聖地巡礼に異変あり! 大学教授曰く「ヲタは地域格差解消の切り札となる!」

アニメ

更新日:2014/6/5

前回、政府が観光誘致をする機関である「観光庁」が聖地巡礼に注目していることを報じた。

今回は視点を変えてアカデミック界に突撃することに。なんと、聖地巡礼を討論する「学会」が誕生したとのこと。いったいどんな団体なのか。

法政大学大学院・増渕敏之教授が立ち上げたのは、「コンテンツツーリズム学会」。コンテンツツーリズムとは、アニメの聖地、大河ドラマのロケ地など、物語性・テーマ性を含む旅行のことを指す。活動内容は何をしているのか?

「いや、特になにをしているわけではないんだよね。研究者や実業家などいろんな人の間で、共同研究できる場を儲けたいと思って立ち上げただけなんだよね」と、開口一番に脱力発言をしてくれた増淵先生。
 

▲法政大学大学院政策創造研究科、増淵敏之教授。最近感動したアニメは『言の葉の庭』

でも、聖地巡礼って、いろいろなところから、注目されているのでは?

 「聖地巡礼は、今に始まった現象ではないんですよ。平安時代には、歌の枕詞の地名を旅する貴族もいたし、江戸時代『東海道中膝栗毛』を読んで旅する人もいました。映画のロケ地、司馬遼太郎文学ゆかりの地を旅する人もいます。昔からあったことなのです」

確かに、大河小説や朝ドラの舞台などを訪れる人は多い。でも、「アニメ」ってところが、新しいのでは?

「私の知る限り、80〜90年代には、『めぞん一刻』『美少女戦士セーラームーン』の舞台を訪れる人はすでにいました。聖地巡礼は、古くから行われていたんです」と、年季の入ったヲタを匂わせる増淵先生。

では、特に目新しくないのに、なぜ話題になっているのか?

 「それはここ2〜3年、大きなムーブメントになったからです。人・もの・カネが、多く動くようになりました。特にアニメの分野では」(増淵先生、以下同)

例えば、人口がわずか2万人弱の茨城県大洗町。ここで『ガールズ&パンツァー』のイベントがあった際、週末だけで3万人も訪れたという。町の人口を上回る集客ができたという。

以前はごく少数の愛好家の間でだけ楽しまれていた聖地巡礼。なぜここまで大きなブームとなったのか?
その重要なキーワードに、IT化があるという。

 「最近、アニメはデジタル化が進んでいます。背景美術のなかには、ほぼ実写の画像をデジタル処理しているだけの作品が多いです。そのため、作品の舞台を見つけやすくなったのです。
アナログの時代は、美術さんのイマジネーションが含まれることも多かったのですが。
また、情報の“被対象化”が崩れて、誰でも情報発信できるようになってきたこと。つまり聖地を訪れた誰かが、その模様をブログやTwitterにアップ。それを見た人が、自分も行こうと行動する訳です」

ヲタクという少数の人も、インターネットという自由に情報発信できる立場になり、聖地巡礼の楽しさを広げたというのだ。

さらに制作サイドの変化も後押ししているという。

 「制作会社が積極的に、作品の舞台をネタバラシしていますよね。京アニやP.A.WORKSなど、地方の制作会社が活躍していることも背景にあるのかもしれません。
天下のスタジオジブリですら、『コクリコ坂』くらいから、舞台元ネタを発表するようになりましたからね」
 

▲増淵先生の研究室には、サブカル関連の本がズラリ。ヲタを学問できるなんて、おもしろそうだ!

作品の舞台を明らかにすると、制作会社側には、どんなメリットはあるのだろうか。

 「昔の作品作りは、まるで瞬間芸ですよ。ひとつ当たったらまた次の作品をつくる。悪しきビジネスモデルだったと思います。
それに比べ、作品の寿命を延ばすひとつの手段が、ご当地を盛り上げることだと思います。
聖地限定のグッズを販売するなど、作品の寿命を延ばすことは、2次使用料が入ってくるなどメリットがあります」

作品の寿命を伸ばすためにも、制作会社が自治体などに協力をお願いするようになってきたという。 一方、地方自治体にとってはどうだろうか。 

「コンテンツツーリズムと、他の旅行の違いはなにかというと、作品を通して、地域の良さをより深く知ることができることです。普通の旅では、有名観光地を巡り、名産品を食べるなど、一連の行動につながりがありません。しかし、アニメの登場人物の行動をトレースする旅は、ひとつひとつの体験が結びつき、体系付けされやすいのです」

つまり、ただ史跡を見るよりも、作品上でどのような役割を果たしていたかを知りながら現地を訪れる方が、より印象に残りやすくなる。

このように、地域の良さを外部の人に知ってもらえることは、現地の人たちにもいい影響を与えるという。

 「シビックプライドと結びつくこともあります。シビックプライドとは、その地域に対する誇りや愛着を持つことです。この町に住んでいて良かった、舞台となった地元が誇らしい、と思えるため、さらにその地域を良くしようとする取り組みに積極的になることです」

より良い街になる…と言われても、すぐに地元のメリットに繋がるのだろうか? 集客の結果、格段に地域の収入が増えた、という話はあまり聞かないが……。

 「そんなことないですよ。コンテンツの使い方によっては、地元の商店を活性化させることができます」
 

▲マンガの聖地を一同に紹介した札幌の「マンタビ」

実は増淵先生、札幌の観光誘致に参加して、ツアー客を増加させた実績があるのだ。その鍵となったのが、マンガだ。

 「札幌には、いろんなマンガの聖地があるのです。それを利用して観光誘致をできないかと思い、札幌商工会議所と一緒にマップをつくりました。
『マンタビ』という、マンガに登場した札幌のスポットを地図におこしたものです。定番観光地“札幌市時計台”も、『うしおととら』や『みゆき』に登場していたのですよ。それを知ると、嬉しくなりませんか?」

この「マンタビ」のおかげで、市内を巡るツアーができたり、聖地アプリが開発された。あげくは、オリジナルマンガを制作し、札幌のグルメガイド出したという。コンテンツの力を持って、地元の商店街にも収益という還元を行っているのだ。
 

▲札幌のグルメスポットをマンガ形式で紹介した『札幌乙女ごはん』

聖地の使い方次第では、地域へ潤いをもたらすことも可能だ。しかし、「アニメ」というサブカルチャーを町の看板に据えることに、戸惑う住民も多い。

歴史や思い入れのある土地と、聖地の共存はできるのだろうか。

 「できますよ。そのいい例が”湘南”です。湘南という地名はどこにもありません。しかし、湘南といわれる藤沢市などは、住みたい・訪れたい街として人気があります。
古くは明治時代の文化人に愛された土地です。昭和に入ると、『太陽の季節』、「サザンオールスターズ」で人気。またマンガ『ホットロード』の聖地でもあります。
それぞれの時代の良さが、層のように重なって、魅力を増しているのです。
  その結果、人口も増え、観光客もひっきりなしに訪れます」

最近のアニメでは、地域の歴史的建造物も描かれることがある。地域の歴史を肯定し、紹介する作品であれば、抵抗感なく住民に受け入れてもらえるのかもしれない。
先の「ガルパン」の例など、いくつかの成功と失敗体験を経て、今後もご当地アニメの制作は活発になりそうだが……?

 「いい作品なくして、聖地は生まれません。同じく、魅力ある土地は、些細なきっかけでブランド化していきます。自治体や制作サイドには、あまり仕掛けをせずに、各々の魅力を磨いてほしいですね」
 

▲札幌では、ARの技術を使い、マンガの舞台が見えるスマホアプリも開発された

都市と地方の格差が拡大するなか、アニメは地方活性化の新たな切り口といえる。
総体的に見ると、まだまだマイノリティな存在なヲタだが、我々やアニメの力で、格差社会の是正という社会問題の解決の糸口にもなるのだ。

観光庁へのインタビューに続き、二回に渡ってお送りした「聖地巡礼」企画。いかがだっただろうか? 国内だけでなく、海外からも、都心だけでなく、地方からも「有効な観光資源」として注目されているアニメという誇れるコンテンツを、もっと活用できる方法を皆さんで考えてみようではないか。

<完>

■ ヲタを学問できる増淵先生の大学院はこちら
 

 
法政大学大学院政策創造研究科。増淵先生は、経済・文化・観光地理学がご専門

公式HPはこちら
http://chiikizukuri.gr.jp/


■ こちらもチェック

・マンタビ 札幌まんがWEB
http://mantabi.net

・コンテンツツーリズム学会
http://contentstourism.com/

(取材・文=武藤徉子)