黄金時代のニューヨークでGOSICKな探偵小説が開幕!

新刊著者インタビュー

公開日:2014/1/6

桜庭作品の赤が象徴するもの

 桜庭作品では常に色と物語が密接に結びついている。「GOSICK」はそのことを初めて意識した作品だった。

「ゴシック小説なので最初は白と黒のモノトーンの世界から始まって。イラストを描いてくださった武田日向さんの影響もあって、4巻以降で徐々に鮮やかに変化していきました」

 本作を貫くカラーは言わずもがな、赤。ビッグ・アップルの愛称を持つニューヨークの象徴。クランベリーの実の色。ギャングの死体がくわえさせられていた薔薇。次々に血が流れる殺人事件。物語の端々に、鮮やかな赤が見え隠れする。

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「自分が書く小説の中で、赤は一番よく使う色。『赤×ピンク』も『赤朽葉家の伝説』もタイトルからすでに赤が入ってますからね。自分としては原点の色でもあるので、赤から始めたいという気持ちがありました。エピグラフを『赤ずきん』にしたのは色の繋がりもそうですけど、狼に狙われていることに気づいていない無防備な赤ずきんに、“新世界”に来てもFBIやマフィアに目をつけられるヴィクトリカの姿を重ねています」

 せっかく“新世界”に辿り着いても、自由な生活を手に入れても、過去は完全には断ち切れない。夢の中ではいまだに呪縛に苦しめられるヴィクトリカの姿は、桜庭さんが繰り返し書き続けてきたテーマの投影でもある。

「人は過去とどれくらい離れられるんだろう、というのが他の小説を書いていてもずっと自分の中にあって。萩尾望都さんの『残酷な神が支配する』を読んだとき、主人公を虐待していた父が死んで物語が解決するのではなくて、死者が憑依して生者を変えてしまう、死者が自分の中にいるような感覚がずっと続いてしまう恐怖が描かれていて、すごく共感して涙が止まらなかった。過去にあったことが自分を変えてしまったのだとしたら、土地や人から離れても、それらはずっと自分の中にあるんじゃないか、って。両親やオカルト省に象徴される“旧世界”は、そこから離れたヴィクトリカにこの先どう作用していくのか。過去は追いかけてくる敵のようでもあり、そうかと思うと今の自分を優しく守ってくれる味方になることもある。そういうことを『ファミリーポートレイト』や他の作品でも繰り返し書いているのですが、自分の中ではずっと気になっていて答えが出ないテーマのひとつ。「GOSICK」の新しいシリーズを書きながら、これからもその答えを探していくつもりです」

取材・文=阿部花恵 写真=冨永智子

紙『GOSICK RED』

桜庭一樹 KADOKAWA 角川書店 1155円

旧世界に別れを告げ、自由と希望の国アメリカで新生活を始めたヴィクトリカと久城一弥。〈グレイウルフ探偵社〉の看板を掲げることになったヴィクトリカは、新聞記者見習いとなった一弥と共に、ギャング連続殺人事件を調査することになるが……。ニューヨークの街を舞台に、あの名コンビが再び大活躍!