NEWS加藤シゲアキ 長編第3作発表「人はいつだってリスタートできる そう信じたいんです」

新刊著者インタビュー

更新日:2014/4/5

書かれている言葉の裏には選ばれなかった言葉がある

 物語の後半、渋谷という舞台ならではの事件が巻き起こる。「渋谷再開発浄化作戦」。行政サイドは、宮下公園のホームレス達を一掃しようと強制排除を執り行う。そんななか、ある人物が意外な行動を起こす。読めば誰もが、そのシーンを脳裏に焼き付けられる。そして、作家が「燃える」を意味する「Burn」を題名に選んだ理由を理解することになる。

「どんなに変わってほしくないと願っても、変わってしまうものは変わってしまう。あのシーンで書きたかったのは、そういった世界の無慈悲な感じです。実はほかにも、随所に火のモチーフを入れています。『ピンクとグレー』をマンガ化してくださった作者さんが、コミックスのあとがきで“湿度の高い小説だった”と書いてくださっていたんですが、確かに読み返してみると水っぽいんですよ。『閃光スクランブル』は、光ですよね。じゃあ『Burn』は火にしよう、ということは最初に考えたんです。自分が燃えるように書きたいという思いも込めていますけどね。“シゲアキ、お前の魂を燃やせ!”みたいな(笑)」

 本作は「かなりの難産だった」という。おおまかなストーリーは早い段階でできあがっていたが、登場人物たちのそれぞれのドラマをどこまで掘り下げるか、悩みに悩んだそうだ。書きすぎると、レイジを軸に描き出そうと試みた「家族」のテーマが沈んでいってしまう。だが、書いてみなければ、個々の心のかたちは理解できない。作家が選んだのは、しっかり書いたうえで、ばっさり削ることだった。

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「例えば、徳さんが過去に何をしたのかということは、本の中には書いてないです。でも、第一稿では3万字ぐらい書いてるんですよ。それをばっさり切った時の悲しみたるや(笑)。じゃあ最初から書かなければよかったかというと、そういうことではないんですよね。書いたうえで削ったからこそ、行間が膨らんだんだと思うんです。書かれている言葉の裏には、選ばれなかった言葉も詰まっているんだな、と。今回改めて、小説というものを学ばせてもらいました」

 加藤シゲアキは笑顔で語る。小説を書くことは難しい。でも、だからこそ、楽しい。

「今回は集大成でもあり、新しいことにチャレンジした作品でもある。今できる自分の全ては詰め込んだと思います。家族って、誰もが経験していることじゃないですか。それを題材にする以上、読む人を選ばずに楽しめる、読みやすい作品にしようって一番意識して。いっても“いい話だったな”ぐらいの感想では終わらないように、香辛料強めなんですけどね(笑)」

〈渋谷サーガ〉最新作を充実の完成度で書き上げた今、ここから、作家はどこへ行こうとしているのか?
「自分を壊したいんです。中途半端に小器用なところがよくない(笑)。もっといびつなものを書いてみたいという気持ちが今は強いですね。次は短編でチャレンジしてみるのも面白いかも。自分はこういう作家なんだというカラーは決めたくないんです。ただひとつ決めているのは、これからも書き続けるということだけですね」

取材・文=吉田大助

紙『Burn. −バーン−』

加藤シゲアキ KADOKAWA 角川書店 1300円(税別)

劇作家の夏川レイジは、蓋をしていた20年前の記憶を思い出す。天才子役だった彼は仕事場では機械のように振る舞い、学校では「透明の耳栓、透明のアイマスク」をしてイジメをやりすごしていた。ある日渋谷の宮下公園で、ホームレスの徳さん、ドラッグクイーンのローズと巡り会う。「お前も魂、燃やせよ」。新しい物語が始まる。