“永遠の33歳”が34歳になった時、探偵生命をかけた謎の扉が開き出す【内田康夫インタビュー】

新刊著者インタビュー

2014/8/6

 衝撃のニュースが浅見光彦ファンの間を駆け巡ったのは2010年秋のことだった。“浅見光彦最後の事件”の執筆を始めた──内田康夫さんからのコメントは読者を仰天させた。“えーっ! シリーズ、終わっちゃうの!?”。さらにその作品では“永遠の33歳”浅見が34歳になる、と。“それって一体!?”。

内田康夫

うちだ・やすお●1934年、東京都生まれ。80年『死者の木霊』でデビュー。82年、名探偵・浅見光彦が登場する『後鳥羽伝説殺人事件』を刊行。シリーズは本作で115作目に。2007年、著作累計部数が1億冊を突破。08年、第11回日本ミステリー文学大賞を受賞。“信濃のコロンボ”竹村警部シリーズなど著書多数。
 

 その謎がついに明かされる時が来た。構想6年、執筆期間4年をかけた大長編『遺譜 浅見光彦最後の事件』刊行! 作品を前に、内田さんは穏やかな、だが意味深な笑みを湛えている。

「そろそろ彼も変わる時期じゃないのかなぁと考えました。33歳までは青年で通用しますけど、それ以降は完全な大人だと。そうすると、34歳からの浅見は立ち位置も変わってくるだろうし、どういう活躍をするのか。それに彼にはずっと見ないふりをしてきた結婚問題もあるから、そこも重大ですしね。この作品では、これまで作品に登場してきた女性たちの紹介もしているんですよ。惜別の情を込めて、ね」

 シリーズ完結宣言と受け取れなくもない言葉で、またしても煙に巻かれてしまう。本作の存在自体がすでにミステリーだ。

 ストーリーは、34歳を祝う誕生パーティへの謎の招待状が浅見家に届くところから始まる。発起人代表は本沢千恵子。『高千穂伝説殺人事件』で見合いをした、ちょっと気の強いところが魅力のバイオリニストである。訝しがりながら赴いた軽井沢の会場には、『横浜殺人事件』の藤本紅子、『長崎殺人事件』の松波春香……そして結婚相手の大本命?『平家伝説殺人事件』の稲田佐和と、これまでの作品に登場したヒロインが続々と駆け付ける。さすがに長身イケメン、代々続く官僚一家の次男、類まれな探偵手腕を持つ浅見への、女性たちからの視線は熱い。

「全員揃えようかと思ったけど、あまりにもやかましくなりそうなので(笑)、主だった人だけを。これまでのシリーズを読まれている方には、さらに楽しんでいただけるかと思います」

 もちろん“軽井沢のセンセ”もやって来る。編集嬢にカンヅメにされていたと遅刻の理由をボヤきながら。

「実際の僕はカンヅメどころじゃなかったんですよ。本作執筆のためのカンヅメは“流刑”だったんです(笑)」

 実は、本作の執筆はすでに今年初めに終わっていたという。そして内田さんは3月から晴れて、趣味である、船による世界一周旅行の旅へ赴くことが決まっていたのだが……。

「いったん脱稿はしたものの、考え出すときりがなくなってしまった。“まだ足りない、物足りない”と。結局、1から書き直すのに近い形になりまして。けれど船の旅をキャンセルすると大損害ですからね。船上で書くことになりました」

 パース、リスボン、サザンプトン……船が寄港するタイミングで編集者と合流、打ち合わせや校正をし、船旅のほとんどを費やして、執筆されたストーリーは、世界中を巡りながら描かれたものとなった。「なんということでしょう」と苦笑する内田さんだが、それは数多の謎の糸が、時代と国を超えて絡まり、異なる景色を次々と見せていく本作誕生の場所としてふさわしいものに思えてならない。