「ミステリー小説はラジオと似ている」『ナイナイANN』放送作家・小西マサテル、テレビプロデューサー佐久間宣行が語るミステリーと笑い。「このミス」大賞受賞作『名探偵のままでいて』発売記念対談

文芸・カルチャー

公開日:2023/2/5

小西マサテルさん、佐久間宣行さん

 第21回『このミステリーがすごい!』大賞が、小西マサテルさんの『名探偵のままでいて』に決定した。本作は幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患う主人公の祖父が、主人公の周りで起きる事件の真相を次々と解き明かす本格的な安楽椅子探偵小説だ。

 小西マサテルさんは『ナインティナインのオールナイトニッポン』などを手がける、ラジオファンでは知らない人がいない人気放送作家だ。本業の傍らミステリー小説を書いていたことは明らかにされておらず、大賞受賞のニュースは大きな話題となった。テレビプロデューサーの佐久間宣行さんもオールナイトニッポンのなかで大々的に紹介したほどだ。

 本記事では、小西マサテルさんと佐久間宣行さんの対談をお届けする。大のミステリー好きである2人が『名探偵のままでいて』のことはもちろん、ラジオやエンタメ全般について存分に語ってくれた。

(取材・文=金沢俊吾 撮影=干川修)

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オールナイトニッポンの放送作家とパーソナリティ

――お二人は本日が初対面とのことですが、佐久間さんは学生時代からオールナイトニッポンのリスナーで、小西さんのことはご存じだったわけですよね。

佐久間:もちろんです。もうずっと小西さんが放送作家を務めるラジオを聴いてきました。

――放送作家としての小西さんには、どんなイメージを持たれていますか?

佐久間:オールナイトニッポンを聴いていればわかると思うんですが、ナインティナインさんって、ちょっとめんどくさそうじゃないですか(笑)。

小西:ははは(笑)。まあ岡村くん、目を合わしてくれるまでに1年かかりましたね。

佐久間:そんな相手と信頼関係を築けて、二十数年も番組が続いているのはすごいなと思います。ラジオって、出演者とスタッフの信頼関係がないと上手くいかない仕事なので、もう尊敬ですよね。

――小西さんは、佐久間さんというラジオパーソナリティの登場をどのように見ていましたか?

小西:いや、衝撃でしたね。僕だけじゃなくて、業界にとって衝撃でしたから。

佐久間:衝撃ですか(笑)。

小西:佐久間さんみたいなしゃべりをする人って、他にあんまりいないんですよ。ラジオって、しゃべったことに対して反応してくれる笑い屋というか、リアクターがいないとなかなか難しくて。でも、佐久間さんにはリアクターが必須じゃないんです。自分がもう楽しそうに笑いながら、ずっとしゃべり続けられるので。

佐久間:確かに、自分で言ったことに自分で笑っちゃうんですよね。

小西:この話しかたって、パーソナリティとリスナーが1対1で向き合っているようで、いちばんリスナーに刺さるんですよ。これができる人は本当に少なくて、佐久間さんは「ザ・パーソナリティ」と言えるぐらいラジオが上手い人だと思っています。

小西マサテルさん、佐久間宣行さん

本気のなかに笑いがある

――この対談は『名探偵のままでいて』が「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したニュースを、佐久間さんがオールナイトニッポンで紹介したことがきっかけでした。

小西:もう、あんなに感激したことはないです。テレビ、ラジオのあらゆるなかで、最初に取り上げていただいて。ちなみに、ネットニュースにもなったときのタイトルが「佐久間P『“このミス”といえばね、大看板ですよ!』小西マサテルの大賞受賞を祝福」。いちばん喜んだのは『このミス』の宣伝にもなった宝島社さんじゃないでしょうか(笑)。

佐久間:いやいや(笑)。あれは台本に入れていたわけじゃなくて、放送前に作家の福田さんと「小西さんすごいよね!」と盛り上がって、その流れのまま番組冒頭で話したという感じでした。

小西:でも、あの放送を聴いていてちょっと怖くなったんです。まだ佐久間さんは読んでいないはずなのに、あらすじだけ見て語っていた予想が全部当たってるという(笑)。「この人、ゲラを読んでるんじゃないの?」と思いましたよ。

――実際に読まれて、いかがでしたか?

佐久間:僕はジェフリー・ディーヴァーの大ファンなんですが、あらすじで「『ボーン・コレクター』シリーズの現代版」みたいなものを楽しみにしてたんです。そうしたら、まさにそういった安楽椅子探偵の系譜にある作品で素晴らしかったです。他にも、ミステリー小説のオマージュがふんだんにちりばめられてるから、ミステリーファンのひとりとして、すごく読んでいて楽しいんですよ。

小西:それはうれしいなあ。

佐久間:あと、キャラクターを一発で好きになっちゃいましたね。キャラクターを一発で好きになるミステリー小説って、シリーズでずっと読みたくなるんですよ。楽しく読みすぎて、作者が小西さんだってことを忘れるぐらい没頭させていただきました。

――本作は主に会話劇で構成されています。この会話のそのテンポがすごくおもしろいのですが、小西さんがずっとラジオを作ってこられたおかげで生まれたものなのかなと思いました。

小西:会話劇をどこまで意識したかどうかはさておき、やっぱり醸成されたんでしょうね。もうナインティナインの掛け合いを長年やっているので、そうした影響は絶対にあると思います。

佐久間:ちょっと緊迫したシーンでも、会話にユーモアがあって笑えるじゃないですか。これは、小西さんが「笑い」のプロフェッショナルだからこそできたと思うんです。「お笑いってこんな感じでしょ?」とやっている人とは一味違うというか。

――その違いって、どんなところなんでしょうか?

佐久間:そういう人が作る作品って、キャラクター自体がふざけてるんです。でも、笑いを長くやっている人が描くキャラクターは、当人たちが本気で思ってるからこそ、その姿を見て笑いが生まれる構造になっているんですよね。小西さんの小説も、キャラクターが本当に思ってることのなかに笑いがあるんです。やっぱり、笑いのプロが作った小説だなって感じました。

佐久間宣行さん

ミステリーほど全部用意してくれるエンタメはない

――本作の主人公は大のミステリー好きですが、小西さんご自身の投影でもあるのでしょうか?

小西:もちろんです。創作って演出が入る以上は、必ず自分の主観が投影されますよね。だから「ミステリー好きのひとりっこ」というのは、もう自分のことだと思っています。

――小西さんは、いつ頃からミステリー小説を読み始めたんですか。

小西:小学校からずっと読んでますね。佐久間さんは、どのぐらいから読んでました?

佐久間:僕は児童文学の『マガーク少年探偵団』を6歳ぐらいで読んだのが最初ですね。

小西:うわ、懐かしい。

佐久間:そこからアガサ・クリスティとか本格ミステリーに流れていって。

小西:僕も中学・高校の頃にクリスティやエラリー・クイーンの作品が大好きでした。読んでいると、作者が名探偵に思えてくるんですよね。クリスティなんてもうミス・マープルにしか見えなくて。ミステリー作家や名探偵は、ずっと僕にとってのヒーローなんです。

――様々なエンタメに通じているお二人の原点にミステリー小説があるのがとても興味深いと思ったのですが、ミステリーの魅力ってどんなところにあると思いますか?

佐久間:作者に酔っ払わしてもらうというか、ミステリーほど全部用意してくれるエンタメってあんまりないと思うんです。謎を解く快感があって、感動やホラーといった作者が持っている引き出しを存分に掛け合わせて、読者を酔わせてくる。ミステリーを読むことで、極上の時間を過ごさせてもらえるんです。

小西:まさに極上の時間なんですよね。暖炉の前でコーヒーでも飲みながら、ゆっくり読むのがいちばん合うというか。

――お二人が普段やられているラジオやバラエティのお仕事と、ミステリーには共通する何かがあるのでしょうか?

佐久間:あると思います。一級のクリエイティブには、構成と裏切り、あとは伏線を伏線と思わせない振りの上手さがあるんですよ。それはミステリー、SF、コントなど全てに通ずるものだと思っています。

――コントといえば、佐久間さんがプロデュースされているDMM TVの『インシデンツ』と『名探偵のままでいて』には、短編が連なるなかでひとつのおおきなストーリーが動いている点が共通していると思いました。

佐久間:確かにそうですね。僕は『まどか☆マギカ』『進撃の巨人』とか、最初に思っていたものと、後半見ていくものが違うものが好きなんですよ。そういったものが好きな原点は何かというと、昔読んでいたミステリーなんです。ミステリーが「裏切られる快感」を教えてくれたっていうか。『名探偵のままでいて』も短編連作で、最後におおきく裏切っていくというのは、ミステリーの醍醐味ですごく好きなパターンでした。

小西:僕も佐久間さんと同じで、小学生の頃に読んだミステリーが原点になっています。僕は学生時代に落語をやって、その後お笑い芸人になったんですけど、落語も漫才もやっぱり構造はミステリーなんです。振りと裏切りとオチがある。ラジオだって、2時間のなかでまず振りがあって、中盤は別の方向へ目を向けさせて、最後はメールやトークで上手く着地を決める。これってミステリーだなと思いますね。

小西マサテルさん

おっさんでも新しいおもちゃを見つけられる

――小西さんは放送作家の仕事をしながら本作を書かれました。佐久間さんもテレビディレクターという本職がありつつラジオパーソナリティをやられていますが、忙しいなかで多ジャンルに挑戦するモチベーションはどのように生まれるのでしょうか?

小西:やっぱり楽しいからですね。仕事だと思って書いていないので。

佐久間:まあ、小西さんの小説を読めばわかるんですけど、この作者、ミステリーめちゃくちゃ好きじゃないですか(笑)。だから、根っこにあるのはそれだと思うんですよね。僕もラジオが大好きだったから、ラジオパーソナリティのチャンス頂いたとき、とにかく全力で楽しんでやろうと思えたので。

小西:おっさんが言うと気持ち悪いですが、新しいおもちゃを見つけたような気分なんです。「生きがい」っていえるぐらい、書いている時間が楽しいんです。

――気持ち悪くないです。素晴らしいと思います。

小西:純粋に楽しいんですよね。佐久間さんがラジオをやられるのも、楽しみとかを超えて生きがいになりつつあるのかもしれないですね。

佐久間:ああ、そうかもしれないです。「今日このあとラジオだ」と思うだけで、うれしくなりますからね。

――こうした活動が本業に与える相乗効果みたいなものもあるのでしょうか?

小西:僕は初心を思い出させてもらいました。ずっと放送業界にいたのが出版業界にやってきて、改めてご挨拶や名刺交換からスタートすると、放送作家を始めた頃を思い出しますよね。

佐久間:小西さんがおっしゃるとおり、新しいものに挑戦してるとずっと謙虚でいられると思うんです。僕はパーソナリティをやるようになってから、さらに芸人に対するリスペクトが増しました。新しい場所や慣れてない場所に自分の身を置くってことは大事なんだなって思います。まあ大変ですけどね!

小西マサテルさん、佐久間宣行さん

脚本・小西マサテル、主演・佐久間宣行でミステリーを

――最後に、もしお二人で一緒に仕事をするとしたら、どんなものが作ってみたいか教えてください。

小西:佐久間さん主演で、世界に佐久間さんひとりだけしか存在しない話を作りたいですね。『アイ・アム・レジェンド』みたいな。誰もいないビルの最上階でゴルフの打ちっ放しをやってみたりして、かっこいい中年の哀歓が出ると思うんですよね。

佐久間:ええ、主演っていうのはちょっと(笑)。

――いいですね(笑)。佐久間さんはいかがですか?

佐久間:小西さんには、ラジオを舞台にミステリーを書いてほしいですね。それが音声や映像になるときに携わりたいなって思います。

小西:おもしろい。ニッポン放送は各フロアに密室がありますから、ミステリーの舞台としてうってつけですね。

佐久間:そうなんですよ。ラジオブースって完全な密室ですもん。

――お話を聞いていて、どちらも実現できそうな気がしてきました。

小西:できるかもですね(笑)。

佐久間:主演・佐久間はどうだろう(笑)。

――もし実現する機会があったら、またお話を聞かせてください。

小西:ぜひ!

佐久間:今日はありがとうございました。お会いできてうれしかったです。

小西マサテルさん、佐久間宣行さん

プロフィール

小西マサテル
1965年生まれ。香川県高松市出身。お笑い芸人として活動した後、放送作家に転身。担当ラジオ番組は『ナインティナインのオールナイトニッポン』『徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー』『明石家さんま オールニッポン お願い!リクエスト』など。ミステリー作家として『名探偵のままでいて』が第21回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。

佐久間宣行
1975年11月23日生まれ。福島県いわき市出身。1999年、テレビ東京に入社し『ゴッドタン』『あちこちオードリー』などのプロデューサーを務める。2019年から『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』がスタート。2021年にテレビ東京を退社し、現在はフリーで活動中。

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