大西礼芳さんが選んだ1冊は?「少年の心が動けば、川が流れて螢が飛びます」

あの人と本の話 and more

公開日:2022/10/9

大西礼芳さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、大西礼芳さん。

(取材・文=松井美緒 写真=干川 修)

 大西さんにとって、宮本輝は運命の作家だった。子どもの頃から本が嫌いで、大人になってもなかなか読めた例がなかった。でも映画『幻の光』を観て、宮本輝の原作小説を手に取ると、すっと心に入ってきた。

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「宮本さんの作品は、言葉と土地が結びついているからかもしれません」

 私も三重出身でまだ関西弁が抜けませんが……と大西さんは続ける。

「『泥の河』なら大阪の、『螢川』なら富山の言葉が色鮮やかに響いてきます。そしてその言葉を発している主人公・二人の少年の心情が、景色とリンクしている。少年の心が動けば、川が流れて螢が飛びます。少年の心情が美しく、何というか雄大に私の心に届くんです。その土地で生きている人間の物語である、そこがとても好きなんです」

 宮本輝の原点である「泥の河」と「螢川」、どちらも大好きだが、「螢川」は後半ずっと号泣し、泣きすぎて翌日も立ち直れなかったという。

「短い時間の中で、主人公の少年は身近な人たちの死に立ち会って、同時に初恋が実りそうな経験をします。いろいろな運命が降り注ぐ中で、彼は幸せになっちゃいけないと葛藤してる気がして。当時20代だった私の葛藤と重なったのかもしれません」

 大西さんは、出演映画『夜明けまでバス停で』の公開を控えている。2020年冬、幡ヶ谷のバス停で寝泊まりするホームレスの女性が襲われた。高橋伴明監督の「今、これを世の中に発信しなければ」という強い想いから作られた作品だ。大西さんにとって高橋監督は、大学時代に役者になる道を作ってくれた恩師でもある。

「伴明さんは、静かに怒っている人です。作品を通して救済というか、社会に対しての怒りを描かれていると思います」

 大西さんの役どころは、主人公・三知子が働いていた焼き鳥店の店長・千春。仕事も家も失った三知子を何とか救おうと奔走する。現代の日本社会を的確に切り取ったこの映画の中で、ある種“希望”ともいえる存在だ。最後に質問。大西さん自身は、今の日本において必要なこと、大切なことはなんだと思いますか?

「すごく当たり前ですが、目の前に困っている人がいたら、迷惑かもしれないと思わずに、声をかけてあげることじゃないでしょうか。三知子にとって千春の行動って迷惑だったかもしれないけど、必要なことでした。私も、迷惑になってもいいから手を差し伸べたいと思います」

ヘアメイク:廣瀬瑠美 スタイリング:田中トモコ(HIKORA) 衣装協力:ワンピース(IN-PROCESS Tokyo/SUSU PRESS TEL03-6821-7739)、右耳イヤリング、ブレスレット、左中指リング(e.m./e.m. 青山店 TEL03-6712-6797)、右手リング、ピンキーリングにしたイヤーカフ、左耳イヤーカフ(NOMG/info@nomg.jp)

おおにし・あやか●1990年、三重県生まれ。2009年、京都造形芸術大学映画学科在学中に、同学科のプロジェクト、高橋伴明監督作品『MADE IN JAPAN 〜こらッ!〜』で主演を務める。以来、映画、ドラマ、舞台等で幅広く活躍。主な出演作は、映画『花と雨』『菊とギロチン』、ドラマ『競争の番人』など。11月23日から舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』に出演予定。

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監督:高橋伴明 脚本:梶原阿貴 出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビーモレノ、片岡礼子、根岸季衣、柄本 明 配給:渋谷プロダクション 10月8日(土)よりK’s cinema、池袋シネマ・ロサほかで公開
●2020年冬の深夜、あるバス停のベンチで仮眠をとる北林三知子。一人の男が、石の入ったコンビニ袋を彼女の頭上に振り上げる――。焼き鳥屋で住み込みのアルバイトをしていた三知子は、コロナ禍の中なぜバス停で夜を過ごす生活となったのか。
(c)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会