夫の子育てレベルを上げるコツは「任せたことには手を出さない」――主婦のモヤモヤを描くエッセイマンガ家・白目みさえさんインタビュー

マンガ

更新日:2023/3/21

 ダ・ヴィンチWebで連載中の育児あるある漫画『子育てしたら白目になりました』が書籍化。義母にまつわる新エピソードが描き下ろされ、またもや世の親御さんたちの共感を呼びそうな内容に仕上がっている。

 親の気持ちも知らずに“ダメ親”呼ばわりする人たち、お笑いのボケなのかな?と思えるくらいピュアすぎて戦力にならない夫など、子育てはモヤモヤの嵐。それが巻き起こった時、白目さんは“白目”をむく——。しかし本書は、それだけでは終わらない。実生活では臨床心理士という職業である作者が、心のモヤモヤの正体を掴み、「それはちがーう!」「どうすんねん!」と関西弁のツッコミで世の不条理をズバッと斬っていくのだ。

 この記事では作者・白目みさえさんへのインタビューが実現。本書の制作秘話や、作者自身が実践するモヤモヤ解消法などについて聞いた。

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(取材・文=吉田あき)

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虚無感やら怒りやら…をぐっと飲み込んだ結果、“白目”になる

──毎日予測できないことが多すぎて「何も予定通り進まへん」と、つい白目をむいてしまう。そんな子育ての大変さが本作には描かれています。子育てで初めて白目をむいたのはどんな場面でしたか?

 

白目みさえさん(以下、白目):まだ生後間もない我が子が何かをやらかした時だったと思います。「やっと乾いたシーツを敷いた瞬間にオムツからおしっこが漏れた」とか、「必死に沐浴をして授乳してゲップをさせたら全部リバースされた」とか。

自分の努力をすべて無にされるようなやるせない出来事が連発するにもかかわらず、その原因である目の前の対象に怒ってもどうしようもないことはわかっているので、虚無感やら怒りやらイライラやら脱力感やらをぐっと飲み込んだ結果、“白目”になったように感じました。

子育てしたら白目になりました

──本業は臨床心理士・公認心理師として精神科に勤務されていますが、漫画を描き始めることになったきっかけは?

白目:漫画は大好きで、小学生の頃に「漫画家になりたい」という思いを秘めていたこともありましたが、絵がうまい人が周りにたくさんいて、“自分には無理”と諦めていました。

Instagramに「白目カルタ」という育児で白目になった瞬間を投稿し始めたのがきっかけです。同僚が私の落書きを見て「面白いから投稿してみては?」と言ってくれたので始めました。最初は時間がなく、慣れないデジタル絵だったので一枚絵のカルタのみでしたが、次第に日常のちょっとした事件などを描くようになりました。

──各エピソードにあるコラム「心理師みさえのお悩み相談室」では、子育ての悩みをズバッと解決してくれます。お仕事でも子育ての悩みを相談されることは多いのですか?

白目:勤めているのが精神科の病院なので、普段診察するのは、うつ病やパニック障害などの精神疾患のある方や、発達障害で困っていらっしゃる患者さんがメインです。その方が結婚されてる、お子さんがいらっしゃる場合、カウンセリングの中で子育ての問題や夫婦間の問題がよくあがります。

愚痴りたい時は「わかるわー」と言ってくれそうな人に焦点を絞る

──「ひどい母親だって思われてる?」のエピソードは、子どもと約束したからお菓子を買わないだけなのに、周りから「お菓子くらい買ってあげればいいのに」と言われてしまう…という、親にしてみれば“もらい事故”のようなお話。でも、そんな不条理なことが日常的に起こるのがまさに“子育てあるある”で、モヤモヤする気持ちに共感しました。白目さんは、こういう時のモヤモヤにどうやって折り合いをつけていますか?

子育てしたら白目になりました

白目:基本的には“わかってくれる人”に愚痴ります。勘違いされたり誤解されたりすると「違うの!」「わかって!」と言いたくなり、その方の考えを訂正したくなるのですが、“わかってない人”に“わからせる”って、ものすごく労力がかかる割に、あまり実りがなく成功する確率も低いので…。はじめから「うわーわかるわー」と言ってくれそうな人に話すと、共感してもらえれば気持ちが楽になるし、そのあとは“どうにかしてネタにできないか?”と考えてしまいます。

──もし「わかるわー」と言ってくれる人がいない場合はどうしたらいいでしょう?

白目:子どもが赤ちゃんだった頃の動画などを見返して、成長を振り返ると、“自分はよくやってきた”と実感できるはずです。保育園の連絡帳や当時の日記などにも、“ちゃんとやってきた軌跡”がたくさん残っていますよね。「ひどい母親だ」と言ってくる人が見ているのは、その一瞬の場面だけ。でも、あなたとお子さんとの間には、長い年月と時間をかけて育んできたものがあるはずです。

──これまで育んできた親子関係のほうに目を向けるわけですね。ちなみに、白目さんは「わかるわー」と言えるような人をどうやって見つけていますか? たとえば、ママ友とか…。

白目:私は、いわゆる“ママ友”には自分の職業すら明かしていないレベルで、愚痴を言い合えるようなママ友は本当にいないので、偉そうなことは言えないのですが…。以前、子ども同士で遊ぶ約束をしてきたものの連絡が取れず、公園で2時間待ちぼうけした経験があったので、最初から“浅く広く”と思いながら、連絡先くらいは交換しておくと良いかもしれません。

──最初は“浅く広く”で様子をうかがい、あとから、わかってくれそうな人を見定めていくのも良さそうですね。

白目:「わかるわー」と言ってくれそうな人を見定めるとしたら、“共感してくれなそうな人を避ける”イメージです。マウントを取りたがる人、お説教大好きな人を避け、それ以外の方とはわりと共感しあえることが多いので、まずは“合わない人”を排除し、“より合う人”に絞っていくのが近道ではないでしょうか。

“特定のタスクを任せる”で子育てのレベルが上がった夫

──「戦力外な夫に白目むいてます」では、「私がトイレ行く間、子どもを見てて」という一言に込められた意味を全部説明しないと伝わらない…といった夫に対する不安や不満が描かれています。たしかに世間では、妊娠期を子どもと共に過ごした母親と比べ、「夫は育児に関して新人社員」と思われる節がありますよね。そうではない!ということを、旦那さんへのツッコミを通じて面白おかしく主張されているエピソードを読み、心からスッキリしました。

子育てしたら白目になりました

白目:ありがとうございます。コラムでもお伝えしましたが、「夫は新入社員」という言葉を初めて聞いた時、私はまず「妻もでは?」と思いました。妻は十月十日早く母親になるなんていいますが、妊娠中にオムツ替えや夜泣きは経験していないので…。出産後の“大変なこと”は夫も妻も同時スタート。妻も誰かから教えてもらったわけでなく、自分で調べて勉強して試行錯誤を繰り返してきたことを考えると、なぜ同時入社の妻が同期の夫を教育せねばならないのか、と心底疑問です。

──だからこそ「夫婦がお互いに試行錯誤しながら『自分がやらなきゃ』という気持ちで臨むほうが自然」という考え方になったのですね。そうはいっても、なかなか夫に育児を任せられない人は多いと思います。白目さんがうまくいった方法はありますか?

白目:我が家では、特定のタスクを夫に任せ、そのタスクには一切手を出さないという方式を取りました。たとえば朝ご飯は、子どもが市販のものをひとりで食べられるようになった頃に、「パンと乳製品と果物があればそれでいい」と伝えて任せました。最初こそ忠実に、私が買ったものを出すだけでしたが、今では子どものリクエストに応じる、自分なりにスープを加える工夫をするなど、アレンジしているようです。子どもがよく食べるものを自分で買ってくることもあります。

──口うるさく言いたくなる気持ちをぐっと抑え、完全に任せると。たしかに、夫の子育てレベルが上がり、うまく役割分担ができそうです

白目:正直なところ、子どもがもっと小さかった頃は、離乳食のアレルギーを警戒したり、サイズに気をつけたり。注意事項が多すぎて自分で把握するのが精一杯でした。あの頃、夫にも教えろと言われたら発狂していたかも。子どもが“ちょっとやそっとじゃ死なない年齢”になって、やっと教えられる余裕が出てきたのだと思います。

──本書には旦那さんへのツッコミがいっぱいですが、旦那さんが本作をご覧になるようなことは…?

白目:夫はどの投稿も

書籍もすべて見ています。そしてゲラゲラ笑って終わります。まったく響きません。それを見て「響かんのかい」とまた白目をむきました。脱力感でいっぱいです(笑)。

──この本を世のお父さんたちにも読んでほしい、という想いがあったりは…?

白目:どう読んでも夫が楽しめる内容ではありませんし、これを読んで「妻の気持ちがわかりました。ありがとうございます」とDMをくださる男性は菩薩か何かだと思っています。どちらかというと、子育て中の方、夫に不満を抱えている妻が読んで「そうそうそうなのよ!」と思えることで、少しでもスッキリしていただき、夫の丸まった靴下を見た時のため息の量が少しでも減れば、それで十分だと思っています。心の白目は誰かに共感してもらえることで黒目になるのではないかと…。

義母は“ちょっと年配の近所のおばさん”くらいに接したらうまくいった

──本作は、ダ・ヴィンチWebで連載されていたエピソードに加えて、妹さんのお義母さまにまつわる書き下ろしが掲載されています。嫁姑問題を描くのは初めてということですが、今回入れようと思われた理由は?

白目:子育て世代の悩みと言えば「嫁姑!」みたいなイメージがあると思うのですが、仕事でもしばしば、義両親にまつわることが話題にのぼります。特にお子さんが発達障害などで通院されている場合、発達障害について理解してくださらない義両親に対する想いなどをよく伺います。

私の場合、実家の祖母が、世の中のイヤな姑を煮詰めて濃くしたような人でしたので、見慣れているというか、特に夫の母に対して大きな不満はありませんでした。妹も同じ祖母を見て育ったので同じかと思ったら、祖母とはまた違うタイプの義母に苦戦していたので、いつか漫画に描きたいと思っていました。それが叶って嬉しく思います。

──妹さんのお義母さまは空気が読めず、家事の手伝いや孫の面倒など、自身の良心にまかせて頼んでもいないことをやってくる…というタイプでしたね。白目さんは、お義母さんに何も言えなくて悩む妹さんに「あなたはもともと遠慮のないタイプなんだから、お義母さんにも気を使いすぎず、いつものままでいればいいのよ」といったアドバイスをされていました。その後、妹さんのお義母さんに対するストレスは軽減されたのでしょうか。

子育てしたら白目になりました

白目:お義母さまは遠方に住んでいるので関わる機会は少ないのですが、たまに帰省した時には、妹らしく希望や要望を遠慮なく伝えているみたいです。妹はもともとコミュ力お化けなので、“ちょっと年配の近所のおばさん”くらいに思いながら接するとうまくいったとか。こちらの言い分がまったく伝わらないこともあるようですが、イライラする回数は少なくなったそうです。

──ちなみに、妹さんのお義母さまが本作をご覧になることはありますか?

白目:この書籍は見られていないはずですが…おそらくどこかで手に取られたとしても、ご自分のことだとは思われないのではないかと思います。

「まだやってるよ」と言われるような長期連載を目指したい

──仕事と子育てを両立させながら漫画を描き続けるのは大変なことだと思います。どのようにしてモチベーションを保っているのですか

白目:漫画を続けられているのは、“迫り来る締め切り”と“私を待ってくださっているみなさん”のおかげ。応援してくださる方がいなければ、私だけの力では続けられません。生活のすべてがつながっている漫画でもあるので、どんなストレスや出来事も、“漫画のネタになる”と思えばわりと乗り切れます。

──子育て中、自分の時間が取れなくてモヤモヤしがちな人に、おすすめのリフレッシュ方法はありますか?

白目:“動の楽しみ”と“静の楽しみ”を両方持っておくのが良いと思います。日々の楽しみというと、どうしても“動の楽しみ”がクローズアップされがちですが、私の場合、友達と遊んだり旅行に行ったりする“動の楽しみ”は、とても元気になるのと同時に疲れてしまうことがあり…。

そんな時は「シリコンにただただ色を混ぜる動画」や「パンダが笹を食べるだけの動画」を延々見るなど、“静の楽しみ”を取り入れます。ただボーッとしたり、リラクゼーションをしたりすることも、これに当たるのではないかと。どちらも持っておくと、自分の状態に合わせて選べるのでおすすめです。

──ダラダラするようなことも時には必要なんですね。これからは堂々とダラダラできそうです。では最後に、これから漫画で挑戦していきたいことを教えてください。

白目:これまでは“どこの家でもありそうなこと”という視点で描いてきましたが、子どもが大きくなったら悩み事や出来事をそのまま描くわけにはいかないなと。なので、中学生なら中学生ならではの空気感など、その時々の“あるある”を表現できたらと思います。挑戦ということでいえば、「こいつまだやってるよ」と言ってもらえるような長期連載を目指したい。これまでの流れも大事にしつつ、新しい視点や展開を取り入れて、たくさんの“白目”を表現し続けていきたいです。

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