もはや現代病? アニメファンの「難民」問題、PADSについて 【コラム】

アニメ

更新日:2014/8/7

みなさんは、アニメファンの間で語られる「難民」という言葉をご存知でしょうか。「難民」とは、本来は様々な事情で祖国に居られなくなった人々のことを指すのですが、アニメファンの場合は前シーズンに放送していたアニメの視聴者が、新シーズンになって別のアニメに癒しと楽しみを求める人たちを指しているようです。

今回は、この「難民」について、歴史と発生原因、その症状を探ってみましょう。

■ 難民って、いつから?

初めて難民が誕生したのは2013年春に放送されたアニメ『ゆゆ式』からだと言われています。しかし、そもそも難民は、それ以前の日常系作品『らき☆すた』や『みなみけ』、『ひだまりスケッチ』、『けいおん!』の放送時から存在していました。
匿名掲示板「2ちゃんねる」のアニメ実況板や「ふたば☆ちゃんねる」の二次元裏でも、最終回直後に作品を心から愛したファンたちの絶望と悲哀の叫びが飛び交っていましたが、『ゆゆ式』が難民誕生の発端と言われているのには、3つの理由が考えられます。

①難民という用語がファンの間に認知され、定着した『常用化』
②難民の一極集中と共感及び結束による『集団化』
③苦悶や煩悶をTwitter等に表現するようになる『顕在化』

特にソーシャルメディアの普及とニコニコ動画の隆盛により、いままで特定の場所に存在していたアニメファンが誰もが閲覧する場所でつぶやいたり、コメントすることで、認知と拡散がしやすくなったのが主な原因と考えられます。

それまでは漠然と「自分と同じ気持ちの奴がいるなぁ……」と感じていた人々が、他の人の発言を見て「そうか、自分は○○難民だったんだ!」と自覚し、「同志だ!」と結束し始めたのが『ゆゆ式』の直後だったのでしょう。

そう考えると、この難民問題はネットメディアの進化と発展の歴史とも言い換えることができます。

■ 増え続ける難民たち

『ゆゆ式』以降、難民は増加の一途を辿ります。発生源の主は日常系アニメ、いわゆる『可愛い女の子たちのなにげない日常を切り取ったアニメ』に萌えと癒しを求める人々であり、同系統のアニメへと大移動を開始しました。
2013年夏に放送された『きんいろモザイク』、2013年秋の『のんのんびより』とシーズンごとにそれぞれの難民キャンプを形成し、それらの作品のファンも取り込みながら、その数を膨れ上がらせていきました。
例え、シーズンの切り替えで避難先が見つからずに離散しても、次のシーズンで日常系アニメが放送されれば、また自然発生的に集まってくる特徴があります。
現に2014年春の『ご注文はうさぎですか?』では、これまでで最大の難民キャンプが形成され、こころぴょんぴょんブームがあったのは皆さんの記憶に新しいことと思います。

(参考)ニコニコ動画には難民キャンプ用の動画がアップされています。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm22066262
タグには「みんなの愛したゆゆ式」「ここをキャンプ地とする」「ゆゆ式2期……制作……決定(涙目)」と、ゆゆ式の二期を希望する声で溢れています。


■ 難民発生のメカニズム

何故、難民は発生するのか。それにはPADS(Post Anime Depression Syndrome;ポスト・アニメ・デプレッション・シンドローム)という心理現象が関係しています。日本語では「アニメ燃え尽き症候群」ともいわれます。

この燃え尽き症候群は一種の心因性うつ病とされ、精神心理学者のハーバート・フロイデンバーガーによると、持続的なストレスに起因する衰弱状態により、意欲喪失と情緒荒廃、疾病に対する抵抗力の低下、対人関係の親密さ減弱、人生に対する慢性的不満と悲観、職務上の能率低下と怠慢をもたらす症状とされています。

毎週楽しみにしていた日常系アニメが最終回を迎え、それまで作品から得ていた癒しの供給が途絶えたことがストレスとなって、朝起きられない、会社または職場に行きたくない、アルコールの量が増える、イライラが募るなどから始まり、無関心、過度の消費などストレス発散のはけ口を求め、最後には仕事や学業からの逃避などが見られるようです。唯一、効果的な治療法はおそらく「アニメを見ること」のみ。これが難民現象を引き起こす最大の要因と考えられます。

ちなみにこのPADSという言葉は、海外のアニメフォーラム(http://myanimelist.net/forum/?topicid=622821)でも使われており、全世界のアニメファンが抱える、いわゆる現代病になりつつあるのです。

■ 難民のメリットとデメリット

難民の移動は先住民との間に軋轢を起こすこともしばしばあります。例えば今期の新番組『ハナヤマタ』では、『ごちうさ』難民が集まり、ニコニコ動画のコメントが荒れるという事態が起きました。
難民の受け取り方は人によって様々ですが、新番組をその代用品のように扱ったり、作品を比較して、物足りない、つまらないなどの発言する難民に反発心や不快感を持つ者も少なくないようです。

しかし、難民問題はデメリットだけでなく、メリットもあります。うまく難民を作品に引き込むことができれば、多くの視聴者、支持者を得ることができます。現に難民が大量発生した作品は、商業的も成功しやすい傾向があります。さらに原作の売上げがアップしたり、第二期が決定されたりと作品愛が深いからこそ、その波及効果も絶大です。

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▲(左)きんいろモザイク、(中)のんのんびよりは二期の製作が決定。(右)ご注文はうさぎですか?は春アニメでも上位のセールスを記録しました。

これらの問題を解決する方法として、いくつか考えられますが、ひとつは作品を続けることです。例えば、30分アニメ1クールではなく、5分アニメで4クール放送するなど、放送期間を延ばすことです。実際に難民の悲痛な叫びの中にはこのような要望が多くあがっています。

他には、OVAを定期的に、比較的短いサイクルで発売することでしょう。しかし、製作側もいつまでも同じ作品を作り続けることは難しく、特に原作のストックが枯渇することが考えられます。

日常系アニメが支持され、市民権を得るようになった現代のアニメ業界において、今後はこの難民問題が度々と話題になるかもしれません。

できることなら、難民も先住民も関係なく、日常系以外のアニメも幅広く楽しめるといいですね。

なお、当コラムはアニメ難民を非難するものではございません。


愛咲優詩(ラノベ365日