新作アニメ制作発表でまさかのトレンド入り!? いつまでもファンの胸を熱くする『トライガン』の魅力とは

マンガ

更新日:2022/12/5

『トライガン』とは一体どんなマンガなのか?

『月刊少年キャプテン』(徳間書店)で連載されていた『トライガン』(内藤泰弘/徳間書店)の1巻初版が発刊されたのが1996年。ファンの間で「無印トライガン」として知られているこの物語は、同誌の休刊により別冊号と単行本の描き下ろしで、全3巻で一度幕を下ろしている。

 その後、『ヤングキングアワーズ』(少年画報社)に移籍して、タイトルを改め『トライガン・マキシマム』(内藤泰弘/少年画報社)として新章がスタート。そして、同作の最終巻である14巻が発刊されたのが2008年だった。その間、1998年にアニメ化、2010年にも劇場版アニメ『TRIGUN Badlands Rumble』が公開されるなど、漫画以外の媒体でも主人公ヴァッシュを中心とした物語が展開された。同作は壮大なSFと派手なガンアクション、人間ドラマが詰まった作品として海外での人気も高い作品だ。

(あらすじ)
 地球(ホーム)から遠く離れた大きな砂漠の惑星に、人類の移民船団が原因不明の事故により墜落した。事故を生き延びた人類は、あらゆるものを“生産”する「プラント」に頼りながら、過酷な自然のなかでギリギリの生活をすることになった。それから約150年後、この惑星では「人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)」のあだ名を持つヴァッシュ・ザ・スタンピードの噂が絶えない。ラブ&ピースを謳う平和主義者の彼が、人を殺さず事件を収めようと奔走するも、結果的に騒ぎが大きくなり、かけられた賞金は600億$$(ダブドル)。力が支配するこの世界で不殺を誓うヴァッシュは、さまざまな秘密を抱えていた……。

 そして、今年7月には2023年1月スタート予定の新作アニメ『TRIGUN STAMPEDE』のティザービジュアルとPVが発表された。完結からすでに10年が経っているにもかかわらず、発表直後には、Twitterでトレンド入りするなど、いまも多くのファンから愛され続けている。『トライガン』の魅力はどこにあるのか、トライガンTシャツで取材に応じてくれたファンの一人(以下Aさん)に話を聞いてみた。

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虚淵玄や奈須きのこも応援する主人公・ヴァッシュ

――『トライガン』を知ったきっかけを教えてください。

Aさん:『トライガン』を知ったのは、自分が高校生くらいの頃だったと思います。今30手前なので、もう15年近く前になりますね。たまたまウェブで読んでいた作品の作者が、『トライガン』を薦めていたのがきっかけです。当時は青年誌に載っていながら少年漫画的な熱さを持つ作品を読みたいと思っていた時期で、物語が佳境に差し掛かっていたトライガン・マキシマムに出会い「これだ!」と思いました。

Aさん
主人公ヴァッシュと天使の羽が描かれたTシャツを着て、取材を受けてくれたAさん。TシャツでもLOVE&PEACEを謳っている。

――高校生で『トライガン』に触れた経験は、Aさんにとって大きな影響を与えていそうですね。

Aさん:はい。自分の好きなテーマやジャンルが定まっていく時期に読んだこともあって、今読み返してもやっぱりめちゃくちゃ好きだな、と改めて思いました。

――今回のテーマでもある、『トライガン』の魅力についてお聞きしていきたいと思います。Aさんは、同作のどこに魅力を感じますか?

Aさん:2010年の劇場公開を記念して、虚淵玄先生や奈須きのこ先生がパンフレットにメッセージを寄稿しています。その内容が、私の思うトライガンの物語の魅力に近いと感じたので少し言葉を借りたいと思います。

TRIGUN-Multiple Bullets
TRIGUN-Multiple Bullets』(内藤泰弘・他/少年画報社)。Boichi先生や水上悟志先生など、有名作家によるトライガンアンソロジーが収録された一冊。劇場版公開時に虚淵玄先生や奈須きのこ先生が寄稿したメッセージも収められている。(Aさん所有)

Aさん:主人公のヴァッシュ・ザ・スタンピードは、愛と平和を謳いながら、人を助けるために銃で人を傷つけざるを得ない、という矛盾を抱えています。この理想と現実の大いなる矛盾から目を逸らさない優しいヴァッシュがどこに向かっていくのか……その様を追いかけたくなるお話です。

 また、僕は“厳しい現実を前にして理想を謳うことは偽善だとわかっている。それでも通さねばならない偽善があるのではないか”と、正面から向き合うのが少年漫画の魅力だと思っています。そうした『ジャンプ』のような少年誌で扱う内容を、よりハードでシビアな世界観の中で描いているのが『トライガン』の物語だと感じるので、大人のための少年漫画と言えるのではないでしょうか。

――ストーリーはもちろんですが、トライガンには個性的なキャラクターが次々と登場しますよね。選びにくいとは思いますが、そのなかでAさんが一番語りたいキャラは誰ですか?

Aさん:トライガンファンの方からはベタだと思われるかもしれませんが、主人公ヴァッシュと、彼と一緒に旅をするウルフウッドの二人ですね。注目してほしいのは二人の関係で、理想を貫くための現実的な手段として“銃の腕”を磨くことを追い求める男と、「現実を見ろ」と言いながら、それでも理想を捨てられない男。前者がヴァッシュで、後者がウルフウッドなのですが、一見真逆のようでいて、その実とても似ている二人の物語と思って読んでしまうところがあります。

『トライガン』というタイトルの秘密

――2人とも銃で戦う点からも、特別な関係が垣間見えますね。

Aさん:銃で戦うという部分については『トライガン』というタイトルとも関係があるんですよ。実は『トライガン最終完成形』(徳間書店)というトライガンのムック本には『月刊少年キャプテン』が休刊する前に掲載された、トライガン・マキシマムの予告が収録されています。そこには「3つの銃を持つ男」という、ヴァッシュを指す描写があるんです。3つの銃とは、ヴァッシュが所持しているリボルバー、左腕の義手に入っている銃、さらに彼の出生の秘密に大きな関わりのある銃の3つを指します。この3つの銃がトライガンを意味している、というのがファンの間では通説になっています。

トライガン
1998年に徳間書店より発行された『トライガン最終完成形』の表紙(Aさん所有)

――『トライガン』というタイトルがヴァッシュ自身を示していると。

Aさん:そうなんです。さらに、『トライガン』には、ヴァッシュ、ウルフウッド、それから終盤に登場するリヴィオという銃を扱う男が3人登場します。個人的には“トライガン”というタイトルは、銃を持つ3人の男たちの物語としても解釈できるのでは、とも思っています。よくあるオタクの深読みで、真意は内藤先生の胸の内だとは思いますが(笑)。

――謎が多いストーリーなので、つい考察したくなる気持ちもわかります。また『トライガン』は、ガンアクションの凄まじさに定評がありますが、10月からシーズン3がスタートした『血界戦線』(内藤泰弘/集英社)でも内藤先生の描くアクションシーンは、ファンからの多くの支持を得ていると思います。ほかに『血界戦線』と通底する『トライガン』の面白さやテーマには何があると思いますか?

Aさん:あくまで一ファンとしての感想ですが、ハードな現実を前にしても理想を捨てずにあがき続ける主人公と、人間たちを描く物語という点が、この2作品に共通しているように感じています。

――たしかに両作品の登場人物たちが対峙する問題は、尋常ではない厳しさを持つパターンが多いですね。

Aさん:どんな困難にぶつかっても、最後まで理想を貫こうとあがく姿がかっこいいんですよね! そのほかの象徴的なエピソードとしては、『トライガン』の作中で、ヴァッシュと深い関わりを持つレムという女性が、赤いゼラニウムの花言葉は「決意」であるという話をします。実は、『血界戦線』のアニメの1話でも、赤いゼラニウムの花が咲き誇るシーンが挿し込まれているんです。どちらの作品でも共通して、決意というフレーズはとても重要なものとして扱われているように思います。

――最後に、先日、『トライガン』の新作アニメ『TRIGUN STAMPEDE』の制作が発表されました。Aさんはリアルタイムで旧アニメを視聴できなかったそうですが、再アニメ化のニュースを見たときはどう感じましたか?

Aさん:『トライガン』はSFっぽい異形や超人たちのディティールの細かさ、そして画面のアクション構成の面白さが重要な作品なので、実績のある「オレンジ(※)」が担当すると知って安心したところはありました。連載をリアルタイムで追うことはできませんでしたが、10年以上前から『トライガン』を読んでいる読者としては、今読んでも面白い作品だと思っています。ヴァッシュたちが派手に動く姿が令和に見られるのは、とても嬉しいです。

(※)『BEASTARS』や『宝石の国』など、話題作を手掛けたアニメーション制作会社。

 ラブ&ピースを掲げる優しいヴァッシュがハードな現実に立ち向かう姿は、色褪せることなくファンの胸を熱くさせるようだ。アニメがはじまるまでは、彼らの過酷な戦いを原作で読み返しながら新アニメの完成を楽しみに待とう。

取材・文=小森重秀

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