一青窈「今回のシングルに入れた曲は、私の今の状況とつながっています」

あの人と本の話 and more

更新日:2014/5/2

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは新曲「蛍」を3月26日にリリースしたばかりの一青窈さん。オススメの一冊は墨いろも美しい『桃紅えほん』だった。

「『桃紅えほん』を見ていると、墨いろとひと言で言っても、紫っぽい色があったり、ちょっと朱が入っていたり、ものすごくいろんな色合いがあって、きっと桃紅さんも選んで使っているんだろうなと」

 すずりで墨を擦る。
「ちゃんとやろうとすれば、20~30分かかる。でもその時間がくれるものがあるんです」と。文字を書くこと、言葉にすることについて、あらためて考えるきっかけにもなったらしい。

advertisement

「去年の暮れ、ホームパーティをやった時には、友達のひとりが“窈ちゃんをイメージして便箋をつくった”と渡してくれたのが嬉しくて、“じゃあ、みんなに手紙を書きます”って酔っぱらいながら墨を擦って、ひとりひとりに思い出を書いて渡すという儀式をやりました」

 新しいシングルに、なぜ「アンパンマンのマーチ」のカバーが収録されているのか。その理由も、ある出会いがきっかけだった。

「高松にある養護施設を訪ねたのは、ミャンマーで出会った男の子が養護施設で育ったと知ったからでした。最初は子どもたちに全然打ち解けてもらえなくて、いきなり蹴られたりして。でもそれって彼らの愛情表現なんです。かまってほしいけど、たぶん親から受けた仕打ちがそういうものだったりして、普通とは違う反応がやってくる。“そんなこと言わないで手をつなごうよ”と言っても、ぐんぐん逃げていくし“じゃあ、いいよ”って言うと微妙な距離で近づいて遠巻きに見ていたりする。なんだ、どうすればいいんだろうと。何か特別な言葉をかけたわけではないけど、彼らにとってはそういう訪問者ってきっとたくさんいるから“必ずまた来るよ”とか無責任な約束はせず、正直な言葉だけ紡ぐようにして近づいていった感じでした」

 その時に、子どもたちが歌ってくれたのが「アンパンマンのマーチ」。

「そうしたら後日、やなせたかしさんの追悼番組をやるからとNHKに声をかけてもらった。あの時、私は全然一緒に歌えなかったけど、そうだ、『アンパンマンのマーチ』を歌おうと。あらためて歌ったら、この素晴らしい気づきのサビは何だろうと思って。歌っていると自分が元気になるから、あの子たちも歌うんだって、初めて気がついた。それで最初は入れる予定はなかったんですが、入れさせてもらった。歌は私にとって宛名のある手紙みたいなもの。今回のシングルに入っている曲って、そんなふうに私の今の状況とつながっているんですよ」

(取材・文=瀧 晴巳)

一青窈

ひとと・よう●1976年9月20日生まれ。父は台湾人、母は日本人のハーフ。2002年「もらい泣き」でデビュー。その後も「大家」「ハナミズキ」「影踏み」など数々のヒット曲を発表。2004年には侯孝賢監督の映画『珈琲時光』に主演。14年3月26日、シングル「蛍」をリリース。4月26・27日大阪国際音楽フェスティバル「ASIAN STARS SUPER LIVE」に出演。

 

『桃紅えほん』書影

紙『桃紅えほん』

篠田桃紅 世界文化社 ※現在、品切再版未定

1913年大連生まれ。56年にニューヨークに渡り、独自の抽象画の世界を切り開く。2013年に100歳の誕生日を迎えた今も進化を続ける世界的な芸術家、篠田桃紅の初の描き下ろし作品集。桃紅の美の神髄を伝える水墨抽象画「抽象」と新作の書をまとめた「文字」の2冊組。作品に添えられた「桃紅ずいひつ」も素晴らしい。

一青窈さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ5月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

「蛍」

ユニバーサルミュージック 1400円(税別)
●1年9カ月ぶりの待望のニューシングル。新曲「蛍」のほか、中国語&台湾語バージョンの「螢火蟲」、映画『ペコロスの母に会いにいく』主題歌「霞道(かすみじ)」、NHKスペシャル『みんなの夢まもるため~やなせたかし“アンパンマン人生”』で大きな反響を呼んだ「アンパンマンのマーチ」のカバーを収録。