藤木直人「原作が村上春樹さんで、演出が蜷川さん…。最初は状況がよくのみ込めませんでした(笑)」

あの人と本の話 and more

公開日:2014/5/7

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台『海辺のカフカ』の出演を控える藤木直人さん。初の蜷川舞台に挑む今の心境、そして村上春樹作品への想いを語っていただきました。

 舞台出演2作目にして、蜷川幸雄演出作品に挑む藤木さん。初めて観た舞台は真田広之主演の『ハムレット』だった。

「スタイリッシュで、かっこよくって。以来、蜷川さんの舞台はよく観ています。歳を重ねても、今なお精力的に活動されていて。むしろ、昔よりもエネルギッシュな舞台を作っている(笑)。本当にすごい方だなと思います」

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 経験はあまりないが舞台はよく観ている藤木さんにとって、今回のオファーは夢にまで見たものだった。だが、二つ返事で即答できなかったのには理由がある。

「蜷川さんの演出というだけでも十分すごいことなのに、原作が村上春樹さんで、しかも海外公演を行うこともすでに決まっていて。あまりにスケールの大きすぎる話に、最初は状況がよくのみ込めなかったんです(笑)。それに、舞台は僕にとってまだまだ未知の世界。映像だと編集やカット割りなどで多少はごまかしが効くところも、舞台は全身を見られているわけですから逃げ場がない。その世界にもう一度踏み込むことに多少の不安があったんです。とは言っても、経験してみないことには、何も分からないのも確かですからね。どんな結果になろうと、自分の人生にとって、やってみて損はないとも想いましたので、思い切ってチャレンジしてみることにしたんです」

 ところで、村上春樹作品についてはどのような印象を持っているのだろうか?

「初めて読んだのが、確か『海辺のカフカ』だったような気がします。その後、『1Q84』が発売された時に、周りがあまりに騒ぐものだから、読んでおいたほうがいいのかなと思って手にしたんですよね(笑)。この2作については、読み始めたらエンターテインメントとしても素晴らしいなという印象で、あっという間に読み終えました。それから過去の作品もさかのぼって読んでみたのですが、抽象的だったり、非日常的だったり、あえて答えを明確に描いていないところが多く、初めて体験する世界観に面白さを感じました。ただ、舞台と小説では、また別物だと思っています。小説では美しく感じる村上さんの文体が、生身の役者がセリフとして発することでどのような印象を生み出すのか……。そこは僕もすごく楽しみにしているところですね」

(取材・文=倉田モトキ 写真=山口宏之)

藤木直人

ふじき・なおひと●1972年千葉県出身。俳優、ミュージシャン。95年、映画『花より男子』でデビュー。その後ドラマ、映画など数多くの作品に出演。近年の主の出演作としては「ホタルノヒカリ」シリーズや『ラスト・シンデレラ』などがある。またミュージシャンとしても活躍する一方、トーク番組のMCなども務めている。
ヘアメイク=大橋八千代 スタイリング=チェルシーフィルムズ

 

『グレース』書影

紙『グレース』

源 孝志 文芸社 1600円(税別)

結婚して7年目。希久夫は妻の美奈子との間にすれ違いを感じるようになってきた。そんな矢先、美奈子が事故でこの世を去ってしまう。妻が遺した愛車に乗り、カーナビを立ち上げた時、そこには美奈子が生前に巡った希久夫の見知らぬ土地への履歴が。妻の行動を確かめるべく、希久夫は同じルートをたどる旅に出る。

藤木直人さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ6月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

『海辺のカフカ』

演出/蜷川幸雄 原作/『海辺のカフカ』村上春樹 脚本/フランク・ギャラティ 出演/宮沢りえ、藤木直人、古畑新之、鈴木杏、木場勝己ほか 6月1日(日)より彩の国さいたま芸術劇場ほかにて上演
●少年カフカは15歳の誕生日に「世界で最もタフな15歳になること」を決意し、家を出る。やがて四国の図書館で母親と思われる佐伯や司書の大島と出会ったカフカは、彼らに導かれながら父親にかけられた“呪い”と向き合っていく。