元祖“中二病”作家の挑む新たな挑戦とは?

更新日:2013/8/7

 ライトノベルやアニメなどではすっかり定着したワードとなった“中二病”。中二病設定の作品には、自分には何か特別な力があって、その力が目覚めるのを封じ込められていたり、逆にその力を利用して世界を侵略しようとしたりといった展開がよく見られるが、このような設定はいつ頃から流行り始めたのだろうか?

取材=まつもとあつし 文=ゆりいか

 

ビール缶、Tシャツ、電車の吊り広告など変わった場所で連載してみたい

夢枕獏

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夢枕獏
ゆめまくら・ばく●1951年、神奈川県生まれ。『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞、『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞を受賞。著書に「陰陽師」「神々の山嶺」「キマイラ」シリーズなど多数。現在、「小学館eBOOKS」で江戸が舞台の恐竜小説「大江戸恐龍伝」を連載中。
夢枕獏公式ブログ:「酔魚亭」

 1970~1980年代には、現在のライトノベルの源流ともいえるSF・ファンタジーの長編シリーズ小説が数多く発表されブームとなった。

 『幻魔大戦』(平井和正)、『クラッシャージョウ』(高千穂遥)、『グイン・サーガ』(栗本薫)、『吸血鬼ハンターD』(菊地秀行)など数々の作品があるが、そのひとつとして、夢枕獏の『キマイラ』シリーズも挙げられる。氏が約30年もの間連載を続けている同作品は、自分の身体のうちに“キマイラ”という驚異的な力をもつ幻獣を飼っている登場人物たちが、様々な武術をつかって争いながら成長していくという内容で、まさに「くっ…俺の中のケモノが…!」的な中二病感あふれる熱い設定が魅力的な作品なのだ。

 思えば、『陰陽師』『餓狼伝』『サイコダイバー』といったシリーズには、氏の豊富なオカルト知識や、血なまぐさいバイオレンス描写、そして刺激的なエロスなど、中高生なら誰もがはまり込む要素が満載で、そうしたストーリーや語り口に魅了された読者は少なくないはずである。実際、熱い中二病アニメ作品として有名な『天元突破グレンラガン』も、テーマについて氏の作品の影響があるということが脚本家より語られていたり、『マルドゥック・スクランブル』の冲方丁や、『境界線上のホライゾン』の川上稔も影響を受けた作家として氏の名前を挙げていたりと、やはりライトノベル、アニメにも深い影響を与えたことは間違いないだろう。

 そこで、今回、『キマイラ』の連載がニコニコ連載小説で再開されたことを記念して、本人に直接インタビューを敢行。ご本人に自らの中二病観について語っていただいた。

夢枕:「『キマイラ』を書きはじめたのは30歳頃だったんだけど、当時、自分には才能があると思っていたのに周りに認めてもらえず、鬱屈してたんだよ。女性にはモテないし、恨みつらみがたくさんあった。その怒りで突っ走るように書いてたね。10年たつとさすがに全力疾走も辛くなってきたんだけど、このシリーズだけは別格で、書いている間は中二病になるんだよ(笑)」

 まだまだ小説への情熱は衰えを見せないらしく、今でも調子が良いときには1時間に400字詰め原稿用紙10枚を書き上げるのだとか。今年5月に行われたニコニコ超会議でも大勢の人に見られながら10万字の原稿を書くという荒行にも挑戦したほどで、そのパワフルさには敬服するほかない。

夢枕:「時折、インターネットで作品の批判が書かれたりしてるけれど、そうしたものも創作する力に換えている。むしろ、批判してきた人個人に特化して、そのひとのみが気に入るような小説を、自分の力全部使って書くなんていうのも、小説の方法論としてあるんじゃないかな」

 考えてみれば『キマイラ』のニコニコ連載も、はじめてWeb上で、しかも現在人気を博すライトノベル作品と並ぶようなかたちで作品を掲載するという実にチャレンジングな試みである。

夢枕:「もともと『キマイラ』は今年中に連載を再開させる予定だったんだよ。ある時、たまたま食事会でドワンゴ会長の川上量生さんと出会って、彼に『キマイラ』をニコニコ小説で連載しないかともちかけられてね。それ、おもしろそうと思ってやってみようという話になったんだ」

 このように気軽に新しいことに挑戦できるところにも、作品を発表しようという貪欲な思いを感じることができる。

夢枕:「ビールの缶、ユニクロのTシャツの上、電車の車内吊り広告の上でも連載したいね。それからお客さんを集めて、みんなでタイトル、設定、名前を決めながら、作品を書き上げていくなんていうコラボ小説もやってみたい。失敗するかもしれないけれど、筒井康隆さんも昔『実験は失敗することに意義がある』って言ってたし(笑)」

 現在、62歳の作家・夢枕獏氏の胸を熱くする挑戦はこれからも続くことになりそうだ。『キマイラ』シリーズ最新章「キマイラ鬼骨変」はニコニコ連載小説にて毎週水曜日に無料連載され、ニコニコ動画内の「夢枕獏『キマイラ』チャンネル」でも公開されている。この機会に中二病の原点に触れてみてはいかがだろうか?

キマイラ鬼骨変

連載には描き下ろしイラストによる挿絵も!

『キマイラ鬼骨変』夢枕獏 / 無料

待望の新章「鬼骨変」がニコニコで連載開始! ⼰の内に「獣」を秘めた⼆⼈の⻘年を描いた、作家・夢枕獏の“⽣涯⼩説”。1982 年に朝日ソノラマから第1巻『幻獣少年キマイラ』が刊⾏されてから 31 年、これまでに別巻を含めて 18 巻(ソノラマノベルス版〈朝日新聞出版刊〉は本編 9 巻、別巻1 巻)が発売されている。新連載の描き下ろしイラストは“5月病マリオ”や“だろめおん”などニコニコで人気の絵師が担当。

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