戸次重幸「初めて小説を書いて、戯曲との表現の違いをあらためて痛感しました」

あの人と本の話 and more

更新日:2014/5/2

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、初の小説『ONE』を上梓する戸次重幸さん。「この一年で本との向き合い方が変わった」という戸次さんに、執筆中の苦労や、最近気になる小説についてお聞きしました。

 これまでにもTEAM NACSの本公演やSOLO PROJECTでも戯曲を書いてきた戸次さん。しかし、初めての挑戦となる小説では勝手がガラリと変わり、最初はずいぶん悩んだという。

「とくに難しいのが描写。登場人物の心情だったり、会話をしている時の状況説明だったり。比喩表現にも苦労しました。もちろん、頭の中には映像としてイメージが浮かんでます。でも、それを言葉にして書くことがこんなに大変なことだとは思わなくって。戯曲はちょっとしたト書きがあるだけですからね。おかげで、その後に書いた一人芝居の戯曲は、すっごくラクでした(笑)」

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 小説に書くことが決まってから、戸次さんが最初にしたことは、勉強のために今まで以上に本を読むこと。その習慣は、「読み方」はもちろん、本の「選び方」まで変化をもたらしたそうだ。

「昔は、本屋さんに行っても平積みされている本には目もくれなかったんですよ。好きな作家の新作を追い続けるっていう読み方でしたから。でも、2013年に入ってから話題作やベストセラーにも興味を持つようになりましたね。これは、僕の中でかなり大きな出来事です(笑)」

 ちなみに、そうして出会った小説の中で印象深かった作品を教えてもらうと……。

「後悔したという意味で印象に残ったのは、真梨幸子さんの『殺人鬼フジコの衝動』。これは、本当に読まなきゃ良かった……と! というのもね、本屋さんに行ったら書店員さんが書かれた、“読むと絶対に後悔する!”とか、“読んだ人の後悔度150%”っていうポップが置かれてあって。「そんな本なのに売れてるの!?」って思うじゃないですか。それで……まんまと買ってしまって(笑)。物語が常にマイナスの方向に進むし、残酷な描写もあって、気が重くなる。……それなのに、なぜか続きを読みたくなるんですよね(笑)。続編(『インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実』)も買いましたし、少し前に出た『鸚鵡楼の惨劇』もきっとそのうち買いますよ。たぶん、中毒性があるんでしょうね。もうね、見事に作家の術中にはまってます! 本当に罪な本です!! 皆さんも読むと絶対に後悔しますよ!!!……って書くと、ほら、読みたくなってきたでしょ?(笑)」

(取材・文=倉田モトキ 写真=山下大輔)
 

戸次重幸

とつぎ・しげゆき●1973年北海道生まれ。俳優。演劇ユニット「TEAM NACS」所属。主な出演作に連続ドラマ『宇宙犬作戦』(主演)、舞台『趣味の部屋』『こどもの一生』など。現在『裁判長っ!おなかが空きました』(日本テレビ)に出演中。1月から全国7都市で開催されるTEAM NACS SOLO PROJECT『ONE』で初の一人舞台に挑む。

 

『芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜』書影

紙『芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜』

鈴木おさむ 太田出版 540円

元同級生のお笑いコンビ・イエローハーツは、鳴かず飛ばずで気づけば30歳。焦りを感じた甲本は、相方の田中に互いの心根を伝え合うため、交換日記を持ちかける。やがてそれは2人の心に少しずつ風穴をあけていくことになる……。人気放送作家の鈴木おさむが描く、芸人たちの苦悩や歓びをリアルに描いた感動小説。

※戸次重幸さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

『ONE』

『ONE』書影

戸次重幸 
KADOKAWA メディアファクトリー 1月31日(金)発売 1400円
●2014年1月から上演の戸次重幸一人舞台『ONE』との“コラボ書籍”。オムニバス構成の舞台作品と連動した小説を2013年に「ダ・ヴィンチ電子ナビ」で連載執筆、書籍化。ロードムービー風の「新人研修の日」や、自身が「俺の女性観が詰まっている!」と激白する「知らぬがホトケ」など、バラエティに富んだ短編6作品を掲載。また、舞台上で演じる、各短編にリンクする物語となる戯曲&ロングインタビューも併せて収録。