河原雅彦「なんでも俯瞰で見ちゃうんです。だから、人間観察にはちょっと自信がありますよ」

あの人と本の話 and more

2014/7/5

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、現在上演中の舞台『カッコーの巣の上で』の演出を手がけた河原雅彦さん。「人間観察が大好き」と話す河原さんが学生時代に実践していた驚きのエピソードとは――?

 役者、脚本家、演出家と多岐にわたって活躍する河原雅彦さん。とりわけ演出家としての活動の幅は広く、商業演劇からパンクオペラ、さらには大人のラブコメミュージカルまで、ジャンルを問わず手がけている。
 その河原さんが演出をする上で心がけていることは、「俯瞰の目を持つこと」だという。

「作品に対してどっぷり感情移入したり、のめり込んで考えるタイプじゃないんです。『消された一家』のようなルポを読むときでも同じで、人間の行動や心を観察するように追っている。これはもう、クセですね。普段の生活でもそうですから」

「取材で語って得することはまるでないですけど、人間観察には昔から自信がありますよ(笑)」と河原さん。それを証明する、あるエピソードを教えてくれた。遡ること、学生時代の話だ。

「高校卒業後に実家のある福井県から大学進学のために上京し、そのとき心に決めていたのが、この4年間は遊びつくすぞ! ってこと。だから授業もさぼり、レポートも書かないというのが僕の中で決めたルールでした。でも、それだと卒業できませんよね? ですから、科目ごとに最初の1〜2回だけは授業に出て、そこで女の子を観察するんです。で、僕の代わりにレポートを書いてくれそうな子を探す(笑)。それで実際、本当にレポートを一枚も書かなかったですね。あ、でも唯一、卒論だけは書きました。大好きな寺山修司さんについてだったので、それだけは自分で書きたかったんです(笑)」

 その逸話を聞き、程度の差こそあれ、相手の心理を上手く利用する姿は『消された一家』の犯人と少しだけダブって見えた。そのことを伝えると、「まぁ……近いところはあるかな」と苦笑い。

「僕はあくまでコミカル版ですけどね(笑)。それに、『消された一家』の松永(主犯格)の恐ろしいところは、逮捕されるまで一度も失敗していないってことなんですよね。僕は何度も失敗しています。女の子に包丁を振り回されたこともありますから(笑)。その意味では、いくら人間を観察するのが得意といっても、松永ほど人の心を掌握できない。言ってしまえば、僕は凡人ですよ(笑)」

 それでも、河原さんが今日の日本の演劇界を支えるクリエイターの一人であることは間違いない。

「今思えば、演劇があってよかったです。だって、僕にとってこれほど打ち込めるものは、この人生でほかにないですもん。もし、演劇がなかったから結婚詐欺師みたいな犯罪者になっていたかもしれないって、本気で思う時があるんですよね。いやぁ、あぶない、あぶない(笑)」

(取材・文=倉田モトキ)

河原雅彦

かわはら・まさひこ●1969年、福井県生まれ。俳優、演出家、脚本家。92年に劇団「HIGHLEG JESUS」を結成、2002年の解散までほぼ全作品の作・演出を手掛ける。06年に演出を手がけた『父帰る/屋上の狂人』(菊池 寛/作)で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。最近の舞台演出作にねずみの三銃士『万獣こわい』など。

 

『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』書影

紙『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』

豊田正義 新潮文庫 550円(税別)

1人の男性と一家6人を監禁し、はては家族同士に殺し合いまでさせた日本の犯罪史に残る壮絶な殺人事件。最初の被害者の死から一人の少女が警察に保護されるまでの6年間、主犯の松永太がいかに人間の心を操り、被害者に逃亡されることなく罪を重ねていったのか──。徹底取材の下、その全貌を追った渾身のルポ。

※河原雅彦さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ8月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

舞台『カッコーの巣の上で』

原作/ケン・キージー 脚本/デール・ワッサーマン 上演台本・演出/河原雅彦 出演/小栗 旬、神野三鈴、武田真治、大東駿介、吉田鋼太郎ほか 8月3日(日)まで東京・東京芸術劇場、8月6日(水)〜17日(日)兵庫・兵庫県立芸術文化センターにて上演
●マクマーフィは刑務所の強制労働から逃れるため精神異常を偽り精神病院に入る。が、患者に対する非情な管理体制に憤りを感じた彼は自由を勝ち取るため闘いを挑むことに。