「簡単・時短・節約」よりレシピで大切にしていることは? 「料理レシピ本大賞」準大賞受賞! インスタフォロワー100 万超の料理研究家Mizukiさんインタビュー

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公開日:2022/10/19

 Instagramフォロワーは100万人超、インスタライブやブログも大人気のMizukiさん。累計発行部数20万部を突破し、料理レシピ本ジャンル売上1位(※)を記録した彼女の著書、『今日のごはん、これに決まり!Mizukiのレシピノート決定版!500 品』(Gakken)が、第9回料理レシピ本大賞 in Japan 2022[料理部門]準大賞を受賞した。本書は、【簡単・時短・節約】をテーマにレシピを発信し続けているMizukiさんが、これまでに紹介した6000を超えるレシピから、厳選した「はずれなし」のレシピ集。ついに料理レシピ本大賞で受賞となったご感想は? どんな思いで日々レシピを発信している? Mizukiさんにお話をうかがった。

(取材・文=三田ゆき 撮影=内海裕之)

(※)TONETSiより 2022 年4月~7月「家庭料理」ジャンル

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【簡単・時短・節約】の本当の意味をフォロワーさんが教えてくれた

──料理レシピ本大賞 in Japan 2022 準大賞受賞、おめでとうございます。

Mizuki ありがとうございます。授賞式では緊張してしまって、自分でもなにを言っているかわからなくなってしまいました(笑)。毎年、いろいろな出版社さんで料理の本を作らせていただいていますが、どの本も一次審査は通るのに、最終選考ですべて落ちてしまうということの繰り返しでした。今回、うれしいという気持ちはもちろんありますが、一方ですごくほっとしています。授賞式の会場でも、他社の編集担当者さんから「よかったね!」という声をたくさんかけていただきました。

今日のごはん、これに決まり!Mizuki のレシピノート決定版!500 品
今日のごはん、これに決まり!Mizukiのレシピノート決定版!500 品』(Mizuki/Gakken)

『今日のごはん、これに決まり!Mizuki のレシピノート決定版!500 品』は、今までブログやInstagramで紹介したレシピをベースに、新規レシピも含めて計500品を掲載しているのですが、なによりも、私のレシピは6000品以上あるので、500品を選ぶという作業が大変でした。出し惜しみせずぜんぶを載せた、私の集大成です。

──そもそも、レシピを考えはじめたきっかけは?

Mizuki 私は以前、摂食障害を患っていたんです。入院して、退院してからも状態がよくならなくて。髪の毛は抜けてしまって、まともに話すこともできなくて、外に働きに出られないというときに私が家で1人でできることって、料理しかないと思ったんですね。摂食障害のある人って、食べられない、食べすぎてしまうというだけでなく、すごく“食”に執着するんですよ。何年ものあいだ、料理書を読んで、知識を深めて、食べ物のことばかり考えていました。そんな状況からちょっとよくなってきたところで出会ったのが、スマホの料理アプリ。現状を変えたい、抜け出したいという気持ちがあってすぐに登録して、レシピを考えはじめました。

──そして今回、集大成となるご本を作ろうと思われたきっかけはなんでしょう?

Mizuki 今の私は毎日、SNS用のレシピを考え、発信しているので、SNSで公開したレシピを本当に大切に思っています。でも、1冊の本にするには、たとえば「食材ふたつで」とか「二品献立をバランスよく作る」といったテーマを設定し、そのテーマに沿ったレシピだけを新たに考えるので、大切なレシピはいつまでもSNS上に残ったまま。いつかそれらをまとめて本にしたいと考えていたところ、信頼できる編集者さんに出会い、今回の本ができ上がりました。

 SNS用のレシピは、それを見たときにどれだけの人が投稿を保存してくれるかということを考えて作ります。感覚的な話になってしまいますが、レシピが仕上がったとき、「これは人気が出る」「これはダメだ」とわかるんですよ。

 今、SNSでレシピを発信している人は、誰もが「簡単」を売りにしています。もはや、それだけではダメだと思っていて。でも私は、まさにそのSNS上で、フォロワーさんと毎日コメントのやりとりをする中で、気づいたことがあったんです。

 私が当初考えていた【簡単・時短・節約】は、「早く作れる」「安く作れる」「簡単に作れる」という、単純にそれだけのものでした。ところが、「早く作れました」「安く作れました」「簡単でした」とコメントしてくれるフォロワーさんはいなかった。その点は、フォロワーさんにとって重要ではなかったということです。それよりも、「家族においしいって褒められた」「思春期で会話のない子どもが『おかわりないの』って言ってくれた」っていうコメントのほうが、圧倒的に多かったんですよ。

──作り手がどうだったかということではなく、作った相手の反応が気になるんですね。

Mizuki そうなんです。「仕事が終わって帰宅してから、子どもが『お腹すいた』って言う時間までに作ってあげたい」から【時短】、「おいしいものを食べさせてあげたいから失敗しちゃダメ」なので【簡単】、というふうに、フォロワーさんたちにとっては、理由があって行き着いた【簡単・時短・節約】だったんですよ。それなのに、発信する側にとっては、ただの入り口、売り文句になってしまっている。だから、【簡単・時短・節約】は、入りやすい入り口にはなるけれど、「絶対そうしなくちゃ」とは考えていないですね。もっと自然に考えることができれば……たとえば、手に入れやすい食材を使っていると、自然と節約になりますしね。

──どこのスーパーでも売っている食材しかレシピに登場しないのもありがたいです。

Mizuki 私が田舎に住んでいるので、どこでも買える食材しか買えないんですよ(笑)。もちろん私も、クリスマスやお正月にはかたまりのお肉を買いますし、そういった食材を使うレシピもタイミングを見てアップします。この本の中にも「ハレの日のかたまり肉」として紹介しましたが、これも人気のレシピ。みなさん、日々の暮らしの中で、そうやってちゃんとメリハリをつけていらっしゃるんですよ。それを、本を作る側の私たちが、「節約第一!」みたいに強調しすぎてしまっている気はしますね。

 料理はもちろん、家事全般、それ自体が疲れる行為であるところに家計のことまで考えはじめると、楽しいものも楽しくなくなってしまいます。目に見えて食費が減ることに達成感を得られるかもしれませんが、長期で見るとしんどいだろうなと想像できることについては、私からは提案しないでおこうと思っています。

がんばることより諦めることのほうが難しい。うれしかった「準大賞」

──毎日SNSのコメントにお返事をされていますが、大変ではありませんか?

Mizuki 大変なこともありますが、それ以上にいいことはありますし、私にとってコメントの返信は、フォロワーさんとふつうにお話をしているようなものなんです。いつも「コメントを返してすごいね」と言われますが、「えっ、話しかけられたら返事するよね?」というくらいの……(笑)。

 SNSでは、フォロワーさんに悩みがあれば、私も一緒に「どうしたらええんかな」と考えますし、私が行き詰まっているときは、「レシピリクエスト」というかたちでリクエストを募り、助けてもらいます。私も以前は、「行き詰まっている」なんて間違っても言えない人でしたが、あるとき、フォロワーさんに向けて「私が『レシピリクエスト』って書いているときは、なにを作ればいいかわからなくなっているときです。アイディアをください」と書いてみたら、みなさんがたくさんのアイディアをくださって。自分の弱さみたいなものを見せられるようになった気がしましたね。

 インスタライブも、はじめはちゃんと料理をしていたんですよ。事前に一回作ってみて、材料も計量しておいて、って。それはそれで、「一緒に料理を作れて楽しかった」と言ってもらえたのですが、あるときから料理だけじゃなく、みなさんの質問に答えたり、変な話もしたりするようになったんです。その中で、「朝ごはんの献立はどう考えますか」っていう質問と、同時に「朝ごはんの器ってどう選んでいますか」というコアな質問があったんですよね。私が「朝ごはんは食パンのみ」って答えると、「食パンだけですか!?」ってコメントがわーっときて。さらに私、器選びというのがピンとこなくて、「朝ごはんに器は使いません」みたいなことを言ったんですよ。朝ごはんのときって、マグカップにコーヒーを入れるでしょう? その上に食パンを置くって。そうしたら、みなさん「わかります!」「私はティッシュの上に置きます!」って(笑)。そのとき、みんなが団結したのを感じたんですよ、「みんな一緒だ」って。そうやって、フォロワーさんとの距離がどんどん縮まってきたのだと思います。

──「SNS」を相手にしていたのではなく、「人」と対話していた結果ですね。

Mizuki そう思います。料理研究家というと、料理もできて、日々の生活もきちんとしていて、と思われがちですが、毎日“映えごはん”を作って食べるなんて幻想です(笑)。もう私は、カッコつける必要もないし、そうして得をすることもなにもない。もっと結果を出したいと思う時期もありましたし、そういう気持ちがなくなったわけではありませんが、ガツガツしたところはなくなってきました。おそらく「自分、こういう感じなんです」とさらけ出したところ、みんなが笑って受け入れてくれたので、「ちゃんとしなくてもいいんだ」って楽になったんでしょうね。

 もともとプライドが高いし、融通もきかない性格で、なにをやるにしても「絶対に一番にならなきゃ意味がない」と思って生きてきました。本を出しても、Amazonのランキングばかり気になって、本を作ること自体がしんどい時期もあった。今回受賞した、料理レシピ本大賞 in Japan 2022は、大賞でなく準大賞だったので、編集担当者さんから「すごいことですけど、本当に惜しかったと思います」と言われたんですよ。私も以前なら絶対にそう感じていたはずだけれど、私は今回、2番になれたことがうれしくて。丸くなったなと思いました。がんばることよりも諦めることのほうが難しいのはわかっていますが、うまく諦めることができたのだと思います。

 今後の展望としては、現状維持が目標ですね。すでに仕事量が限界でしんどいのですが(笑)、バランスを取りながら、じょうずにやっていきたいです。

Mizukiさんおすすめの秋レシピ

Mizuki 私が好きなのは、「鶏肉とれんこん甘辛だれ。調味料が同量だし、揚げないので作りやすいですよ。れんこんって、料理の見栄えをすごくよくしてくれるんです。お弁当もおしゃれになるので、おすすめです!

今日のごはん、これに決まり!Mizuki のレシピノート決定版!500 品
『今日のごはん、これに決まり!Mizukiのレシピノート決定版!500品』P56より

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