人気作「舞田ひとみ」シリーズ第1弾(電子版)を無料公開した理由とは?

新刊著者インタビュー

更新日:2013/8/9

インターネット文化に商業の理屈を押し付けるのはおかしい

 実は今回の電子書籍化にあたり、歌野晶午は第1作『舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵』を無料公開することを決めた。一部ではなく丸ごと無料公開というのはあまり例がない、大胆な判断だ。

「自分の過去の作品で埋もれてしまっているものがあり、それをもっと誰もが読めるような形で残したい、とずっと考えていたんです。今回、無料公開を思いついたのは、僕のインターネット観によるもの。もともとインターネットにはいろいろなものが無料で公開されていて、それを交換しあうという文化が成立していました。そこに後から商業的な制限をかけようとしているのが現状です。それは理屈が逆じゃないのか、と。音楽や映像が無料で楽しめるものが多い時代に、「それは法律違反だからお金出してね」って言ってもどれだけユーザーに納得してもらえるのかと。紙とかCDとかの「物」で流通しているものと、ネットで手に入れられるものは分けて考える必要がある、という気がしているんです」

 そうして考えた結果、自分の作品をネット上では無料で読めるようにしたらどうなるのか、という実験をしてみたい気持ちが出てきたのだという。

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「コンテンツをアップすることは個人にもできますが、それを広く知らせる手段がない。だから無理だと思っていたんですが、今回、版元である光文社さんがやってくださることになって。出版社はチャンネルが広いですから影響力も大きい。それならやれるかもと踏み切ったわけです。無料配信なので僕にお金が入ってこないのは当然として、版元にも電子書店にも入らないんですよね。ですから非常に申し訳ないと感謝しています」

 第1作の電子書籍は7月12日以降、各チャンネルで段階的に公開されていく。それから、約1カ月遅れで、第2作の『舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵』が文庫化。無料電子書籍と紙の文庫という連動形式はどんな結果を生み出すのか。

「実験がどうなったら成功なのかは自分でもわからないです。ひとつだけ言えるのは、より多くの人に読んでもらえるチャンスであることは間違いない。だから、みなさん、どんどんダウンロードしてください。“試し読み”って感じで全然かまいませんので。舞田ひとみをみんなの端末のなかに侵入させたいと思っています(笑)」

 

ひとみはこのあとどうなる?興味深い今後

「これは最初から決めていたことですが、シリーズは第4作、ひとみが21歳になったところで終わります。その時彼女は大学生、もうすぐ社会人になるという年齢です。17歳から21歳になる間にいろいろ世間知を身につけているでしょうから、『コモリと子守り』のときとはまた違った形で事件に関わることになりそうです。今はまだ形になっていないので、お目見えするには多少時間がかかりそうですが。このシリーズでは、事件とは関係のない登場人物の日常を書いたり、キャラクターの造形を深く描いたりというような自分の他の作品ではあまりやらないこともやっています。ひとつひとつの事件のトリックも力をいれて考えましたので、推理小説としても読み応えのある仕上がりになっていると思います。読んでいただけると嬉しいです」

 類例のない「舞田ひとみ」シリーズ、まだまだこの先におもしろいことが起きそうである。興味を持ったらぜひ第1弾のダウンロードを。

 

舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵

紙『舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵』

歌野晶午 光文社文庫 720円

刑事の叔父+おしゃまな姪コンビが難事件を解決!
焼け跡から金貸しの老婆の死体が発見された。捜査は難航し、迷宮入りになりかける。その行き詰まりを打破したのは、浜倉中央署の刑事・舞田歳三の11歳になる姪、ひとみの何気ない一言だった。

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舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵

紙『舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵』

歌野晶午 光文社文庫 720円 ※8月7日発売

8月文庫版発売予定!「一肌脱ぎますか」、放課後探偵大活躍!
中学2年生になった舞田ひとみがひさしぶりに再会した高梨愛美璃は、募金詐欺を手がけている怪しい女について調べていた。やがて詐欺女は死体で発見され、ひとみは叔父の歳三刑事に連絡を取る。

 

コモリと子守り

紙『コモリと子守り』

歌野晶午 光文社 1,785円

引きこもりが見てしまった重大事件とは?
17歳の馬場由宇には気になることがある。真裏に立つアパートに、両親から虐待を受けているように見える幼児がいるのだ。ある日、彼はその子が車の中に放置されて脱水症状寸前になっているのを目撃する。子供を救うために取った行動が思わぬ結果を呼んでしまい、彼は幼なじみの舞田ひとみを頼るが……。