かたちを変えるたびに進化してきた『心霊探偵八雲 いつわりの樹』が書籍に!

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

 同じ作品が、ここまで何度もかたちを変えて発表された例は珍しいのではないだろうか。
 神永学さんが小説『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES いつわりの樹』の原型となった物語を最初に書き下ろしたのは、2008年に上演された舞台の脚本のためだった。

神永 学

かみなが・まなぶ●1974年山梨県生まれ。自費出版した『赤い隻眼』が話題になり、2004年同作を改稿した『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』でデビュー。「心霊探偵八雲」シリーズはアニメ化、舞台化されるなど絶大な人気を誇る。他の作品にに「天命探偵 真田省吾」シリーズ、「怪盗探偵山猫」シリーズ、『イノセントブルー 記憶の旅人』『殺生伝 疾風の少年』など。
 

「青山円形劇場で心霊探偵八雲をやりましょう、とお話をいただいたのがはじまりでした。まずは、八雲の世界観を伝えながら役者さんの見せ場をつくるところからスタートしたのですが、最初に96シーン書いたらダメ出しされまして(笑)。あの劇場は真ん中に舞台があって、客席の通路を使わないと役者が舞台へ上がれないので、場面の切り換えが難しいんです。限られた空間で制約も多いなか、登場人物の心情や動きをどう見せるか、非常にいい勉強になりました」

 物語のモチーフとなっているのは、ある神社の境内にある樹齢千年を超える杉の木だ。
 昔、武家の男と恋に落ちた農家の娘がいた。婚姻に反対された二人はこの木の前で待ち合わせ、駆け落ちすることになっていたが、男は来なかった。女は男に裏切られたと思い、首を吊って死んだ。以来、この木の前で噓をつくと、呪われるという噂が立つようになった。その杉の木は、人々から“いつわりの樹”と呼ばれていた。
 以前、神永さんに取材した際、物語を書くときは映像から入ると語っていたことを思い出す。

「この作品で最初に頭に浮かんだのは神社の杉の木です。神社の杉の木って、しめ縄が張られているだけで特別なものになって、意味が生まれますよね。その場所に意味を求めて人が集まると、関係が変化することがある。縁結びの神様や、恋愛が成就するといわれているスポットもそうです。いわばきっかけの場所。そんな場所で、もし石段から人が落ちて死んだときに目撃者がいなければ、事故と他殺のどちらと捉えられるのか微妙ですよね。そんなことを考えながら物語を紡いでいきました」
 

書きたかったテーマは
呪いとすれ違い

 今回、明らかになるのは、「心霊探偵八雲」シリーズでさまざまな事件に関わってきた刑事、石井雄太郎の思いがけない過去だ。真面目で小心者の石井が高校時代にうけていた壮絶ないじめ。杉の木の下で殺されていた男性は、当時、石井をいじめていた同級生の望月だったのだ。望月を殺害した容疑者と現場の目撃者との証言の食い違い、過去に同じ場所で転落死した女性と望月と石井の関係……。
 この作品で書きたかったテーマは呪いとすれ違い。

「石井のなかで、いじめられていた過去が、記憶の改ざんで強調されてしまい、それが自分自身の呪いとなっているんです」

 また、事件の目撃者である望月の婚約者と、その姉の確執も徐々に明らかになる。「血のつながりは絶対きれないからこそ、こじれてしまうと大変なことになる。しかし、肉親だからこそ素直になれない。多くのすれ違いがすれ違いを呼んで、その呪縛が“いつわりの樹”に集約されていくんです」

 重いテーマであるが、あくまで「心霊探偵八雲」シリーズはエンターテインメント。読みやすくかつ、そこにメッセージを込めるよう注力しているいう。
 そして、別件のために神社を訪れていた、死者の魂が見える青年・八雲が、事件の人間関係と呪縛が絡み合うこの謎を解く役割を果たすことになる。すべての謎の鍵を知るのは、死んだ望月だけだ。
 

脚本、新聞連載、小説……とかたちを変えて進化

「舞台版では、僕が思いもしなかった演技をしてくれた役者さんもいました。例えば石井をいじめていた望月はもう死んでいますが、八雲にはその幽霊の姿が見える。だから、舞台上では望月が幽霊の姿で登場しているんです。八雲が関係者を呼んで謎解きをしている間じゅうずっと、望月は無言の演技を続けて、最後にボロボロ泣きながら、自分の恋人に何か言いたそうな顔をして去っていきました。それを見た瞬間、この男のことももっと書かなきゃダメだと思いました。その後、新聞で八雲を連載してほしいという依頼を受けまして、小説として新しく『いつわりの樹』を書かせていただくことになったんです」

 細かく規定された文字数や一話ごとに必ず“引き”を入れるなど、新聞ならではの制約もあった。しかし舞台ではできなかったことが活字では自由に表現できる。ここで一回物語が大きく生まれ変わった。

「新聞連載では、イラストレーターの鈴木康士さんとのやりとりが面白かったですね。鈴木さんは必ず原稿を読んでから絵を描いてくださったので、柱時計など、イメージしやすいものを僕が書くとちゃんと汲み取って描いてくれたんです。逆に僕が書いてないのに、鈴木さんがカラスの絵をポンと入れてきたときは、次の話に入れてみたり(笑)。新聞連載とイラストをそのまま収録した『心霊探偵八雲 いつわりの樹 ILLUSTRATED EDITION』では、そのあたりの二人のコラボレーションも楽しんでいただけると思います。また、新聞連載は一回の枚数が少なくて、細かい心情表現まで描き込めなかったので、今回、文庫版を書くにあたってさらに大幅に改稿しました。新聞連載では悪意のかたまりだった望月を違った描き方にしています」

 さらにこの夏、5年ぶりに舞台版『心霊探偵八雲 いつわりの樹』がキャストを一新して上演される。脚本も出演者のイメージを加味して全く新しくなった。初演の舞台や新聞連載や文庫版とは違う、完全なリメイク版として生まれ変わったのだ。

「こんなに何度も形態が生まれ変わった作品はそうないと思うので、僕にとってはひとつの節目の作品になりました」

 自分のなかにゴールはない、もっと面白くできるはず、と話す神永さん。

「公演を見たらまた何か思いつきそうです」