ゲームも小説も、MEMEは未来へと伝えるバトン

新刊著者インタビュー

更新日:2013/2/28

25年間、小島監督が創り続け、世界中で大ヒットしている『メタルギア』シリーズ。そして、『メタルギア ソリッド3 スネークイーター』が『BEATLESS』の著者、長谷敏司さんに手によるノベライズが今夏に出版されることが決まった。今、監督から若手本格SF作家長谷さんに手渡される『メタルギア』のMEMEのバトンとは!?

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長谷敏司(写真左) はせ・さとし●1974年生まれ。2001年『戦略拠点32098 楽園』にて第6回スニーカー大賞金賞受賞。同レーベルで「円環少女」シリーズ(角川書店)を刊行。『あなたのための物語』(早川書房)が第30回日本SF大賞と第41回星雲賞日本長編部門に、『allo,toi,toi』が第42回星雲賞日本短編部門にそれぞれノミネート。

小島秀夫 こじま・ひでお●1963年、東京生まれ。(株)コナミデジタルエンタテインメント 執行役員(EVP)、小島プロダクション 監督。ゲームデザイナー。全世界で累計販売本数3280万本を超える『メタルギア』シリーズ監督。無類の本好き、映画好き。早川書房では「小島秀夫を創ったハヤカワ文庫フェア」を開催。その選択眼と鋭い批評に多くのプロたちが信頼を寄せる。
 

小島 長谷さんに『メタルギア ソリッド 3 スネークイーター』(以下『MGS3』)をノベライズしていただきます。どんな「ハセライズ」作品になるか楽しみです。発売はこの夏ですか?

長谷 MGS3をノベライズでき、本当に光栄です。夏刊行に向けて、全力で準備しているところです。『MGS3』『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』(以下『PW』)を最後までやったのですが、「この壮大かつ緻密な物語を、果たして僕がノベライズできるのか」と呆然としています。

小島 ゲームと小説はまったく異なる表現形態ですから、そこは好きなように書いてください。長谷さんは『BEATLESS』や『あなたのための物語』と緻密な独自の世界観で小説を書く注目の若手作家。そういう長谷さんに、『メタルギア』シリーズと僕のMEMEのバトンを渡せるのがうれしい。僕からのバトンを受け取ってくださいますよね!?

長谷 はい! 受け取らせていただきます!……と宣言しましたが、ノベライズに着手してずっと考え続けて、未だに手探り状態です。自分でプレイしてみて、それぞれのミッションやシーン、キャラクターに深い考えに基づいた設定が膨大かつ緻密にされているとわかりました。しかし、小説ですべてを描いたらすごい枚数の小説になり、面白くなくなる。小説家の僕が果たすべき役割が何なのかを模索しています。

小島 ますますノベライズが楽しみになってきました。

長谷 えっ!?

小島 ゲーム『MGS3』は僕が創ったフィクションのお話と米ソ冷戦時代の歴史的な事実を織り交ぜた作品です。精緻に構成はしてありますが、あえて実際の出来事やその背景を細かく説明せずに、荒唐無稽なことが起こる。そのあたりを、これまでAIと人の繋がりを深く掘り下げ、確固とした世界観を持つSF作品を書いてきた長谷さんが、どう表現するか楽しみですね。

長谷 『MGS3』と『PW』をやってみて、本当に恐るべき物語だと思いました。ゲーム内では語られていないし、想像するしかないのですが、スネークたちは犯してはいけないことに荷担してしまった可能性すら余白として考えられる。監督はタブーを恐れずにすごいところにまで突っ込んで、作品づくりをされている。僕はそういう明らかにしてはいけないタブーを取り上げずに小説を書いてきたのかもしれません。

小島 自分が正義だと思っていることも、別の角度から見ると悪になる。プレイステーションで発売した『メタルギア ソリッド』では自分の国を守るために核を保有しようとするストーリーです。そこには彼らなりの理由があるが、別の国にすれば彼らが核を持つのは悪になる。『メタルギア』シリーズのテーマはずっと反戦反核で、ゲームをしているユーザーの中にはわかる人もいるし、気づかない人もいます。ゲームの「物語」を完成させるのはユーザーに委ねられているので、どんな選択をしてもいい。だけど、選択をしてコントローラーのボタンを押しているのは、あなた自身ですよ、と。あまり言うと説教臭くなるんで、このくらいでやめときます(笑)。

長谷 語られず、映像としても出てこない、その背景を僕のように想像する人もいる。その語られていないところ、物語の空白を描くのが、僕が書く小説なのかもしれませんね。

小島 そのとおりです。『メタルギア』シリーズはこのゲームで遊んでくれる人、つまりユーザーが同じでもアングルによって見え方、感じ方が変わる作品です。同じ「物語」でも、人によって、あるいは時代によって、見え方も評価も変わります。

長谷 確かに。どんな表現や文体でノベライズするか、そういうテクニック的なことに囚われていたのかもしれません。小説はダイアローグ(会話)で進行していき、『MGS3』で会話といったらほぼ通信のみ。ほとんどが主人公であるスネークのモノローグで構成されていて、読者はスネークと同じ体験をしていく。絶対にこの感覚は小説では表現できないなぁ、と。

小島 ゲームの持つ特有の表現スタイルをあまり気にせず、長谷さんの「語り口」で『MGS3』を書いてください。それが読者に僕らのMEMEが一番伝わるやり方だと思います。
 

紙『BEATLESS』

長谷敏司 角川書店 1890円

外見からは人間と区別がつかないhIEと呼ばれる人型ロボットに労働を任せた100年後の近未来。だが超高度AIにより、人類を凌駕する「人類未到産物」が生まれ始めた……。人とロボットの今だからこそのボーイ・ミーツ・ガールであり、人間の存在価値の根幹に迫るハードSF。