高校入試は、通過点に過ぎない それよりも今と、この先を見つめたい
更新日:2013/12/4
近くにあるのに見えてない
盲点の物語に気づきたい
「なんか、おもしろい話が書きたいんですよね。もう出尽くしてるのかなぁ、というような気もありながら、でもどっかにまだ盲点というか、近くにあるのに見えてないものが絶対あるはずだと思って――。だから、これからも気づいていきたいですよね、それに(笑)。たとえば今回も、最初から地上波でという話で、予算ももっとたくさんあるということだったら、全然、別のものができていたかもしれない。だけど、低予算で1シチュエーションでという縛りがあったからこそ、この“高校入試”というテーマに出会えたということも、きっとある――。また、とくに今回でいえば、私自身も、新たな気づきというか、いい勉強ができたと思います。たとえば、ドラマの制作中は、スタッフの方それぞれから、こちらが思ってもいなかったような意外な感想をダイレクトに聞くことができたのも、貴重な経験でした。あ、同じ物語、同じ文章を読んでも、読む人によってこんなに捉え方が違うんだなとか、こんなに人によって正しいと思うことや、好きだと思い入れる登場人物が違うんだなあ、とか。それは、ほんとにいい勉強になりました(笑)」
そして、そんななかから生み出され、紡ぎ出されたこの物語は、きっと読者の心の深いところにも、多くの気づきを与えてくれる。たとえば、周知のことだと思い込んでいたことが実は違っていたのかも、とわかる気づき。たとえば、絶対に自分とは合わない、嫌なやつだと思っていた人が本当はそうでもないかもと思い始める気づき――。そう、たぶん、それも湊さんの作品の醍醐味なのである。
「高校入試はたぶん、ほとんどの皆さんが経験されたことだと思います。だからこの本を読んで、自分にとって高校入試は何だったんだろうと、もう一回、考えていただけるきっかけになったり、あるいは入試ではなくても、何か自分の節目があって、そこで挫折したと思っていることがあるかもしれないけど、それはもしかしたらただの通過点だったのかもしれないと、今一度、自分の節目の出来事を振り返る作品になれば、ありがたいなあと思います。そしてまた、過去がどう良かったか悪かったかというのではなくて、今の話とか、この先、何がしたいのかということが話せる人になりたいなあと、それは書きながら自分でも思いました」
取材・文=藤原理加 写真=冨永智子
『高校入試』
県内一の名門・橘第一高校の入試前日、教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」の貼り紙が。さらに、ネットの掲示板には教師しか知りえない情報が次々と書き込まれていく。そして入試当日。振り回される学校側と、それぞれに思惑を抱えた受験生。はたして犯人は? 謎に包まれた長い長い一日の先に待っていた衝撃の真相とは──。