中村蒼「過酷なシーンを演じるごとに、主人公が好きになっていきました」

あの人と本の話 and more

2014/2/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、どこにでもいる大学生が、転がるかのごとくホームレス生活へと堕ちていってしまう今のリアルを描いた、映画『東京難民』で、主人公を演じた中村蒼さん。新境地の役が自身にもたらしてくれたものとは――?

「現代日本の裏をえぐる社会的なテーマは、これまで僕が係ったことのない作品の色で、修役のオファーをいただいた時“絶対に演りたい!”と思いました」

『東京難民』のクランクインはちょうど1年前。極寒の季節にスタートしたという。

「すごく寒くて、本当にキツかった。けれどその寒さが、厳しさとなって画面に出ることを、佐々部監督は考えられていたんですね。そのことを撮影が終わるまで、あえて伏せてくださっていたことにも感謝していますし、そうした緊張感ある現場に身を置けたことは役者冥利に尽きました」

「誰も現場に台本を持ってこないことがうれしかった」クランクアップ後に監督から言われた言葉も、その喜びを倍増させたという。

「キャストもスタッフも、常に準備ができていたんです。どのシーンをいつ撮っても、大丈夫というくらいに。そういうことが自然にできる、ぴりっとしたチームワークのある現場でした」

 その空気は緊迫感となって、スクリーンから伝わってくる。

「過酷なシーンも多いのですが、それを通して、僕は修がだんだん好きになっていきました。実は最初、彼にどうしても感情移入できなかったんです。適当だし、いろんなことを当たり前に思ういやな奴だなと(笑)。けれど実際、演じてみたら、彼の生命力に圧倒されてきて。考えも甘かったりするけれど、それは人を助けたいという純粋な思いからであったりもする」

 修の“生きたい”という気持ちは、演じる力にもなったという。

「生きることはこれから先に待っているかもしれない数限りない辛いことを受け入れることでもある。そう考えるとおじいちゃん、おばあちゃんたち、年配の方々は、幾度もそれを経験してきたんだなってことにも気付いたんです。本当にすごいなぁと。僕も常に前を向いて生きていきたい。大変な状況になっても、それを逆に楽しめるような強さを持っていたいですね」

(取材・文=河村道子 写真=かくたみほ)

中村 蒼

なかむら・あおい●1991年、福岡県生まれ。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。昨年はNHK大河『八重の桜』、映画『潔く柔く』の好演が話題に。堤幸彦演出による舞台『真田十勇士』が1月7日より上演。主演ドラマ『なぞの転校生』(テレビ東京)が現在放送中。
スタイリング=Daisuke Araki/荒木大輔 メイク=松本 和也(FEMME) 衣装協力=コート3万7800円、ニット2万5200円(ともにbukht /HEMT PR TEL03-6427-1030)、その他スタイリスト私物

 

『リアル』書影

紙『リアル』(1~13巻)

井上雄彦 ヤングジャンプコミックス 620~630円

車椅子バスケを軸に、障害を抱える人々、その周囲にいる人々の生き様を緻密に描き込んだ青春群像劇。最新13巻では、半身不随となった元バスケ部の高橋が、リハビリをともにしたプロレスラー・スコーピオン白鳥の復帰戦に駆け付ける。“社会的弱者”の闘いの中に高橋が見たものとは? 熱いものが胸にたぎる。

※中村 蒼さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ3月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『東京難民』

原作/福澤徹三 監督/佐々部 清 出演/中村 蒼、大塚千弘、青柳 翔、山本美月、中尾明慶 配給/ファントム・フィルム 2月22日(土)より全国ロードショー 
●父が失踪し、授業料未納で大学を除籍、アパートも追い出された修。ネットカフェ難民となった彼はいつしかホストクラブで働くことに。だがその裏を見た彼は無傷で抜け出すことができず……若者たちの姿を通し、格差社会のタブーに容赦なく迫った衝撃作。
©2014『東京難民』製作委員会