「家と同じで、夫婦関係もメンテナンスした方が長持ちする」子どもにキレる夫とカウンセリングへ通った日々《著者インタビュー》

暮らし

公開日:2022/12/15

 水谷さるころさんの新刊『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』(幻冬舎)は、コロナ禍中に家庭内でキレたり不機嫌な態度を取ったりするようになってしまった夫が、カウンセリングを通じてどう変わっていったかを描いたコミックエッセイです。著者の水谷さるころさんは、パートナーであり映像ディレクターである夫の「ノダD」と、これまでも家族間のコミュニケーションや諸問題について話し合いながら解決してきました。ところが、コロナ禍になり子どもに手をあげてしまうようになった夫を前に行き詰まりを感じ、カウンセリングを受けることにしたといいます。執筆のきっかけから現在に至る変化について、著者の水谷さるころさんに聞きました。

(インタビュー・構成=浜田ちひろ)

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!
子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』(水谷さるころ:著、山脇由貴子:監修/幻冬舎)

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──「夫がキレやすい&突然不機嫌になって困る」というのは、多くの家庭で実は起こっているのではないかと思います。とはいえ、なかなか人に言いにくいセンシティブなテーマだと思うのですが、本にしようと思ったのはなぜでしょう?

水谷さるころさん(以下、さるころ):コロナ禍が始まって以来、実際に「うちの夫が……」とか「知り合いの女性の夫が……」みたいな話をよく聞きました。「夫やパートナーの態度に困っている」というのは「あるある」だなと感じたので、我が家の状況が改善した話は需要があるんじゃないかな? と思ったのが最初に思ったことです。

 うちはそれまでも結構、夫婦間で話し合って、お互いのコミュニケーション方法や態度などを改善してきた方だと思うんですが、初めて自分たちの努力だけでは「これ以上改善できないかも」という状況になったんですよね。そしてプロに相談したら、我が家は良い結果が出たんです。「どうしたらいいんだろう」と悩んでいる人に、「なんとかなるかも」という提案ができたらいいなと思い、この話を描くことにしました。

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

──さるころさんのご家庭はもともと得意な家事をそれぞれがやるスタイルということで、家事分担の不満はコロナ禍でも出にくかったのかなと思いますが、子育ての分担について変化はありましたか?

さるころ:保育園の休園や、外出自粛の時はとにかく私の「育児時間」が増えました。外出自粛の時、映像ディレクターのノダDは仕事がキャンセルになったりしたんですよ。でも私はもともと在宅仕事だし、仕事もその時は特に影響がなくて、締め切りがあるけれど家に子どもがいるという状態でした。在宅業務になったママ友の中でもあるあるでしたが、子どもは何かあると母親の方にばっかり来るんですよ。

 ノダDは自分の方が暇だから「用事があるならお父さんに言いなさい」とは言ってくれるんですが、そもそも我が家の部屋割りが、子どもがいるリビングからは私の仕事場が見えて、子どもからお父さんの仕事場は見えない構造になってるんです。私は子どもがいる限り、リビングと仕事場の間のドアはどんなに忙しくても閉めないんですが、お父さんの部屋のドアは閉まっている。

 ノダDは「お父さんに言いなさい」と言いつつ、仕事がキャンセルになったからと新しいアプリケーションの使い方の勉強とかをしていて、そういう姿勢はいいんですが相変わらず部屋のドアは閉まってたんです。子どもから見たら全然ウエルカムな感じはしないですよね。

 心理的ハードルに加えて、家の構造もそうなってるし「そりゃ、お父さんにわざわざ声掛けに行かないよね」と改めて感じたというか。子育て分担の変化というよりは、コロナ禍で色々状況が明確に浮き彫りになった感じはありました。

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

──おふたりの息子さんであるマイルくんの成長と共に、父子関係が変化していった様子が描かれていますが、さるころさんが特に気になったのは、どういう点でしょうか。

さるころ:ノダDは赤ちゃんが大好きなんです。実際、息子が生まれてからミルクをあげたりおむつを替えたり積極的にやっていて、子どもの世話が好きなんだなとは思ってました。でも徐々に息子が「赤ちゃん」から「子ども」になってきて、ちょっとずつ態度が変わってきてるなと。赤ちゃんや、ヨチヨチ歩きの幼児って本当に大人が世話しないとダメな存在じゃないですか。でも徐々に自分でしっかり歩いて話し始めると、子どもでも言葉で納得させないといけなかったり「対・人間」みたいな態度が必要になってくる。

 私からすると、子どもの意見をひとりの人間として尊重しつつ、でもケアやフォローをするというのは成長の段階において必要なものだと思って対応しているんですが、そういった対応がノダDってあんまり得意じゃないのかな? と感じました。

 年齢的な判断で「もう赤ちゃんじゃないんだから」と「これを食べなさい!」って強制したり、「○歳なんだから自分でやれ!」と怒ったり、子どもに対しての態度が荒っぽくなってるなと。

 ノダDは成長した息子に対して「ケアしてフォローする」存在じゃなくて「命令」して「管理する」存在みたいな感じになっていない? と思っていました。

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

──そういった、子どもの成長に関しての思惑と現実の違いみたいなことが増えていったんですね。ちなみに(漫画でも描かれていますが)夫であるノダDさんは、なぜカウンセリングを経てキレにくくなったのか、一番の理由というかきっかけは何だと思いますか?

さるころ:無自覚に自分が息子にやってたことを、自分で認知できたからですね。認知して「あ、これはダメだな」って思えたから変われたんだと思います。前作の『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』でも描いたエピソードなのですが、子どもが2歳の時の旅行中に、ノダDからあまりに理不尽な態度を取られて「次キレたら離婚する!」と通告したことがありました。

 その時「離婚したくない」と、努力して変わってくれたところはたくさんありました。でも「離婚したくないから」はモチベーションであって、変化そのものの理由じゃないんですよ。彼が変わったのは「あ、俺のやってるこれはダメだな」って認知できて「じゃあ、やっぱ変えなきゃ」って思えたからです。もちろん、私や息子と一緒にいたいからという動機はありますが「そのためには俺のこういう態度はダメだし悪影響なんだな」って本人が納得できたら、本当に変われるんです。

 今回は別に「カウンセリング行かなかったら離婚する」って脅したわけじゃないです。本人も子どもを叩いた理由がちゃんと説明できなくて「説明できないなら、カウンセリング行こう」って言われたことに「まあ、そりゃそうだ」と納得して行くことに同意した感じはあります。

 それで、カウンセリングに行き、客観的に「自分」と「自分と家族の関係」を見ることができて、「自分の行動で家族が困っている」ということが認識できた。本人が、私や子どもが「問題だ」と思っていることを、同じように「問題だ」とノダDが思えたことが一番の理由だと思います。

──現在のマイルくんとノダDさんはどんな関係になっていますか? 小学校に入って環境の変化もあったと思いますが、そのあたり含めていかがでしょう。

さるころ:私がずっと困っていた「わざとお父さんを怒らせる」という、息子の試し行動は本当になくなりました。父子がそれで喧嘩することも減ったのでそれは本当によかったです。ノダDと息子の喧嘩を仲裁するのがストレスだったので。

 ただ、今でもやっぱり、相変わらず何かあったらお父さんじゃなくてお母さんになんでも言ってきます。「旅行」と「外食を含むご飯のリクエスト」は、お父さん担当なのに、そういうのも全部私に言うので「それはお父さんに言って!」ってよく言ってますが、そういうのは、性格の相性もあると思うのでしょうがないかなと。子どもからのアプローチを半々にするのが目的じゃないですし、子どもが家でのびのび過ごせてればいいと思っています。

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!

──さるころさんが、家庭内で解決できない!となった時に諦めたり別居や離婚を考えたりするのではなく、カウンセリングに行こう!という選択肢を思い浮かべられたのはなぜでしょうか。

さるころ:カウンセリングに行こうと思ったのは、全然まだ改善の余地があったからです。ノダDに「子どもを叩くな」という話をした時に、もしも彼が「こんなの当たり前」とか「そうやらないと強い子にならない」など自分の行為を正当化してやめないのであれば話は違ったと思います。潜在的には正当化してるところがあったとしても、ノダDは一応「やめた方がいいのはわかってる」というところまでは私と同じ意見だったんです。だから、話し合いの余地があるし「どうしたら変われるかな」って一緒に問題に取り組む方向だったんですよね。

 私は結構決断が早いタイプなので「だめだこりゃ」ってなったらすぐ別れると思います。私たちはお互い離婚経験者で、事実婚にしていて夫婦の財布は別だし、子どもの親権は私が持っています。「我慢して一緒にいなければならない」という状態にならないように最初から設定してあるんですね。

 それは、お互いの離婚経験で「我慢すると、結局後で問題を解決するのがすごく大変になる」ということを実感したからです。最終的に離婚してしまったので、結婚生活を続けるなら「問題は早めに解決しよう」と最初からふたりで決めていました。なので今回も、ふたりでの話し合いで問題を解決するのが無理なら「プロに相談しよう」となるのは、自然な流れだったと思います。

──今現在、悩んでいる人がカウンセリングに行こうと思っても、パートナーが行きたがらないなどのハードルもあると思います。カウンセリングに行く時に何かアドバイスはありますか?

さるころ:うちはカウンセリングに行ってよかったと思うので、カウンセリングをオススメしたくなりますが「行ったら解決するよ!」とは言い切れないんですよね。それでも、自分の状況を客観的に見られるチャンスではあるので「今の状況をなんとかしたい」という気持ちがあるなら行った方がいいと思います。パートナーと一緒に行くのは無理な場合は、まずひとりで行くというのもいいと思います。

 パートナーを連れて行く時に、「行かなかったら離婚する」という条件で来る人は多いみたいです。それでも来るならまだ「離婚はしたくない」わけだから、夫婦を続けられる可能性はあるんですよ。でも本当はもうちょっと前の段階で行った方がいいのかなとも思います。離婚するほどじゃないけど話し合いがうまく行かないとか、「問題はあるけど離婚したくない」時に「興味あるから行こうよ!」ってノリで行けたらいいんですけどね。長く住む家ならリフォームするし、メンテナンスするじゃないですか。夫婦関係もメンテナンスした方が長続きするし、快適なんじゃないかなと。

 私がカウンセリングに行くタイミングで、ノダDに対してわりと気をつけたのは、カウンセリングに行って「相手の非を認めさせたい」とか、カウンセリングで「断罪する」みたいな気持ちを持たないようにしたことです。断罪されると思っていたら相手は怖くて拒絶しますよね。「一緒に問題の原因を考えよう」というスタンスでいました。

 相手の過失を罰したいなら、相談する相手はカウンセラーじゃなくて弁護士だと思うんです。だから「この人と一緒にいたい」と思ってるうちにカウンセリングへ行けると良いのかなと思います。

──読み手によっていろんな感想を持つ1冊なのかなと思うのですが、どんな方に読んでほしいと思っていますか?

さるころ:私は「カウンセリングに行ったら面白かった」っていうのがまずあって、「みんな~! 面白かったよ!」みたいな感じで書いてるっていう部分もあるんです。なので「夫婦でカウンセリングに行ったらどうなるの?」という興味で読んでもらえたらいいなと思います。「夫婦の問題、パートナーの問題がそんな簡単に解決するわけない」みたいなのはあると思うんですが、自分の体験をかなり正直に描いてるつもりです。私は「他人の夫婦のカウンセリング内容」というだけで結構面白いと思うので。

 私は妻側なので、目線としては妻から夫を見たストーリーになっていますが、夫側の人も読んでもらえたらなと思っています。これを夫婦で読んで「カウンセリングは別に怖くなさそう」「面白そうだね」って思ってもらって、一緒に「問題は色々あるけど、自分たちはどうしようか」って気持ちになってもらえるとうれしいです。

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