放送直前『弱ペダ』の原作を本音レビュー。王道、だがそこがいい。 【アニメ原作レビュー】
更新日:2013/10/7
ご存じのように競技自転車を巡る熱血スポ根マンガだ。
この作品をひと言で言い表すのなら、「冴えない主人公が競技を通じて成長する」。おわり。
いや、もうちょっと付け加えるなら、「自転車を通じて仲間ができ、彼らとともに熱い高校生活を送る」。以上。
ごめんなさい。ナメているわけでも批判している訳でもないのだ。事実、作品を読んで非常に感動し、興奮し、涙し、続きが気になっている作品である。
しかし、原作を知らない人にまずこの作品の概要を紹介するとすれば、とてもシンプルなのだ。
少年マンガの王道中の王道、『ザ・成長ストーリー』に撤しているからである。その徹底ぶり、潔さに作品冒頭では面食らってしまった。
原作1巻の表紙。単行本は29巻まで刊行中
主人公は、のび太のように小さくてドジっ子と定番。そしてサイドストーリーがほとんど用意されていない。主要人物の今泉俊輔には、中学時代の挫折という過去があるが、ストーリー本筋に関わってくるのは、かなり進んだ段階からである。
某バスケマンガのように、中学時代の複雑な人間関係が高校で影響することや、野球マンガのように、不良が更生したりはしない。
ただひたすらに、自転車の魅力に取り憑かれ、仲間と切磋琢磨し、勝負に命をかける。今どき珍しいほど駆け引きをしない、とても研ぎ澄まされた作品なのだ。
物語の構成もこんな感じだ。「イントロ→レース→人物の背景描写→レース→レース→レース……」 無駄な描写はいっさいない。ひたすらレースシーンが続くが、毎回ハラハラドキドキさせられる。疾走感あふれる競技の描写にページをめくる手が止まらない。
したがって、イケメンキャラもたいして登場しない。が、しかし、そんなキャラたちが、かっこよく見えてしまう、不思議な作品なのだ。
発表されているアニメのキービジュアル
特に、主人公・小野田坂道への世話焼きキャラである鳴子章吉の存在が、作品に力強さを添えている。
鳴子は、関西弁キャラに二枚目なしという定説通り、ビジュアルはやんちゃの三枚目だ。だが「惚れてまう」ほど痺れる存在だ。
小野田たちが自転車競技部で、「ウェルカムレース」に挑戦するシーン。先行する今泉を追い越すという不可能な挑戦に躊躇している小野田に発破をかける。
「耐えて 耐えて 耐えて ウンコとか鼻血でるまで耐えろ/そうしたら必ず来んねん 勝負の時が/必死に耐えてそいつをつかめ!!」
“少年“と呼ばれる日々をゆうに過ぎた歳になっても胸に迫る言葉だ。漫然と生きていることへの戒め、そして〝やらなければ〟という焚きつけ、〝やればできるかもしれない〟という一抹の希望。読んでいるだけなのにエネルギーを得られるという、スポ根特有の快感に全身震えてくる。
「勇気を与えてくれる」というと凡庸な表現だが、その威力はすさまじい。もったいぶらずにテンポ良く進むストーリー展開、最小限にまでそぎ落とされた描写。気がつくと、バトルという快感の急流に飲み込まれ、あっという間に物語のうずへと吸い込まれてしまう作品なのである。
浅いようでいて深みへと捕らえられる、恐るべき作品だ。アニメでは、疾走感がどのように表現されるのか、いまから待ち遠しい。
アニメ『弱虫ペダル』
◇公式HPhttp://yowapeda.com
10月7日(月)深夜1:35テレビ東京ほか各局にて放送開始。
◇公式Twitter
弱虫ペダル_アニメ
https://twitter.com/yowapeda_anime
(文=武藤徉子)
(C)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/弱虫ペダル製作委員会