高校入試は、通過点に過ぎない それよりも今と、この先を見つめたい

新刊著者インタビュー

2013/7/5

 累計300万部、空前の大ベストセラーとなった『告白』をはじめ、デビュー以来、発表する作品がことごとく映像化されていく作家・湊かなえさん。そんな彼女が満を持してフジテレビの連続ドラマの脚本に挑戦した『高校入試』は、またしても多くの人々に衝撃を与えることに――。そして、その小説版である本書『高校入試』は、ある意味、湊さんのジャンルを超越した、“おもしろい物語を作る力”の凄さを、あらためて思い知らされる一冊になったと思う。

湊 かなえ

みなと・かなえ●1973年広島県生まれ。2007年に『聖職者』で小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビュー。本屋大賞受賞、映画化を経て累計300万部のベストセラーに。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。『少女』『贖罪』『花の鎖』『境遇』『サファイア』『母性』ほか著書多数。
 

「ドラマや映画のノベライズのように、脚本のいわゆるト書きの部分を地の文に直すだけだったらもっと書きやすかったんだろうなと思うんですけれど。でも、それだったらドラマを観てもらったほうがいい。だから私としては、ドラマを観ていた人も観ていなかった人も、また“別もの”として楽しめるものが作りたかったんです。でも、その作業は思った以上に大変で、もしかしたら新しいものをゼロから作る以上に大変でした(笑)。自分のなかにドラマの映像がすでに入ってしまっているので、気を抜くと映像に引っ張られて、それを前提にして書いてしまう。だから“これはドラマを観ていない人には説明不足の描写ではないだろうか”と、その都度、読み返して確認していました。また、ドラマのほうは主に会話で物語をつなげていったんですが、小説ではそれだと読みにくくなってしまう。ですから、どの会話を残して、どこを削るか、それを考えるのも、かなり苦心しました」

ドラマと小説、それぞれのおもしろさを追求すること

 同じく“おもしろい物語”を目指すにしても、当然、脚本と小説では、まったく手法が違う。けれども湊さんはそれぞれにおいて、自身が思うもっとも高いハードルを自らに課した。「ドラマとしてはどうあるのが、おもしろいのか。小説としてはどうあるのが、おもしろいのか。そして、自分のできることとは、いったい何だろう?」。だからこそ、ドラマ『高校入試』と、小説『高校入試』は、それぞれに“別もの”の、けれど、どちらも湊さんならではの、ギリギリするくらいリアルで“おもしろい物語”となったのである。

「なぜ脚本のほうは主に会話で物語をつなげていったかというと、ドラマでモノローグを使うのは、ちょっとずるい気がしたんですね。実際の生活のなかでは、声に出さないかぎり、相手の気持ちなんか聞こえてこない。だから脚本を書くときには、“モノローグで説明して話を進めていかない。主に会話で物語をつなげる”という縛りを自分で決めたんです。そして小説のほうでは、“その人はこのとき、どんなことを思いながらこういう言葉を言っていたのかな”とか、“画面ではこの人が映っていたけれど、じゃあ、それを見ている人はどんな気持ちだったのかな”など、テレビではわからなかったことを描写することに、とくに力を注ぎました。“また別の角度からその物語を見られる”というのが、本=小説のおもしろいところかなあ、と思うので」

 別の角度からその物語が見られる。それはまた、湊作品の魅力の本質を端的に表した言葉でもある気がする。たとえば“高校入試”という誰もが知っている事柄を、まったく別の角度から切り込んでみせる。あるいは教師や生徒や保護者など、それぞれの登場人物の性格や行動や心理をまったく別の角度から暴いて掬い取ってみせる――。そして、この『高校入試』を読むと、あらためて、そんな湊さんならではの視点の鋭さと多角性に圧倒されてしまうのである。

「でも、“高校入試”を書こうと思ったきっかけは、わりと“瓢箪から駒”なんです(笑)。ドラマのお話をいただいたとき、最初は地上波ではなく有料チャンネルの連続ドラマということだったので、あまり予算がかけられない。だから、1シチュエーションで、できたら学校を舞台にして作ってほしいと。それでいかにお金をかけずに、しかも学校を舞台にして、おもしろいものが作れるかということで考えていったときに、“じゃあ、学校が閉鎖空間になるのはいつかな、やっぱり入試の日かな”と。しかも、高校入試というのはほとんどの人が経験しているし、人生の節目になることでもあるのに、入試の日自体に焦点を当てたドラマというのは、あまりない。

そこで、高校入試というものを自分なりに書いてみようと思ったわけなんです。教師でも受験生でも保護者でも在校生でも、絶対、関わる人の数だけドラマがあるはずだし、だからたとえ1日とか2日間の出来事でもきっと連続ドラマになるはずだろう、と。たとえば入学試験はほとんどの人が受けているだろうけれど、でもその後、その答案用紙がどんなふうに扱われるかとか、学校の先生たちがどういうふうにその日をとらえて、どういう仕事をしているかとかは、実はよく知らなかったりしますよね? だから、そういうところもまた別の角度から描いていって、皆さんに興味を持って観ていただけたらいいな、と思ったんですね」

 ドラマ制作の都合上、瓢箪から駒、もしくは苦肉の策でひねり出された“高校入試”という設定。そんな意外な裏話にも、やはり湊さんならではの並々ならぬ発想力=思考回路がうかがえる。ストイックにタフに真摯に、湊さん自身の言葉を借りれば、ひたすら「おもしろい物語を作る人でありたい」と、「物語の果てしなさ」に挑みつづける――。だから、湊さんの生み出す物語は、圧倒的なおもしろさと浸透力を持って、多くの人の心をとらえて離さないのだと思うのである。