本がないと、生きていけない。そんな監督があなたに伝える、人と世界を変える物語=MEME
更新日:2013/12/4
「本がなくては、生きていけない」と話す小島秀夫監督。世界で3280万本を超える大ヒットゲーム『メタルギア』シリーズを創り続ける監督が、これまで書き綴ってきた本と映画にまつわるエッセイ『僕が愛したMEMEたち』(メディアファクトリー刊)を2月28日に出版! その監督に人と世界を変える物語=MEMEについて話を聞いた。
2010年から本誌に連載された小島秀夫監督の『僕が愛したMEMEたち』。本を愛する本誌読者はもちろん、出版社の文芸編集者や書店員などプロが注目する連載だった。
『メタルギア』シリーズが世界で3280万本(※2012年9月末時点)を超す勢いで大ヒットし、25年間、世界的ゲームデザイナーとして第一線で活躍し続ける監督。驚異的な本好き・映画好きでも知られる。膨大な知識と経験に基づく鋭い批評やエッセイに、本の目利きたちが信頼を寄せている。
今回、本誌連載とこれまでの書評・映画エッセイをまとめた単行本『僕が愛したMEMEたち』が出版。そこで、監督に本にまつわる話と創作の原点を聞いた。
毎日必ず、本屋に通う誰かに本のことを語る
——監督の読む本はものすごい数。どうやって探すのですか?
小島 僕は毎日、本屋に行くんです。どんなに忙しくても、毎日、数軒の本屋を回って、一冊は買いますね。
——なぜ、そんなに本が好きなのですか?
小島 よく聞かれる質問ですが答えに困ってしまうんです。人が生きていくには「衣食住」が必要と言われますが、僕の場合は「衣食住+本(物語)」。目の前に本とそこに描かれた「物語」がないと生きていけません。
——なぜ本を読むのでしょう?
小島 本の中の「物語」からエネルギーをもらうからです。「ひとりぼっちじゃない」と教えてくれたのが本でした。僕はしばしば孤独病に罹るのですが、本の中の知らない世界に自分と同じようなひとりぼっちがいるとわかった瞬間、ひとりぼっちじゃなくなる。そして、本を読めば宇宙へも、行ったことのない国へも行ける。まったく違う人物にもなれるし、動物と話すことだってできる。本の中にある無数の「物語」……僕はそれをMEME(ミーム)と呼んでいます。MEMEを受け取り、自分の中に取り込んできたからこれまで生き長らえてきたし、ゲーム創作を続けてこられました。
——『僕が愛したMEMEたち』は監督が読んできた本と様々なMEMEを伝えるエッセイです。先日は直木賞受賞よりいち早く、朝井リョウの『何者』についてツイートされていて驚きました。
小島 面白い本のMEMEをたくさんの人に伝えたいじゃないですか! 僕が受け取ったMEMEのバトンは世界のどこかにいる誰かに手渡したいんです。
——連載最終回に合わせて、先日、TSUTAYA BOOK STORE 東京ミッドタウン店では「小島監督が愛した本たち」フェアを開催。サイン会では300人以上が集まり、「愛する本、遺したい物語を伝えたい! 僕からあなたに手渡したい!」という監督の熱い思いが伝わっていました。
小島 ありがたいですね。フェアでは『僕が愛したMEMEたち』で紹介して、埋もれていた過去の名作がずいぶん売れたそうです。『ダ・ヴィンチ』読者の人は「これは面白そう!」とピンとくる。勘がいい。それを僕のエッセイがちょっと後押しできれば、うれしいですね。
——監督は本の名ガイドですね。ところで、タイトルにあるMEMEの意味を教えてください。
小島 一言では難しいですね。MEME(ミーム)とはGENE(遺伝子)にはコピーされない様々なもののことでしょうか。進化生物学者リチャード・ドーキンスの造語で、文化の伝達や模倣する単位を指し示す概念です。あらゆる事象には物語があり、世界はそんなささやかな物語、MEMEの集合体。遺伝子とMEMEの両方を伝えることで人も社会も進化する。僕はそう考えています。だから『メタルギア ソリッド2』ではMEMEを最大のテーマにしました。『メタルギア』シリーズは僕が受け取ってきたMEMEのバトンの塊みたいなもんです。
——監督の創作活動の大きなテーマがMEMEなんですね。監督はどんな本からMEMEのバトンを受け取ってきたのですか?
小島 それは、この単行本、『僕が愛したMEMEたち』を読んでください(笑)。ダ・ヴィンチに連載した原稿のほか、万城目学さんらとの対談、他誌に掲載したエッセイも所収し、僕を形づくってきた本や映画、音楽を数多く紹介しています。紹介する本のMEMEを僕がどう受け取ったかを、この本の構成や文体に潜ませてありますので、それを見つけるのも面白いと思いますよ。
——J・P・ホーガンの『星を継ぐもの』、安部公房の『砂の女』、ポール・ギャリコの『ジェニィ』、コミックでは吉田秋生の『海街diary』と古今東西、幅広いジャンルの作品を紹介されています。「面白い作品が見つからない」と困っている人への優れた本ガイドですね。
小島 僕が言うのも何ですが、目利きがセレクトした本にはずれなし。そういう本は買って損はないです。僕自身、毎日の本屋巡りでは書店員さんの手書きPOPや本のオビを参考にして本を選んでいますし、あらすじやあとがき、解説を読んで買う本を吟味します。ネタバレの箇所を立ち読みして、「しまった!」と後悔することもある(笑)。
——監督には本についての独自のルールがあるとか?
小島 ひまつぶしのために本を読んではいません。だから、自分の目で選ぶ。本は借りずに、自分で選んで、買って読む。薦められた本も本屋に出向いて、自分の目で確かめて買います。本屋に出かけ、店内をうろついて本を探して買い、その本を読み、読了して余韻を味わう。本を読んでいる時間だけでなく、その前後を含めた時間が僕にとっての「物語」です。
——そこまで本を楽しんでいるとは! 本にまつわる記憶のすべてが監督にとっての物語なのでしょうか?
小島 そうなんです。買ったときのレシートは必ずその本に挟んでおきます。レシートにある日付や書店名を見ると、読み終えてしばらくした後でも、そのときの情景や気持ちをはっきりと思い出せますから。その記憶がとても愛おしくて、面白くなかった本でも最後まで読むし、読んだ本は捨てません。本を貸すときは「レシートは絶対に捨てないで」と念を押します。レシートにそんな意味があるとは思いもしないようで、時々、捨てられちゃって……。「こいつには二度と貸さん!」と一人で憤ることも(笑)。