なぎら健壱さん×所ジョージさんに聞いた、年齢や他人の尺度を気にせず、ご機嫌に生きるには?

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/20

 このほど『アロハで酒場へ なぎら式70歳からの「年不相応」生活のススメ』(双葉社)を出版されるなぎら健壱さん。芸能生活50周年となる今年は、11月に記念ライブの開催も予定されているとのこと。そんななぎら健壱さんの出版を祝して、仲良しの所ジョージさんとの対談が実現。冒頭からお二人のペースにひっぱられながら、趣味のこと、生き方のこと、年齢のこと…所さんの秘密基地のような「世田谷ベース」でさまざまに語りあっていただいた。

(取材・文=荒井理恵 撮影=中惠美子)

二人の出会いとは?

――今日はよろしくお願いします。

なぎら健壱氏(以下、なぎら):はい。…ところで、これあってる?(と、携帯の画面を所さんに見せるなぎらさん)

所ジョージ氏(以下、所):○*△…ええ、あってますよ。

なぎら:いやぁ、だぶってる電話番号を消してくれるってソフト入れたら、必要なやつも全部消えちゃってさ。だから着歴からそうかな? って。

:やめてもらえません? そういうの(笑)。自分があんまり得意としない分野に手を出すのさ。

なぎら:「おそれいりますけど、どなたですか?」って電話するはめになっちゃってさ。

:便利アイテムを手に入れて、超不便になってるじゃない。

なぎら:そのとおり。

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:ほんとさ、携帯を持って便利だけど、見なきゃいけないとか、既読しなきゃいけないとか、それにしがみついて生きてる感じになっちゃうよね。

なぎら:そう。

:お酒に休肝日があるみたいに、便利なものを休む「休便利日」みたいなのがあればいいのにね。1ヶ月のうちに3日間とかさ。そうすりゃコンビニとか携帯とかのありがたさがわかるし、「おれってコレないと暮らせてない」って気がつくし。

なぎら:携帯って忘れることあるじゃない。旅のときだったりすると、すごい楽だもんね。

:忘れたっていう責任逃れできるしね。やっぱり一度「休便利日」みたいなの国で決めたらいいよ。携帯使ったら罰金でさ。

なぎら:PC使ったら罰金。

:コンビニ入ったら罰金…でも、そんな取材じゃないんでしょ? 今日。

――はい、そろそろいいでしょうか。なぎらさんの出版記念対談です(笑)。まずはお二人の出会いから教えてください。

:出会いってなんかありましたっけ? そんな恋人みたいなの。

なぎら:コンサート一緒になったのが最初だよね。でも、あたしが最初に所を知ったのはね、ラジオ関東(現・ラジオ日本)。月光仮面の格好して見本盤を配って歩いてたのよ。

:やってましたね。

なぎら:世の中には変わったやつがいるなって。

:まだ芸能界に入ったばっかりだったので、何がなんだかわからないから一生懸命でね。僕はなぎらさんのこと、デビュー前から見てたんですよ。その頃はたとえば、キャロルとかフォークシンガーとかがいる中になぎらさんが出てきてね。イベントに一緒に参加してるんだけど、どっか違うところから見てて、全体を小バカにしながら何かやってるわけ。人を食った感じのスタンスに、ちょっとした憧れみたいなのはあったんですよ。そういうの吸収しちゃったから、うちのアルバムは一枚も前に出ていかないっていうね。最初の頃はフォークソング作って、それがヒットして、武道館でコンサートやってとか、自分なりのスケジュールがあったのに。

なぎら:いいラインを選んでくれたよね(笑)。

――お二人のつきあいが長く続く理由ってなんだと思いますか?

: 僕よりなぎらさんは先輩なんだけど、とぼけてるからだよ。

なぎら:おれ自身はそうでもないと思うけどね。たださ、やっぱり、まっすぐ行きたくないんだよね。なんかちょっとぐねぐねしていくか、無駄道行っちゃったほうが面白いなってところがあるから、そういうところがお互い共感できてると思う。

:あとね、なぎらさんはフォークのこととか音楽のこととかやたら知ってるの。そこはすごいと思ってるわけ。僕はそういうの一切なくて、昨日のことも忘れちゃうくらいだから。

なぎら:所見てるとね、半分くらいの力でやってるように見える。でも実際は全力なのかもしれないんだけど、見るほうからすると半分の力に見えちゃうのがすごいなと思ってね。

:見ている側の人の解釈なんでね。自分は100点と思っても、みんなは50点くらいに思ってて。でもね、50点でもいいのよ。「こんだけやったんだから認めてくれよ」とかいうのはかっこ悪いしさ。

なぎら:むしろ半分くらいに見えるっていうのは、すごいよね。そうは言っても、結構、ちゃんとやってますよ。

:なにあらためてちゃんととか。取材だからって(笑)。

なぎら:仕事はともかく、趣味のことはね(笑)。

なんだって趣味になる。年齢や人様の尺度で考えたらだめ!

――趣味が仕事に自然につながっているように見えるのもお二人共通ですよね。

:これが趣味で、これが仕事で、これが生活でとか、なんにも感じてないよね。

なぎら:いや、あたしは趣味は趣味と思ってるよ。オフのときに趣味をやってるからいいんであって、それが仕事になってきちゃうと面白くなくなってきちゃうときがあるんだよね。

:求められるようになると?

なぎら:せっかく今日は休みだからっていうのに、またそこでカメラいじんのかよ、とかね。たださ、世の中に「趣味がない」って人がいるじゃない。本にも書いたけど、みなさん「趣味」を人様が思う尺度で考えてるからそうなるんであって、そうじゃないものをやればいいんだよね。「趣味はないけど、町中華行って新聞読みながらビール飲むのがいいです」っていうなら、それ立派な趣味だと思いますよ。

:あと道具とか用意されたものなら遊べるけど、用意されないと何やっていいかわかんなくなっちゃうって人もいるよね。スキーだって道具用意するのとかに一生懸命になっちゃって、お金もかかるし滑ることが楽しくてもなかなか趣味にならないのよ。手ぶらで行って、そのへんのダンボールで「これで滑れねぇか」ってやるのが趣味なんだよ。みっともないとか、大人としてどうとかでやれなくなっちゃってるけど、実際はそういうのが遊びなんだよね。

なぎら:よく会社やめたらカルチャーセンター行こうか、年齢からいって囲碁かな、将棋かな、書道かな、とかなるじゃない。そういうことじゃなくて、もうちょっとそばにあるんじゃないかっていうね。

:「探してる」っていうその様だって趣味だよね。「私、探すのが趣味だから」って。だから「カルチャーセンターまで行く人」でもいいわけよ。行って、入らない。次のカルチャーセンター行って…。

なぎら:入らない。「趣味はなんですか?」って言われたら、「入らないこと」ってね。

:空気感だけ味わうけど、入らない。これだけ行ったとかね。

なぎら:あとね、いい年だからやっちゃいけないっていうのはダメだと思うよね。関係ないよ。

:でもやっぱさ、この歳でなぎらさんと二人で公園の砂場で遊んでたら大問題だよね(笑)。なぎらさんが富士山作ってトンネル通しちゃってさ「届く? 届く?」とか。

なぎら:あー届いた、なんてね(笑)。

:これはなんか問題あるね。

なぎら:通報される感じだね(笑)。とにかくね、人様の尺度で「趣味だ」っていうのは、別に趣味じゃないってことだよ。

:家にいて便利にしてて「なんか趣味ねえかな」ってね、ないよそんなの。動かなきゃ。動きゃなんでも趣味になるよ。

ご機嫌に生きる秘訣は?

――お二人のお話を聞いていると、なんだか気が楽になってきます。ご機嫌に生きる秘訣ってありますか?

なぎら:ご機嫌かそうじゃないかってのはさ、自分が気に入ってるかそうじゃないかの差であってね。気に入ってるところにいればご機嫌なわけですよ。ご機嫌な場所に行ってご機嫌なことやってれば、ご機嫌。だからご機嫌は人に教わるわけじゃなくて、自分で発見できるんだよね。

:なぎらさんはご機嫌ですよ。カントリーやるバンド仲間がいて、一緒にやれるんだもん。いろんなことがあっても、そこに行けるんだもん。

なぎら:それを取られちゃったり、そこからはずされたりしたらご機嫌じゃなくなっちゃうよね。

:ご機嫌に生きられないのは、自分の「核」みたいなものを感じないからなんじゃない。アイス食ってりゃおれはご機嫌なんだって言うなら、アイスなんてどこにでも売ってるんだから、決めればいいんじゃない? わかりやすくね。

――たしかに、自分自身が気分のいいポイントにまずはちゃんと気がつかないとですね。

:あとね、よーく考えるってことだよ。なんでつまんねえんだろうってこと。たとえば会社が嫌でもさ、最初は「お願いします」なんて一生懸命入ったわけじゃん。そのときの自分を思い出すといいよ。この会社あわないって思うかもしんないけど、「おめえにあわせるわけねえだろう」って話だよ。

――本の中には「あんまり怒らないようにしてる」ともありましたが。

なぎら:怒って得したことないからね。でもね、何かに対して常に怒ってますよ。テレビ見てても「つまんねえな、こいつな」とかね。常に怒ってるけど、それをあからさまに外に出さない。

:顔立ちが怒ってるってみんな思うんじゃないの? 威圧感があんじゃないの?

なぎら:あるかもしれない。まあ、怒った顔見せても世間が不愉快になるだけだしね。

:そうだよね。泣き言とか、怒ってることに対して、人は近づこうとしないじゃん。関わり持たないようにしようと思うじゃん。知り合いならしょうがないから少しはつきあうけど。自分が泣いちゃったらみんなもひくし、だったらできるだけ喜ぶほうに行ったほうがいいよね。

なぎら:そうそう。怒ってるのなんて出しても面白くないし、他人は怒ってないから、それに対してぶつけてもしょうがないしね。

:笑いながら生きてると、みんな「何がそんなに楽しいの?」って聞くじゃん。ペンキだって笑いながら塗ってたら、「ちょっとやらしてくんね?」って言われるけど、泣きながらやってたら「大変なんだな、ペンキ塗りって」ってなるしね。

「今」が一番いい!

――さて、今回の対談はなぎらさんの70歳記念でもあります。所さんは67歳ですが、お二人とも日頃、ご自身の年齢は意識されますか?

:考えたことないですよ。

なぎら:まったく考えてないわけじゃないけど、ずっと考えてるわけじゃないよね。

:「ああ、おれはもういい歳なんだから、そろそろこんなことしちゃいけないな」なんてないし。

なぎら:それはないね。だから歳を食ったとまず思ってないんだよね。

:人生100年とか言うけど、100年も生きないでしょ。そういうキャッチコピーが出た時点でいろいろあやしいものを感じるね。「僕はまじめです」っていう人、まじめじゃないのと同じでさ。

なぎら:ははは(笑)。

:でもさ、ずっとバイクに乗ってるけど、いくつまで乗れるのかなとは思う。『ポツンと一軒家』(注:所さんが司会を務めるバラエティ番組)で、84歳で畑やってたり、90歳近くで水道の修理してるとか見てると、おれもできんのかなって思えるよね。

なぎら:あれは希望を持たせてくれるよね。しかも一人で住んでたりするし。

:よくさ、沖縄で豚肉食ってんのが長生きだとか言って、みんな豚肉食うじゃん。あれは豚肉を用意したり、フライパン用意したり、丁寧に料理したり、皿にのせたり、かまえてちゃんと食べたりとかいう行いが長生きの秘訣なんだよ。じいさんばあさんに習うこといっぱいあるわけよ。

――むしろ若い世代ほど「こうじゃなきゃいけない」とか思いがちかもしれません。

なぎら:社会にとらわれてるんだろうね。社会がこうだからこうしなきゃいけないって。

:みんな怒られたくないとか、波風立てたくないとかね。そりゃ立たないほうがいいし、怒られないほうがいいけど、怒られるようなことやって、怒られないようにしなきゃ。「あの人は波風が立つようなこと言うけど立たないね」とか「おさめるね」とか、そこは自分を出せるところだからね。しかしなんか、こうやって言ってきかせるのも、なんかかっこ悪い感じもするね。

――対談、今のやつで締めましょうか。言ってきかせんのもかっこ悪いって。

:いや、それはやめて! おれのように暮らせって(笑)。そのくらいはっきり言ったほうがいい。おれを見習え、おれを尊敬しろ(笑)。

なぎら:でかい字でね。で、ちっちゃい字でさっきの入れたら、ちょうどいい(笑)。

――では最後に、これからやってみたいことはありますか?

:ない。全然ない。だって忙しくて、計画なんかないよ。

なぎら:いろんなことに興味を持つのが次から次へ出てくんだ。

:出てくる。出てくるっていうより、僕はなんでもいいのよ。なんでもこいよと。なんでも面白くしてやるっていう自信があるの。

なぎら:たしかに、あたしもないね。何かを思いついたときにやってるだけであって。これから何かやろうってのはないですよ。これから何かやろうってやると、絶対つまんないと思っちゃうんだよね。思いついて、自分でそこにぶつかっていって、面白くなきゃやめりゃいいし、面白かったら続けりゃいい。

:計画立ててやるのが大人みたいな感じだし、家族も安心するし。でも全部安心じゃん? 安心を求めていって、なんの娯楽なのこれ? ってなるじゃん。そもそも計画がなければ「これやめようよ」って、違う過ごし方ができたりするんだよ。

――なるほど。それにしてもお二人とも、常に「今が一番」な感じですね。

:そりゃそうだよ。

なぎら:体力的には昔に戻ったらできることはあるのにとは思うけどね。でもね、今が一番だと思いますよ。そう思わないとせつないしね。

:そりゃそうだよ。今が一番いいに決まってんじゃん!

なぎら健壱(なぎら・けんいち)
1952年、東京都中央区木挽町(現在の東銀座)生まれ。その後、葛飾、江東などで育つ。高石ともや、岡林信康、西岡たかし、高田渡らの影響を受け、フォーク・ソングに傾倒。1970年、岐阜県中津川で行なわれた全日本フォークジャンボリーでの飛び入り出演を機にデビュー。1972年、ファーストアルバム「万年床」をリリース。これまでに20枚以上のアルバムを発表している。趣味は数多く、カメラ、散歩、自転車、絵画、落語、飲酒、がらくた収集など。現在はコンサートやライブ活動のほか、テレビ、ラジオ、映画、ドラマ出演でも活躍。他方、新聞、雑誌などでの執筆も多く、代表作に『下町小僧』、東京酒場漂流記』、『関西フォークがやってきた!』、『高田渡に会いに行く』や写真集『東京のこっちがわ』など多数。
11月5日開催の50周年記念コンサートなど出演情報はこちら

所ジョージ(ところ・じょーじ)
1955年、埼玉県所沢市生まれ。1977年、『ギャンブル狂想曲/組曲 冬の情景』でシンガーソングライターとしてデビュー。同年、『オールナイトニッポン』のパーソナリティに抜擢され人気を博し、以降、ミュージシャン、タレントとして活躍。現在では『世界まる見え!テレビ特捜部』や『ポツンと一軒家』などテレビ番組のレギュラー9本を抱える。また、俳優・声優としても『うちの子にかぎって』『オヨビでない奴!』などのテレビドラマから、映画『まあだだよ』、『トイストーリー』シリーズなど多方面で活躍。その一方、芸能界きっての趣味人としても知られ、クルマ(特にアメリカ車)、バイク、ゴルフ、Tシャツ、スカジャン、ゲーム、模型製作など多種多様。