橋本 愛「頭で理解していても、実は知らないことってたくさんある。それを実感したロケでした」

あの人と本の話 and more

公開日:2014/8/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、主演映画『リトル・フォレスト 夏・秋』が公開間近の橋本愛さん。四季を通しての東北ロケから彼女が受け取ったものとは?

 映像が、音が、ずんずん身体に沁み入ってくる。みずからが育て収穫した作物で調理した食事を、橋本さん演じるいち子がもりもりと胃袋におさめていくシーンは観ているだけで気持ちがいい。きっと心の栄養にもなっているだろう。

「1年にわたる東北ロケに入ったときは何事もすごく新鮮で。歳をとったら、自給自足の生活をしてみたいと思っていたほど田舎が好きなので、いち子の家を初めて見た時はあまりに素敵で興奮してしました。けれど、小さな頃からこの暮らしに馴染んでいるはずのいち子を演じるためには、そういう浮き足立った気持ちは取り除いていかないとなって。あの場所が大好きだったので時間はかかったのですが、美しい景色に飽きてきた頃に、“馴染んできた”という感触が生まれてきました」

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ひとり暮らしのいち子の場面は、ひとり芝居が多い。

「独り言のセリフは難しかったですね。でも、以前は私も多かったんです、独り言。謎ですよね。言葉が自分からこぼれたあとで考えても、独り言ってよくわからない。どういう隙間に言っちゃうんだろうって考えながら演じていました。自然に穏やかな感じで口から湧いてきてるように」

自然の恵みが満ちた集落での暮らしは憧れにもつながっていく。“言葉はあてにならないけど、私のからだが感じたことは信じられる”という、いち子の言葉がそこに重なる。

「頭で理解していても、実は知らないことってたくさんある。それが響いてくる言葉ですよね。一方で、私は言葉が好きだし、自分の身体が追いついていないことでも、言葉で知って言葉で想像して生きていくというのも好き。どちらが正しいということもないけれど、“からだが感じたことは信じられる”という言葉からは、生身で生きることの強さを感じました」

四季を巡る4部作は、五感を刺激するさまざまな誘惑に満ちている。

「料理の場面で“私も作ってみようかな”と思ったり、自然の雄大さを感じてどこかにでかけたくなったり。観た方の生活に少しでも変化が生まれたらうれしいですね。自分の居場所を探し続けるいち子の人生に、私はすごく愛着があるので、彼女は何を選ぶのか、そこも見届けてほしいなと思います。来年2月に公開される『冬・春』編のラストでは、神楽を舞ってます。あの場面はほんとにほんとに頑張ったので、どんなふうに撮れているのか楽しみです」

(取材・文=河村道子 写真=冨永智子)

橋本 愛

はしもと・あい●1996年、熊本県生まれ。2009年『Give and Go』で映画デビュー。10年、映画『告白』で注目を浴びる。日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、数々の賞を受賞。13年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』出演。映画『渇き。』が公開中、フジテレビ開局55周年ドラマ『若者たち2014』に出演中、公開待機作に『寄生獣』。
ヘアメイク=大川雅之 スタイリング=森上摂子(shirayama office) 衣装協力=ワンピース 4万8000円(税別)(ワイエムウォルツ/マービン&ソンズ TEL03-6379-1936)、バングル 9000円(税別)(chibi jewels/ルック TEL03-3794-9139)

 

『生きてるだけで、愛。』書影

紙『生きてるだけで、愛。』

本谷有希子 新潮文庫 370円(税別)

鬱から来る過眠症で引きこもり気味の寧子は、津奈木と同棲して3年になる。人とも社会ともうまくいかず、適応できない25歳の自分に不安と苛立ちを抱える日々─そこに割り込んできたのは津奈木の元恋人。その女は寧子を追いだすために、執拗に自立を迫るが……。途切れることのない愛の叫びが胸を突く衝撃作。

橋本愛さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ9月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

 

映画『リトル・フォレスト 夏・秋』

原作/五十嵐大介『リトル・フォレスト』(講談社ワイドKC) 監督・脚本/森 淳一 出演/橋本 愛、三浦貴大、松岡茉優、温水洋一、桐島かれん 配給/松竹メディア事業部 8月30日(土)公開
●自分の居所が見つけられず、東北の集落・小森に帰ってきたいち子。畑仕事をし、野山で採った季節の食材から食事を作る。そんな生活の中で彼女は生きる力を充電していく──。
(c)「リトル・フォレスト」製作委員会