特集「天才作家たちが10代の魂を描く理由」番外編 2003年5月号

インタビューロングバージョン

更新日:2013/8/19


ゲームに救われてる人もいっぱいいるんだよね

米光 ねえ、泣いた?
麻野 なんでそんな蓮っ葉な聞き方するんやろう(笑)。
米光 だってめちゃめちゃ泣いたんだよー。まず、1部の後半、お母さんが女を殴ってて、ワタルが「ロマンシングストーン・サーガ2」の攻撃呪文を唱えるところ。

麻野 はいはいはいはい。
米光 ベッドの下に潜って、両手で耳を塞いで呪文を唱えるっていうのが、もうね。あとはもう、下巻入ってからは泣きっぱなしだった。現実社会に戻って来たワタルが宮原くんに会うところとか。オレは宮原くん萌え(笑)。
飯田 わかるわかる、宮原くんも辛いんだよね。
米光 辛いんだよね! 冒険に行く前のワタルは気付いていないんだけど。
飯田 宮部みゆきさんは、思春期の少年でもないのに、われわれの気持ちがなんでわかるんだろう! ひとりひとりみんなに“幻界”があるんだよね。登場人物全員の幻界が見たい、読みたい。じぶんのも見たい。オレのキ・キーマは誰なんだろう、誰を憎むんだろう?

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米光 飯田さんは誰を殺すのかな、とかね。
麻野 オレも読んでる間、毎日ジーンとしっぱなしやった。RPGの主人公の冒険の動機って、世界を救うとかだけど、これは両親の離婚を阻止することだっていう。そこが現実的で面白い。
飯田 パーソナルな問題なんだよね。そして、ワタルの取った選択……ぐっときました。ラストあたり、波状攻撃でたまらなかった、泣ける泣ける。それに、ゲーム讃歌だし。オレたちゲームでよかったよ。
米光 ゲーム業界人に会うたび勧めてるもん。でも、なかなか通じない。どんな話とか説明するんだけど、「ノベライズ?」っていわれて、違うんだよっていうんだけど。
麻野 筋を説明しても、ピンとこないやろな。

飯田 ゲーム文学みたいなジャンルがあるとしたら、いとうせいこうの『ノーライフキング』かこれか。
米光 これまでってゲームがアイテムだったんだよね。現象のひとつだった。古川日出男の『アラビアの夜の種族』もゲームっぽさを出そうとしてるわけじゃないし。
飯田 そうそう、メディア論だった。
米光 『ノーライフキング』でさえ『ブレイブ・ストーリー』にくらべたら、メディア論として扱われている。
飯田 ゲーム脳の人は読むべきです。『ゲーム脳の恐怖』の森昭雄先生にも読んで欲しい!

米光 “ゲーム脳”がもし事実だとしても、ゲームに救われてる人もいっぱいいるんだよね。ゲームの中の暴力的なシーンを見て悪い影響をうけた人もいるのかもしれないけど、その逆だってたくさんある、もっとたくさんあるんだよ。

今までのゲームってこの第一部が描けてないんだよね

麻野 ホントにロープレそのもの。ものすごくゲームっぽい。
米光 剣の宝玉を取るところとか、頭の中で『ゼルダの伝説』のアイテムゲット音鳴ってた。
麻野 ダラララー♪

飯田 システィーナ聖堂の仕掛けを解くところもゼルダっぽかったな。
麻野 魔法剣でダイモン司教の衝撃波を打ち返すところでは、アナログスティックとZトリガー使いまくって(笑)。
米光 読んでる間中、『ドラクエ』のフィールド曲や『FF』の戦闘曲が鳴ってて。
飯田 エピソードの書き分けもゲームっぽいよね。フラグが立つ。
麻野 ジョゾのウロコを笛にするのに工芸師のファンロンに頼みに行くとこなんか、たぶん、ミーナが教えてくれなかったら、詰まるところだよ。

飯田 「感情の家」とかよかったですね。こういうのはそのままゲームにもってきてもすごいおもしろい。
米光 ふつうのファンタジーだったら、もっと説明しないとわからないんだろうけど、ゲームの設定だと思って読むとぜんぜんありなんだよね。
飯田 ありあり。
麻野 「感情の家」、もっと細かくやるとどうかなとかヘンなこと考えてしまった。
飯田 笑いながら怒るとか?

麻野 ちょっと足の爪をぶつけてしまった時とか、無駄にいっぱいあって(笑)。パラメータ決めるのもおもしろかったな。「独創性に欠ける」とか言われてしまって。
米光 あれは、うらやましかったなあ。ゲームだと選択肢にするしかないじゃん、知恵とか勇気とか。小説の中だと、言うことができるんだもんね。言わせたいよなあ。それにしても、ほんとにストレートなゲーム。今のゲームってもうちょっとスレてるじゃない、萌え要素がどうのとか。『ドラクエ1.2』くらいの純粋さをそのままに、こんなすごい物語ができるんだっていうのは逆に衝撃だった。
麻野 笑ったのは、ワタルが幻界から現実に帰って来た時に、向こうの衣裳のままで、カッちゃんに「それコスプレか?『ロマンシングストーン・サーガ』じゃん」って言われるところ。確かにコスプレかなあと。剣もってね。子どもだからいいけど、大人だったら捕まるだけですよ(笑)。
米光 ああ、そこでも泣いたなあ。
麻野 泣きつつ笑える。

オーダーメイドにしなくちゃいけないかと思って

飯田 泣き笑いね。さあ、どうゲーム化しましょうか。「ブレイブ・ストーリー公式HP」に宮部さんと大森望さんの対談(現在はアップされていない)があって、オレたち釘をさされてしまったんだよね、ゲーム作家の人たちは導入の部分をゲーム化したいんじゃないかと。……したい!(笑)
米光 確かに、今までのゲームってこの第一部が描けてないんだよね。もしかしたら第二部にあたる部分はがんばってやってる人がいるのかもしれないけど、第一部が描けていないから、欠けてる部分もあるとは思う。
飯田 そうなんだよね。この物語では、ファンタジーの必要性っていうものがきちんと描かれている。こういういいことがあるんだなってわかる。

麻野 オレは、ゲームにするんだったら、オーダーメイドにしなくちゃいけないかと思って。まず、事情を聞いて、ユーザーが何に悩んでいるかを把握する。
飯田 電話で事情聴取?「いのちの電話」だ(笑)。
麻野 電話だけじゃダメ。親しいおじさんの顔とかも取り込まなくちゃいけないから、周辺を取材する。「ぼくの『ブレイブ・ストーリー』をつくって」という依頼に一個一個応えてゲームをつくる。
飯田 個々の問題にたいして、こういうファンタジーを与えるからがんばれよと。
麻野 現世と幻界があるとか大枠の設定は同じ。「愛の貧乏大作戦」みたいな感じで『ブレイブ・ストーリー』をつくる。オレたちは、みのもんたみたいな立場でゲームデザインしていく。ゲームをプレイすることで、じぶんの悩みが解決していくという仕組みのようなものを目指す。高いですよ、何百万円もする(笑)。

米光 それ、ゲームっていうより、セラピーだよ(笑)。 まあいいけどね、一個一個聞いても。でも、たいへんだよ?
飯田 現実的にはテンプレートですよね。
麻野 そうね。10パターンくらいか。
飯田 あとは組み合わせ。
麻野 今悩んでいることを○×でアンケートに答えてもらう。親の不仲で悩んでいる場合は、まんまこの話で。

米光 ……ふつうに、素直にゲームつくろうよ(笑)。
麻野 いや、素直に考えてるんだけどな。ただ、むかつく女はこう、好きなおじさんはこんな顔っていうのも盛り込みたい。顔が同じっていうのは、すごくポイント高いと思うんだよ、この話では。
米光 でも、それは、第一部がきちんと描けていて、感情移入できれば解決すると思う。ああ、このひとは第一部のあのひとだって思えるんじゃないかな。どう描くかっていうアイデアは出さなきゃいけないけど。ゲームで第一部を描くのって難しいよね。
麻野 だからこそ、オーダーメイドになるんじゃない?
米光 オーダーメイドにすると、悩みを話せた時点で問題の大部分は解決しちゃわない? ワタルくんは、冒険に行くまでは、ほとんどわかってないわけで。

飯田 カウンセリングってそういうものだもんね。
米光 オレ、すごく好きなシーンがあって、上巻の44ページに、教室のワタルの机に“極悪”って彫られてるけど消せないっていう。なんでこんなものを彫るのかってワタルはイヤな気持ちになるんだけど、これって『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の主人公が“ファックユー”という壁の落書きを消せないことで、妹が守れないと思っちゃうのといっしょだと思った。両親が離婚することはワタルにとっては理不尽な暴力。第一部のワタルはそれを問題として認識できてないから、イヤだって思うしかない。でもそれは、ほとんどが「いのちの電話」でしゃべっているうちにわかることだと思うんだよね、だから、ゲーム開発期間中に問題を解決しちゃうよ、オーダーメイドのユーザーは。
麻野 うーん。じゃあ、ゲームをすすめるのと平行しながらカウンセリングするしかないか。カウンセラーを用意する……どんどん現実的じゃなくなるけど。でも、そういう要素なしでゲームになるのかなあ。

グラフィックはシンプルなのが似合う

米光 物語をふつうに遊ぶだけで楽しくない?

麻野 それは楽しい。でもそれだと『「スクウェア」に頼めば』ってことにならない? こんだけのストーリーがあって、美麗なグラフィックでやれば、いいもんができるでしょう、恐らく。
米光 オレはグラフィックはシンプルなのが似合うと思った。よく、昔のゲームはドット絵で想像の余地があったから面白かったっていう人いるんだけど、逆だと思うんだよ。たとえば、今の表現で大上段に振りかぶって斬るシーンを、凝ったアニメーションで見せられたら「さっさと斬り返せよ」とかいろいろ想像しちゃうけど、ドット絵だとアニメなしで記号的に斬ってダメージを与えて、余計なことを考えさせなくてすんじゃう。
飯田 この話自体もゲ_ム的な記号性を利用してるよね。第一部は、ワタルの心情がとにかく細かくていねいに描かれてるのに対して、第二部のファンタジーは、エピソードは多いけど、それぞれがあっさりしている。魔道士の服装にも言及していないしね。
米光 RPGやってるひとは好きなRPGの魔道士を思い浮かべてねって感じ。
飯田 そのコントラストのおかげで、ワタルに感情移入して読んでしまう。

米光 あと、この話、児童文学っぽいよね、それもポイント。児童文学っていわゆる愛とか勇気とか描いても、そのことばが手垢にまみれてないっていうか……大人になってからだと愛も複雑になっちゃうけど、児童文学の「愛」には余計なものがついていない。松尾スズキが使う「愛」とは明らかに違うじゃない(笑)。ゲームの記号性と、児童文学のもつ神話性を使って、純粋な愛と勇気を描けてると思うんだ。それを表現するのは、凝った映像ではなくて、iモードぐらいの記号的なドット絵が似合うと思うんだよ。「たたかう」「バシッ」みたいな。
飯田 iモード! 電話だ(笑)
麻野 記号的な絵だったら、現実のだれかに似てるってのもある程度強引に言う事ができる。最初のアンケートで聞けばいいもんね「憎らしい人の特徴は?」「ヒゲが濃い」とか。
飯田 答えることで、登場人物を一致させると。アンケートは重要ですよね。
米光 『マザー』のあれだ。

麻野 「好きな食べ物」とか入力するやつ。あれの細かい心の襞バージョン。
飯田 なんとかペイラインに落ちてきたな(笑)。

現実世界は、ラジオドラマみたいにする

麻野 テーマは悪意と成長でしょう。宮部みゆき作品って、悪意が大きなテーマになってる。『模倣犯』も、絶対悪みたいなものを出したかったんじゃないかなと思うんですけど。悪意に接した人間は傷付いていく、でも、それを乗り越えてみたいなのが凄くあるなあと。だから、ストーリーはなんであれ、悪意とそれを乗り越えていく少年の成長の部分を芯にしたい。問題は、ストーリーは1本でいいんですかね? RPGの部分は。記号性を残すんであれば、グラフィックでそんなに凝らなくていいんであれば、そのぶんストーリーに膨らみをもたす?
米光 1本で十分じゃない? この境遇にぴったりじゃない人にとっても普遍性のあるテーマだし。話の中に枝葉があるのはいいと思うけど。

麻野 そうかもね。じゃあ、問題は、現実世界とファンタジ_世界をどう差別化するかってことか。第二部の幻界のほうは記号的にしていいんだけど、現実世界は、ラジオドラマみたいにするのはどうかな。たとえば、お母さんがお父さんの愛人に掴みかかってるところなんか映像でみたくもないから「あんたねー!」っていう修羅場を耳で聞く。それだけでベッドの下で震える感覚は出ると思うんで。ワタルは目を閉じてるわけだし、耳だけで聞いてるワタルの立場になって、たまらないっていう。
米光 インタラクティブに遊ばせるのは難しいかな?
麻野 難しいし、意味がない。ワタルは受け身であり、向こうから襲い掛かられてるわけだから。幻界に旅立ってはじめてインタラクティブに行動できる。その結果として成長して、強くなって行く。
米光 長いオープニングにするしかないんだよね。
麻野 耳だけで聞くね、iモードでえんえんと。

米光 相当長いよ。
麻野 長さを感じさせないために、どう処理するか? 時々電話かかってくるようにしようか。その電話でストーリーがきける。「ワタル、今何してる?」って感じでお話を聞かされる。「お父さんだけど、もう帰らないから」「えー!」ってなってワタルの立場になって痛感する。そうやって、さんざんイヤな目にあわないと、旅立てない。
飯田 そして、原作のワタルみたいにうまく冒険できないと、『模倣犯』のピースみたいになっちゃう。
米光 お父さんと話すっていうのはきっとリアルだよね、声優がやるにしても。
麻野 電話ごしに、録音テープが回るだけなんだけどね。「今から言うことを聞きなさい」ってね。あとルウ伯父さんからかかってきて「しっかり聞け、今から行くぞ!」という声の向こうから「このままじゃワタルが可哀想だよ」ってお祖母さんの声が聞こえて。

米光 まずい、オレ、泣きそうになってきた(笑)。「出てこいよ、ワタル、ベッドの下から出てこいよ!」
飯田 ガス栓が「シューッ」って開くのが聞こえる。
米光 ぎゃー!!
麻野 最初、塾通いのために携帯電話を持たされたという設定にしておいて。専用機でもいいよ、『ブレイブ・ストーリー』専用機(笑)。アタッチメントくらいでもね。
飯田 ドラゴンフィギュアだ。

米光 専用機いろいろできそうだよね。宝玉を取るとダラララー♪って点灯するランプが付いてる。頑張って4つ集める。
麻野 剣にもなる、よくこんな小さいのに剣が!って驚かれる(笑)。ラウ導師に出会ったところで急にね。

ゲームオーバーはどうする?

米光 電話かかってくるっていうの、いいな! 『中山美穂のトキメキハイスクール』だ。幻界に旅立ってRPG世界になっても、現実世界に戻るところでは、電話をかけられるんだよね!
麻野 そうそう。お母さんと話す。

米光 カッちゃんには「心配してたんだぞ」とか言われてね。現実世界は電話で、ファンタジ_世界はiモードの画面っていうのはいいかもね。
飯田 iモードゲームってけっこうあるけど、携帯電話のもともともってる機能ってぜんぜん活かしてない。それはもったいないと思うんだよね。だって、電話番号がメールに埋め込まれているとすぐかけられたり、結構便利なのに。iアプリでそういうのないよね。
麻野 あれ、たしかドコモが制限してるんだよ。きっとたいへんなことになっちゃうんだよね。でもこのゲームでは、なんかメールがきてもいいな。
飯田 ゲームオーバーはどうする? 幻界で戦闘に負けたとき。
米光 ああ……。お母さんといっしょに死ぬ画面になるのかな。

麻野 「あなたは死にました。」で、ガスがシューシューいう音がして、
飯田 だんだん大きくなって、
米光 ドーン!
麻野 ルウ伯父さんの「ワタルワタル!ワタルー!」という声が遠ざかっていく。
飯田 画面が暗転して新聞が届く。「悲劇!母子心中」。

麻野 それはリアルに?
飯田 そうそう。恐怖新聞みたいに(笑)。
麻野 イヤなゲームだな~。あんまり深刻にせず、直前のセーブポイントに戻らせればいいんちゃう? きついバランスにするんだったら宝玉が一個無くなるとかもできるけど。
米光 いや、きつくしなくていいんじゃない? セーブポイントで気絶してて、キ・キーマが起こしてくれる。
麻野 重要なラストの選択はどうする?

飯田 本を読んでるひとは正解わかっちゃうよね。
米光 違う選択肢に行っちゃうだろうね。
飯田 小説は、ひとつのテーマを語りあげることによって破綻のないメッセージを届けることができるけど、ゲームは、マルチにすることで、どんどんテーマがずれてしまう。
麻野 本のテーマを伝えることをメインにするなら、選択肢になったら、ストーリーと合わない勝手な答えを選ぶと「ほんとにそれでいいか」って何度も聞かれる。しつこく。
米光 昔のイヤなゲームだよね(笑)。でも、そうしないとテーマが活きないよね。

麻野 「世界を我が手に!」が成立しちゃうとね。あれを思い出したなあ、「ドラクエ1」の竜王に聞かれるところ。「世界を半分あげる」って言われて「はい」を選ぶとひどいことになる。
飯田 なんとかゲームとしてはまとまってきたね。
米光 一個だけいい? 音楽のことなんだけど。「平川地一丁目」っていう、12歳と14歳の兄弟のグループがいるんだけど、両親が離婚してて、お母さんと弟、お父さんとお姉さんとじぶんたちと別れて暮してる。「平川地一丁目」っていうのが、まだ家族がみんなでいっしょに暮していた時の地名なのよ。
飯田 うわー!
麻野 きついな~。

米光 歌詞が「あの頃にもどりたい」とか「ぼくは時計で、今は歯車がひとつないから今は動いてないんだよ」とか、両親に異議申し立てをしている歌ばっかしなの。彼らはまだ旅の途中なんだよね、デビューアルバムの発売日が3偶然『ブレイブ・ストーリー』といっしょだったんだけど、オレ、本を読んで泣いて、直後にたまたまこれ買って泣いてた。主題歌はこの中から一曲取って、エンディングは新曲を頼みたい。これを読んで、新曲をつくってもらいたいんだなー。読むと、きっと彼らはすっごい感動すると思うんだよね。
飯田 でも、大人になったらそんなナイーブな歌詞とかかけなくなるんじゃないですか。
米光 そうだよね。解決してもらうのがアーティスト活動的にいいか悪いかはわからないんだよね。でも読んでほしいなあ。オレ、送ろうかな。

ファンタジーとの和解ですよ

飯田 3人の中でRPGつくってないのはオレだけですね。白状すると、実はファンタジーが苦手なんですよ、トラウマがあるんです。ゲーム業界に入ったばかりの頃、某有名和製ファンタジーのゲームの制作にグラフィッカーして参加してたんですよ。で、すごくファンタジーの世界っていうのは決まりが多いんだよってことをうるさく言われてね。オレの描いたエルフ見て「耳の角度が違う!」とか怒られたりね。違うって……そもそも、いないでしょ!?(笑)みたいなところでもめたことがあって。だから、ファンタジーってものについて引いてたんですよ。

麻野 不幸だな、それは。
飯田 でも、『ブレイブ・ストーリー』は面白かったんですよ。この作品は、がちがちのファンタジー主義者からみるとかなり緩いじゃないですか。
米光 宮部さんって作品全体的にそうだと思うんだけど、世界設定よりも、人を、人と人との関係を描くタイプの話を書きたいんだろうなあと思って。たとえば430歳の人がいる世界では、それで文化がどうなってるかといったことにはあまり触れない、つくらない方針にしてると思う。だからこの話も、ファンタジー世界観至上主義な人は、いろいろ言うと思うよ。でも、逆にいえば日本人としてのファンタジーってこんな感じなのかもね、舞台そのものの成り立ちよりも、そこでの人と人の関係が重視される。
飯田 オレがダメだったのは、設定のための設定というか、ファンタジーたるためのファンタジーというものだったんだと思うんですよ。でも、この話では、ワタルの成長を通して、ファンタジックな物語の必要性っていうものが実感としてわかったんですよね、それに、ファンタジー的に立たせなきゃいけないところは、ちゃんと押えているじゃないですか。七本柱のドラゴンとか、ゴーレムとか、そういうのはやっぱりワクワクした。だから、オレにとっての『ブレイブ・ストーリー』は、ファンタジーとの和解ですよ。これからはファンタジーへGO! ですよ。
米光 で、『指輪物語』買って、序章の「ホビットについて」でくじけたりして。

麻野 ありがちありがち(笑)。