小栗旬「この作品を演じたあとは、しばらくの間、燃えつき症候群になってました」

あの人と本の話 and more

更新日:2013/12/19

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、ゲキ×シネ『髑髏城の七人』が間もなく公開される小栗旬さん。おすすめの1冊であると同時に、かつて自身も舞台で主役を演じた『カリギュラ』について、その当時の様子を語っていただいた。

  『カリギュラ』を最初に読んだ時の衝撃は今でも忘れない、と話す小栗さん。「最初はとにかく理解するのに精一杯だった」そうだが、その不安も実際に稽古に入り、役を演じることで、少しずつ突破口が見えてきたという。

「文字を追うだけでは分からなかった部分も、
体を動かし、セリフを発することで
理解できるようになっていったんです。
彼の中にある悲しみややりきれなさが伝わってきて、
少しずつ共感できる幅が増えていきました」

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 やがて稽古を重ねるうちに、「本当に自分がカリギュラなんじゃないかと思える瞬間を味わえた」と、小栗さん。

「なんだか、無敵になったような
気持ちになれたんですよね(笑)。
それは役者として、とても嬉しい瞬間でした。
“役になりきる”というのは
役者にとって当然理想とするところ。
いつもそうなりたいと願っているわけですけど、
やっぱり入り込める時と、うまくできない時があって。
そうすると違った形で役に近づいていこうとするんですね。
でもこの舞台の時は、ずっとカリギュラでいられた。
何がきても負けないという気持ちでいられたんです。
本当に役者として
いい経験をさせてもらったなと思いますね」

 当時、24歳。演出家・蜷川幸雄のもとで、当時の彼が持つものをすべて出し切った。その充実感から、「この舞台が終った後はしばらくの間、燃えつき症候群みたいになってしまった」そうだ。

「でも当時のことを振り返ると、
エネルギーだけで突っ走った感じがするんです。
だから、もし機会があれば、もう一度演じてみたいですね。
今ならまた違ったアプローチで役に挑めそうですし、
正義と悪についても、
より深い解釈ができるんじゃないかと思うんです。
今でもずっと頭の片隅にあって、常に意識させられる。
僕にとって『カリギュラ』はそんな存在の作品なんです」

(取材・文=倉田モトキ 撮影=山口宏之)
 

小栗 旬

おぐり・しゅん●1982年東京都生まれ。ドラマ、舞台、映画、声優と幅広く活動する傍ら10年には映画『シュアリー・サムデイ』で監督デビューするなどマルチに活躍。2008年に第45回ゴールデン・アロー賞を受賞。近年の代表作に舞台『ムサシ』、映画『宇宙兄弟』など。
ヘアメイク/須田理恵(NU YARD) スタイリスト/臼井 崇 衣装協力=カーディガン3万450円(URU/7 TEL03-3463-6388)

 

紙『カリギュラ』

アルベール・カミュ/著 岩切正一郎/訳 ハヤカワ演劇文庫 735円

『異邦人』で知られるカミュが残した不条理劇。ローマ帝国の第3皇帝カリギュラは最愛の妹の死後、数日間姿を消す。再び宮廷に戻ってきた彼は、自身の運命に抗うため、権力を片手に貴族や国民の生活を脅かす暴君と化していた。狂人と常人の境を詩的な言葉で綴り、今なお世界中で上演されている傑作。

※小栗旬さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

ゲキ┼シネ『髑髏城の七人』

作/中島かずき 演出/いのうえひでのり 出演/小栗 旬、森山未來、早乙女太一、他 配給/ヴィレッヂ、ティ・ジョイ、プレシディオ 全国ロードショー公開中 
●かつて織田信長に仕えていた捨之介と天魔王と蘭兵衛は関東の荒野で運命的な再会を果たす。天下統一を企む天魔王は蘭兵衛を仲間に引きずり込もうとするが、それを阻むため、捨之介はたった7人で2万の兵がいる天魔王に立ち向かっていく。
(c) ヴィレッヂ/劇団☆新感線