優秀賞は止めて銀賞にしたのかな。でも結局、その人は研究所辞めて、「リュウ」の看板作家になったけどね。

大和田 僕もたぶん就職しても辞めちゃったと思いますけどね。

安彦 もったいないよねえ。

大和田 でも東北大の工学部に行ってよかったのは、大学のスーパーコンピュータが使えたんですよ。最初はそれで漫画を描いてました。

安彦 よく辞めさせられなかったね。

大和田 (当時)大学のスーパーコンピュータって、むしろ趣味の画像やエロ画像の宝庫だったんですよ。みんな、そういうのがないと研究のモチベーションがあがらないので。だから教授もたぶん容認していたんでしょうね。画像や動画のデータを如何にキレイに圧縮するかを研究していた先生がいたんですけれど、元になる画像や動画も大体その手のもので。

 スーパーコンピュータを購入すると、専任のオペレータが派遣されるんですけれど、だいたいそれがキレイなお姉さんで。どうやってこの方にバレないように画像をアップするかでみんな頭を悩ませていました。でも当時は通信の回線が貧弱だったので、ページのあるストーリー漫画は、容量の関係で自分のサイトにアップできなかった。だから『ガンダムさん』は4コマギャグになったんです。目的と手段が完全にテレコになって入れ替わってますけれど。

安彦良和はキャラを鼻から描くと信じて

――大和田さんが安彦さんを知ったきっかけは?

大和田 名前は意識してなかったですけれど、僕が最初に好きなったアニメの女の子キャラが『ろぼっ子ビートン』のうららちゃんなんです。確か安彦さんがキャラクターデザインをされていますよね。

安彦 『ビートン』には、大隅正秋さんの飛行船企画が作ったキャラクター原案があったので、アニメーションキャラクターデザインだけどね。

大和田 意識し始めたのは小学生の頃、アニメ誌か漫画雑誌で安彦さんがキャラクター講座みたいなものをやられていて、そこで確か「人物は鼻から描く」と書かれていて。その影響で、僕はいまでも鼻から描いてます。

安彦 そんなこと言ったかな。いつも眉毛か目から描くんだけど。

大和田 そうなんですか!? 輪郭ではなく、パーツから描くというのは印象に残っているんですよ。中心を取るのに鼻を描くと。

安彦 いや、普通目でしょう。そもそも『ガンダムさん』のキャラクターほとんど鼻ないじゃない(笑)。

大和田 僕はまだ下手なので、他の頭身の高い漫画では、輪郭の丸に十字を描いて鼻から描くようにしているんですけれど……どうしよう。

安彦 マスクで表情がわからないから、シャアだけは角から描くんですよ。こいつは角を止めている台座から描く。

大和田 特別なんですね。じゃあ僕も今度からシャアは角から描くことにします。

安彦 シャアやセイラはしょっちゅういじられるけれど、『ガンダムさん』でいじられないキャラもいるよね、ミライとか。ミライとカムランとスレッガーの関係とか、いじり甲斐がありそうな気もするけれど。あまり触ってないなと。

大和田 あそこは生々しいんですよね。いきなりテイストが大人のドラマになったみたいで。避けてはないんですけれど、いいネタが浮かばない。キャラでいえば、シャアはいじりやすいんですけれど、アムロが逆に難しいんです。でも主人公だから時々出さないと。

安彦 でも、アムロが広島ヤクザになるやつ(編注『ガンダム転生』)はねえ。まあ「よく、やってくれたな」と(笑)。あちこちで言ってるんだけど俺は、パロディは好きなんです。手塚治虫さんもやられていたけれど、どこか大人の知的な遊びという風情があってね。ただ同時に、それが少し鼻についたのも事実で。そこにやおいが出てきた。やおいって、今ではBLを指す言葉になっているけれど、昔は「やまなし」「オチなし」「意味なし」の略語で、衒学趣味のないナンセンスな話ばかりで、それは新しいと思った。でも、こんなこと言えるほど詳しいわけじゃないけれど、大和田さんのギャグは、やおいやナンセンスというよりも、もっと古典に近いんじゃないかな。

大和田 ええ、落語とか大好きです。あとはドリフターズとか。

安彦 確かに大和田さんのギャグからは、お客さんを何としてでも笑わせようとするドリフターズの力技のノリを感じる。俺はハナ肇が「およびでない」と言って、みんなズッコケて終わる、ちょっとナンセンスなクレイジーキャッツのノリの方が好きなんだけれど。

大和田 クレイジーキャッツの映画なんて、いま観るとミュージカル仕立てでオシャレな感じさえしますからね。

安彦 ええ、大人な感じがするんです。でもドリフターズは、大人子ども関係なく、相手が笑うまで容赦なくギャグをやり続けるでしょ。はっきり言うと、強引に笑わせるのは、俺はあまり好きじゃない。だからこそ、『ガンダムさん』を読んで思わず笑わされている俺が悔しいんです。

――『ガンダムさん』は、ファーストガンダムだけで、これだけのネタを描くのも大変だと思いますが。

大和田 だけで、というか、それしかないんです。だって『Z』以降は見てないんですから。

安彦 それはすごく共感できる。俺も自分でファーストガンダム原理主義者と言っているから。

大和田 原理主義というか、それ以降を知らないだけなんですけれど。だからもう手を変え、品を変えて、色んなことをやらせていただいてますね。

安彦 そういえば『ガンダム創世』では、別人みたいに美形の王子様風に描いていただいて(笑)。

大和田 最初サンライズからは、あまり本物に似せないでくれ、と言われたんです。外見もお話も、できるだけ漫画っぽくと。それで各人振り切って描かせていただきました。

安彦 なまじリアルにしちゃうと色々危険なんだよね。昔「OUT」というアニメ雑誌に、ゆうきまさみさんが『ガンダム』の舞台裏っぽいパロディ漫画を描いたことがあって。そのことについて俺が編集部に手紙か何かを書いたら、ゆうきさんにも知らされたみたいで、前に対談した時、開口一番その件を話し始めて。それはね、やっぱりパロディなんだけど、危険な似せ方をしていたんだよね。楽屋話にしても、微妙に事実とかすっているというか。当事者にしてみれば、微妙に似ているけれど違う、というのが一番いらつくじゃないですか。『ガンダム創世』みたいにぶっとんでいたら、「違う」なんて言う気も起きないんだけど。

大和田 当時ほぼリアルタイムの出来事ですしね。

安彦 だから、ゆうきさんは当時から上手かったし「こんなパロディ描いてないで、自分のオリジナルを描けばいいのに」と手紙に書いたんです。一種の励ましだったんだけど、それがゆうきさんには結構刺さってしまったらしくて。でも、まさか後に、こんなに売れるとは思わなかった。

続きは「月刊ガンダムエース11月号」でお楽しみください。

あわせて読みたい